日本車の危機、米国で走れなくなる懸念

●経産省に集まったドイツPHEV軍団

次世代自動車の覇権は、どうやら広くは欧州車、狭くはドイツ車に握られたようである。少なくともプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)の実権は日本にはない。

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そのことを紛れもない事実として表すイベントが開催された。2カ月 あまり前の5月16日、G7激励のために東京から三重県津市まで、およそ400キロメートルをキャラバンする「EV・PHV東京-伊勢志摩キャラバン」 (主催:次世代自動車振興センター、共催:三重県)である。このイベントのために日本にある電気自動車(EV)、PHEV、燃料電池車(FCV)が、経済 産業省中庭に集まった。そのほとんどが欧州車であり、中心はドイツ車であった。

PHEVに関していえば、日本製はあるにはあったが存在感は薄く、東京での展示だけでキャラバンには参加せず、津市で鈴木英敬三重県知事の歓迎の挨拶を拝 聴することは叶わなかった。しかも集まったPHEVはみな重量級の車であったにもかかわらず、途中で充電もほとんどせず優秀な燃費を示した。ここに集合し たPHEVのEV航続距離、ハイブリッド時の燃費、車重は以下のとおり。

・アウディA3 Sportback e-tron(52.8km、23.3km/l、1570kg)
・VW ゴルフGTE(53.1km、23.8km/l、1580kg)
・ポルシェ パナメーラS E-hybrid(36km、12.3km/l、2095kg)
・BMW X5 xDrive40e(30.8km、13.8km/l、2370kg)
・BMW 225xe アクティブツアラー(42.4km、17.6km/l、1740kg)
・BMW 330e(36.8km、17.7km/l、1770kg)
・BMW i8(35km、19.4km/l、1490kg)
・ボルボ XC90(T8 Twin Engine)(35.4km、15.3km/l、1850kg)
・メルセデスベンツ C350e(30.6km、17.2km/l、1780kg)
・トヨタ プリウスPHV(旧型 展示のみ)(26.4km、31.6km/l、1410kg)
・ホンダ アコードプラグインハイブリッド(公官庁フリートユーザーにリース 展示のみ)(60.2km、20.2km/l、1740kg)

これら以外にもEVとFCVがあったが、FCVは展示のみのであった。

また、国内ですでに販売されているが、キャラバンに参加せず展示もなかったPHEVは以下のとおり。

・VWパサート GTE(51.7km、21.4km/l、1720kg)
・メルセデスベンツ S550e(33.0km、13.4km/l、2330kg)
・三菱自動車 アウトランダーPHEV(60.2km、20.2km/l、1850kg)

ちなみに、近々に新たに発売されるPHEVは以下である。

・トヨタ プリウスPHV(新型今秋発売予定)(60km、37.0km/l、1510kg)

●ヨーロッパ14車種vs.日本1車種

ドイツ勢としては、BMWが4車種、VW、アウディ、ポルシェのVWグループで4車種、メルセデスベンツが2車種の計10車種が、PHEVとして名乗りを 上げている。さらに高級PHEVのポルシェ・カイエンPHEV、ポルシェ918PHEV、今秋には上陸するBMWの7シリーズのPHEVを加えると13車 種となる。これにボルボを加えるとヨーロッパ勢は14車種を上陸させることになる。

そればかりか、メルセデスベンツは17年までにあと8車種のPHEVを追加する。また、BMWは全車種に投入するとしているが、これは蒙古襲来か黒船来航である。

一方、迎え撃つ日本勢は現在のところ、三菱自動車のアウトランダーPHEV、トヨタのプリウスPHV、ホンダのアコードプラグイン・ハイブリッドのたった 3車種にすぎない。だが、プリウスPHV(旧型)はまもなく生産中止で、アコードプラグイン・ハイブリッドはそもそもフリートのみなので、ほとんど生産さ れていない。つまり、現役はアウトランダーPHEVの1車種のみなのだ。

ヨーロッパ14車種vs.日本1車種の戦いは、神風でも吹かない限りヨーロッパの圧勝である。もっとも、PHEVの知名度は低く、その内容はもちろん名前 さえ知らない人たちがほとんどで、まだ販売台数は上向いてはいない。この知名度の低さこそが、実は神風かもしれない。日本の市場は守られているが、それで 果たして済む話なのだろうか。

●日本勢に立ちはだかるCO2規制

EU(欧州連合)のCO2規制は、2021年に1km当たり95gとなる。ガソリン車で燃費に換算すると、リッター24.4kmである。重量車でこの規制 をクリアするにはPHEV化が得策である。また、米国では18年モデルイヤーからカリフォルニア州を初めとして10州で、PHEVの販売が義務化される。 ZEV規制の強化だ。

これまでは米国ビッグスリーと日本のトヨタ、日産、ホンダだけが対象であったが、メルセデス、BMW、VWそしてマツダとスバルも対象となる。PHEVを売らなければ、義務台数違反1台につき5000ドルものペナルティが科せられるのである。

EUの自動車メーカーは、EU域内のCO2規制と米国のZEV規制に見事に対応しているといえる。果たして日本勢は、特にマツダとスバルはどうするのだろうか。
(文=舘内端/自動車評論家、日本EVクラブ代表)

【解説】PHEV
PHV ともいう。「プラグイン」が電気コンセントにプラグを差し込むという意味なので、車外の電源から車載の電池を充電でき、その電気でも走れるハイブリッド車 (HV)のことである。電池容量がHVの数倍あるので、電池の電気エネルギーだけで走れる距離が長く、その場合は走行中にCO2を排出せず、燃料の消費も ない。CO2削減、燃費向上が可能で、環境と経済の両面で好ましい次世代車である。なお、HVは外部電源からは充電できない。