フェイクニュースの見分け方

8月22日、朝日新聞朝刊にこんな見出しの記事が出た。

「政治ジャーナリズム、あるべき姿は ジェフ・キングストン氏に聞く」

「日本の『報道の自由』をテーマにした編著もあるジェフ・キングストン米テンプル大日本校教授(現代アジア史)」へのインタビューである。

ここでキングストン教授は、日本政府は「メディアを萎縮させる力」を持っており、それゆえに記者の所属する組織の上層部からも、現場の記者には「圧力」がかかる、だから記者は自粛する、と自らの見立てを語っている。

さらにキングストン教授は、日本と比べると米国にはまだまだ「力強い報道の自由」があるとし、日本のメディアも権力のラップドッグ(愛玩犬)ではなく、ウォッチドッグ(番犬)たるべし、とアドバイスを送っている。

いい加減やめてください!

要は、朝日新聞の記者が「ジャーナリズムのあるべき姿」について、アメリカの偉い学者にご意見を賜ったという記事である。

朝日新聞社に17年間勤務し、現在はフリーで活躍している烏賀陽弘道氏(54)は、古巣のこの記事に対して、ツイッターでこう批判した。

「こんなこと、日本人記者が自分で書けばよいでしょう。何でアメリカ人に報道の自由のお手本を仰ぐ必要があるんですか? こういうカビ臭い欧米崇拝はいい加減やめて下さい」

実のところ、朝日新聞がキングストン教授の主張に賛同するのならば、まずはファクトに基づいた報道を地道に重ねればよいだけのこと。また、キングストン教授は、記者クラブ制度に問題があることも言及しているのだから、賛同するのなら率先してクラブからの脱退を表明すればよい。きっと喝采を浴びることだろう。

『フェイクニュースの見分け方』烏賀陽弘道[著](新潮社)

代理話者という存在

自分たちが言えないことを、外部の識者に言わせることで記事を仕立てる。こうした手法で登場する「識者」「コメンテーター」を烏賀陽氏は、著書『フェイクニュースの見分け方』の中で、「代理話者」と呼び、その手の記事を厳しく批判している(以下、引用は同書より)。

「『根拠となる事実を取材してとらえる』ことができなかったとき、『記者が事実を書く代わりに、その媒体が言いたいことを発言する話者』を私は『代理話者』と呼んでいる。

それは『コラム』の形を取ることもあるし『識者談話』『コメント』『識者はこう見る』『座談会』『オピニオン』などの形を取ることもある」

そして、こうした「代理話者」のオピニオンはファクト(事実)に近づく上では、まったく役に立たない、事実を取材で得ることができなかったという意味で記者にとっては敗北だ、と言う。

「本書の趣旨である『マスメディアからより事実(ファクト)に近い情報を見つける』目的からすれば、オピニオンは全部捨ててよい。

『根拠となる事実は提示されているか?』を先にチェックして、なければ、ゴミ箱に直行。新聞やテレビでもインターネットでも、メディアは問わない。私は普段そうしている。それで何も困らない。

職業上も私生活上も不利になったことはないし、不便をかこったこともない」

烏賀陽氏は、同書で、「安倍政権がメディアに圧力をかけている」という説を検証し、少なくともよく取り沙汰される「ニュース番組のキャスター、コメンテーターが圧力で降板した」という類の話は、すべて「根拠となる事実を欠いたオピニオンに過ぎない」と結論づけている。確かに、この数カ月の報道を見る限り、どこに「圧力」「言論統制」があるのかは、一般人にはよくわからないところだろう。

改めて、烏賀陽氏にツイートの真意を聞いてみた。

「あのインタビュー記事こそ『代理話者』を使った『事実の取材・報道をサボって、オピニオンで紙面を埋めてお茶を濁した』という劣化した紙面です。

しかも、あの記事には記者の署名が2人入っていました。なんで学者のインタビューに2人も記者が必要なのか理解できません。記者2人投入といえば立派な『調査報道班』です。それなら記者への圧力と自粛の事実を調べて記事にすればいい。

アメリカが言論・報道の自由のお手本、なんて話も、遅くとも2010年ごろには終わった旧時代の神話です。ニューヨーク・タイムズ紙のジュディス・ミラー記者が『イラクには大量破壊兵器がある・証拠がある』と書き続けて開戦を正当化したのは有名です。もちろんあれは虚報だったことが今では明らかになっています。

また記者・情報源の尾行、盗聴、逮捕・投獄はオバマ政権下でも盛んに行なわれていました。ドローン(無人飛行機)によるイスラム過激派指導者の暗殺と並んで、オバマ政権のダークサイドです。日本政府の報道への『圧力』なんて、これに比べたら『圧力』の範囲に入りません。

日本のマスコミのアメリカの報道界への認識は45年前のウォーターゲート事件で時計の針が止まっていて、まだアメリカを崇拝しているのです。これはあくまで、日本の記者クラブ系マスコミの程度が低すぎて、記者や情報源を盗聴したり逮捕したりするアメリカですらマシに見えるという笑い話に過ぎません」

かつての同僚の厳しい指摘に耳を傾けるかどうかは疑問だが、朝日新聞が、教授のご託宣に従って「ウォッチドッグ」を目指すのであれば、まずは件のインタビュー記事内で指摘されている「メディア幹部も安倍晋三首相とゴルフをしたり、食事をしたがったりしているように見える」という点について、社内で従来の政権幹部との付き合いを総ざらい検証してみるのはどうだろうか。そうした行為に問題があるやなしや、そのあたりを読者に伝えてみるのも手かもしれない。

デイリー新潮編集部