なぜ今「福岡移住」がこんなに盛り上がるのか

九州経済の中心都市として、またアジアへのゲートウェイとしても注目を集める福岡市。震災後は移住先としての人気も高く、2011年から4年連続で、市外からの転入者数が転出者数を1万人以上上回っている。

ビジネスにおいて、また生活の場として、福岡のどんなところに魅力があるのか。実際に福岡に移住し、現在は移住希望者へのサポートを行う『福岡移住計画』の代表としても活動する須賀大介さんに話を伺った。

博多駅から電車で約30分、中心地である天神からは20分ほどの場所にあるJR今宿駅。駅から5分ほど歩くと、そこには青い海が広がっている。案内された シェアオフィス「SALT」は、海を臨む絶好のロケーション。周辺は静かな住宅地で、波の音が心地よく響く。同団体ではもう一つ、福岡西部の糸島市にも 「RISE UP KEYA」というコワーキングスペースを構えている。

須賀さんは26歳で独立後、ウェブマーケティングやデザインを中心とした事業を展開し、会社は10年で35名の従業員を抱えるまでに成長、東京で経営者として多忙な日々を送っていた。そんな須賀さんが移住を考えるきっかけとなったのは、やはり東日本大震災だった。

「ちょうどその頃、何のために仕事をするのか、自分のスキルをどういうことに活かしていくべきなのかということを考えていました。利益追求のために東京に拠点を置いておくことや、東京に依存したビジネスを続けていくことに疑問を感じていたんです。

そこに震災が起きました。私の子どもが2歳、スタッフも子どもを持ち始めた頃。何のための会社なのか、という問いへの答えは『家族を守るため』だと確信し、それから2拠点ということを考え始めました」

最初は長野や山梨など、東京に車で通える範囲を検討していたものの、それでは単なる田舎暮らしになると思い、範囲を広げて探していた。そんな時に家族で訪れた福岡で、いろいろな可能性を感じたという。

「自然環境のよさと、街に近いという利便性が両立するところですよね。こんなに自然に恵まれた場所でも、空港まで約30分。そこから東京まで飛行機で1時 間ちょっとですから、2拠点への可能性を感じました。アジアに近いという点でも、今後のビジネスを考える上で魅力的でしたね」

しかし、そこには経営者として乗り切らなければならない大きな問題があった。「いちばんのハードルは、スタッフに伝えることでした。これまでトップ営業で 仕事を作ってきたので、私が東京を離れることによる売り上げ・利益のダウンは避けられない。正直なところ、全員辞めてしまうかもしれないと思いました」。

それでも、須賀さんは決断する。「このタイミングでなければ、この先10年、20年と会社を続けていくことは難しいだろうと考えました。スタッフとは半年 間話し合い、半数は辞めることになりましたが、現在それぞれが活躍していますし、残ったスタッフも成長して東京の仕事を任せられているので、結果としてい い形が生まれたと思っています」。

こうして須賀さんは東京の仕事をスタッフに引き継ぎ、福岡へ発った。経営者が地方に移住する、というと、遠隔地でマネジメントだけを行うような印象を受けるが、須賀さんはスタッフに「九州で新しい事業軸を作る」という約束をしていた。

「リスクを分散させるために、事業の幅を広げることはずっと考えてい たんです。東京は運営コストも高いので、九州で新しい事業を生み出せたらメリットは大きい。新しい可能性を作る、ということで、九州経済の中心である福岡 のマーケットを開拓しようと思っていました。中長期的にはアジアへの展開も考えつつ、です」

ところが、ここには誤算があった。「東京である程度の実績もあったのでそれなりに自信があったのですが、移住当初は街から遠い場所に住んだこともあり、まず周囲にマーケットがなかったのです」。

福岡市内のコミュニティに入るにも距離があったため、その後1年ほどはなかなか仕事が作れない日々が続いたという。「また、代表が離れたことによって東京の売り上げも激減し、会社としてやっていけるのか、というところまで落ち込んでしまった」。

こんな厳しい状況から、何が生まれたのだろうか。須賀さんは「まず東京のスタッフのマインドに変化が起こりました」と話す。

「これまではトップダウンで仕事をやってきたのですが、自分たちで仕事を生み出すというスタンスに変わっていったんです。1年後くらいには売り上げも持ち 直し、今ではしっかり会社を支えてくれています。その頃には私も福岡で、地元の人に支えられながら、仕事らしいものを少しずつ創りだせるようになっていま した。その経験から、ビジネスで地元に貢献したいという思いが強くなりました」

福岡は俗にいう「支店文化」の街で、東京に比べてチャンスが少ないというイメージがある。しかし須賀さんは、ここには東京にはない「余白」と「可能性」があると感じたという。それはどんなものだったのか。

「たとえば、このオフィスもその一つ。福岡は都市の機能と美しい自然が両立している、ということはよく言われていますが、その価値を活用できている事例はまだ少ない。そこに『余白』があると思いました。

地元に住んでいる人にとっては当たり前かもしれませんが、東京からの移住者には、この環境が宝に見えるのです。地域に隠された資源が、外から入ってくる人間の視点によって発掘される。どんな地域でも同じことが言えると思います」

福岡に住んでみて、そこでビジネスを展開してみて、実際に感じた東京との違いは何だろう。

「福岡は民間と行政の距離が近く、ビジネスの面でも行政が協力的ですね。企業側にもビジネスをしながら地元に貢献する『シビックプライド』を醸成する環境 がある。企業が単体で利益を上げて会社がよくなればいい、ということではなく、福岡の経営者は、福岡のためになることは何か、ということを、つねに頭の片 隅に置いているように感じます。

また、人と人とのつながりが深く、人を紹介するという文化が根付いている。何か事を起こしたい時に、誰かに『こんなことをやりたい』と伝えると、『じゃあ、こういう人がいるから紹介するよ』という具合です。

移住計画についても知人に構想を話したところ、その人の知人を介して市の企業誘致の中心的な部署につながり、プレゼンテーションさせてもらえたんです。2ステップで行政の中枢につながるなんて、東京では考えられないことです」

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Posted by takahashi