<携帯>業界変わるか 「実効速度」競争時代へ

2016年はケータイ業界が大きく変わる年。その変化の一つが、通信速度の表記方法だ。これまで「最大150Mbps(ベストエフォート)」などと表記さ れてきたが、これからは実効速度(実際に出る速度)が併記される。野村総合研究所上席コンサルタントの北俊一さんが、ようやく始まった「実効速度競争」に ついてリポートする。

◇全国1500カ所の計測データを公表

スマホの普及に伴って、携帯電話各社が公表する最大通信速度と実効速度がかけ離れたものになり、消費者からの苦情、相談が増えた。また、携帯電話事業者やメディアが独自の手法で速度を計測するため、消費者が計測結果を比べて事業者を選ぶことが難しかった。

そのため総務省は2013年11月、「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」を作り、中立的な実効速度の計測・公表方法の検討を始めた。そして昨年7月14日、各社共通の速度計測手法と実施プロセスについてガイドラインを取りまとめた。

このガイドラインに基づき、昨年10~12月にかけて、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社が、全国1500カ所で自社の通信速度を計測し、その結果をこの年末年始に相次いで公表した。

各社からは、全計測データの詳細(計測場所、計測日時、計測端末、ネットワーク種別、上り平均速度、下り平均速度)が公表されている。全国10都市から ランダムに抽出された計300メッシュ(1メッシュは500メートル四方)ごとに5地点、計1500カ所。1カ所で上り下り各3回計測し、平均速度を求め る。計測時間は「オフィス街・繁華街メッシュ」では正午から午後6時、「住宅街メッシュ」では午後3時から午後9時までと決められている。

ちなみに、計測場所の抽出は、携帯電話事業者ではない第三者がランダムに指定する。事業者が選ぶことはできない。

◇「最大300Mbps」はやはり速すぎ

さて、計測結果を見てみよう。ドコモの下りの実効速度は、iOSが49~89Mbps、Androidが53~91Mbpsだった。KDDIとソフトバンクは、iOSとAndroidの平均値だが、それぞれ、50~103Mbps、42.5~76.6Mbpsであった。

この実効速度の幅は、中央値から上下25%(25~75%)の範囲を表している。100回計測した場合、半数の50回が入る速度の幅を意味している。

これまで各社は、携帯電話のカタログスペック上の最高速度の数値で競い合っており、最大225Mbps、300Mbpsなどとうたわれてきたが、平均的には60~70Mbpsしか出ない、ということが明らかになった。

また、同じ計測地点であっても、計測する時間によって速度がめまぐるしく変わる実態も明らかになった。一つの基地局をユーザーがシェアするシステムなの で、その基地局配下にたくさんのユーザーがいるほど、また映像のストリーミング視聴をするユーザーが多いほど、全体の実効速度は低下する。通勤通学のラッ シュ時や、多くの人が集まるイベント時などは、実効速度が著しく低下するのはこのためだ。

◇実効速度、体感速度競争へのシフトを期待

それでも今回公表された数値は、筆者としては直感的に「おや? 速いな」と感じた。各社のネットワーク部門担当者が計測しているため、指定地点付近で電 波状況が極力良い場所や向き、時間を意識して計測したからだと考えられる。私が計測担当者なら、間違いなくそうするだろう。例えばオフィス街で、実効速度 が低下する午後6時前後をわざわざ選んで計測はしない。

これは事業者自身が計測する手法を取る限り、起こりうる事象である。総務省が第三者に委託して計測するか、一般ユーザーが計測アプリをインストールし、その結果を集計する手法を検討する必要もあるだろう。

計測地点はドコモが秋田市・東京23区・さいたま市・富山市・大阪市・京都市・堺市・松山市・北九州市・大分市の10都市。

KDDIが札幌市・前橋市・さいたま市・東京23区・静岡市・大阪市・堺市・岡山市・鳥取市・宮崎市の10都市。

ソフトバンクは札幌市、青森市、新潟市、千葉市、東京23区、静岡市、名古屋市、大津市、高松市、福岡市の10都市だった。

計測場所や時間が事業者ごとに異なるため、実効速度を3社横並びで比べることはできない。発表された数値だけを見れば、KDDIが平均で最も速く、ソフトバンクが最も遅いが、あくまでも「目安」である。

このようにたくさんの課題はあるものの、今回、わが国の携帯電話のデータ通信速度表示は大きな一歩を踏み出すことができた。すでに各社のホームページで は、通信速度に言及する際、今回計測した実効速度が併記されている。今後、カタログやテレビCM、街頭広告などにも反映されるだろう。

今後、一般消費者に実効速度に関する取り組みが徐々に認知され、意識されることで、業界全体が実効速度、体感速度競争にシフトすることを期待したい。

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Posted by takahashi