ポケGO大ヒットの裏で進む「もう1つの異変」 「インディーゲーム」の凄まじい可能性

各国で社会現象になった『Pokémon GO』。日本でも、スマートフォン片手にポケモンをゲットする人たちであふれかえるなど、熱狂は続いている。任天堂の株価も一時、急上昇した。「しかし、 このゲーム業界にもたらした大きなうねりは、まだ序章でしかありません」というのは、長年、さまざまなゲーム開発に携わってきた大野功二さん。『3Dゲー ムをおもしろくする技術』の著書もある大野さんに話を聞いた。

大ヒットのきっかけとなった「インディーゲーム」ブーム

この大きなニュースの裏で、任天堂は個人でのゲーム開発をサポートする「Nintendo Developer Portal」の開設を発表しました。これはゲーム業界では大きなサプライズでした。なぜなら、今までごく限られた法人にのみ許されていた任天堂のゲーム 開発が、一般の個人に対しても許されることになったからです。

これまで、任天堂のゲーム機器でゲームを発売するには、ゲームのクオリティ を重視するという視点から、ある規模の法人でなければ、そもそもパブリッシャー契約・ディベロッパー契約を結ぶこともできませんでした。また、それらのプ ロジェクトは、厳重なNDA契約書によって守られ、発売されるまで一般の目に触れることもありません。しかし、AppleのiPhone、Googleの Androidなどに代表されるスマートフォンの登場と、ソーシャルゲームの到来により、いよいよ任天堂も、個人開発者たちに門戸を開いて、大きな時代の 変化に乗らざるえなくなったのです。

このような個人開発や小規模な会社法人組織によるゲーム開発を「インディーゲーム」と呼びます。音楽 業界でも、個人で自主制作してアルバムを作って販売する「インディーレーベル」がありますが、これのゲーム版と言えるでしょう。ただし、その市場規模は大 きく異なり、ゲームにおけるインディー開発者・インディー開発会社は、成功すれば世界的大ヒットも夢ではありません。その代名詞となったのが『マインクラ フト』です。

『マインクラフト』は、マルクス・ペルソンが開発し、その後、全世界で 2000万本を超える大ヒットとなったゲームです。特に子どもに大人気で、お子さんのいる読者であれば、プレイしているところをみたことがあるのではない でしょうか。マルクス・ペルソンが立ち上げたMojang AB社は、最終的にマイクロソフトに買収され、世界的なインディーゲームの成功例として伝説となりました。

また、『Pokémon GO』においても、その前身となった『Ingress』は、Googleの社内スタートアップによって作られたNiantic Labsの開発したゲームです。この『Ingress』とNiantic Labsの関係も、インディーゲーム開発といって過言ではありません。

このように、インディーゲームは、単に「個人開発者が作ったゲーム」という小規模なレベルものではなくなっています。現在、ゲームの世界市場は10兆円を 超える規模となっており、インディーゲームは、この市場を大きく揺るがすルーキーとなっているのです。任天堂による「Nintendo Developer Portal」の開設も、この大きな流れのひとつであると言えるでしょう。

インディーゲームのヒットの原動力

なぜ、このような個人ゲーム開発者・小規模ゲーム開発会社が、このような大ヒットを生み出すゲームを作ることができるのでしょうか? そのキーワードは「自由」です。

ビデオゲームの歴史は、まだ40年ほどしかありません。しかし、その市場と技術の成長は著しく、現在ではAAAと呼ばれる大型ゲームを開発するためには、 100人単位のスタッフと数十億円の開発費を投入しています。世界で大ヒットを記録したゲーム『グランド・セフト・オートV』では2億6500万ドルの開 発費が投入されています。『Destiny』と呼ばれるゲームでは、5億ドルの開発費が投入され、ゲーム開発費の世界1位となりました。どちらも大ヒット し、ビジネスとしても成功しています。

しかし、このような華々しい成功の裏で、膨大な開発費を投入したにもかかわらず、ビジネスとして大 失敗したゲームプロジェクトも少なくありません。また、このような大型プロジェクトはリスクも大きいため、内部の開発スタッフは「成功するための努力」以 上に、「失敗しないための努力」も強く求められます。そのため大型ゲーム開発プロジェクトにかかわるスタッフたちは、クリエーティビティにおける「自由」 を感じることが少ないと思いはじめました。

そこで、2010年ごろから、メジャー開発スタジオから自由を求めてゲーム開発者たちが独立 し、「インディーゲーム」の潮流を作りました。また、2010年には、Unity Technologiesが開発したゲームエンジン「Unity 3」の公開によって、高度なプログラム技術が必要とされるゲーム開発の敷居が大幅に下がりました。さらに、Unity Technologiesは「ゲーム開発の民主化」をスローガンとし、Unityエンジンを無料で提供することで、全世界でゲーム開発コミュニティを形成 し、ゲーム開発未経験の一般人をゲーム開発者にすることに成功。この流れは、AAAゲームタイトルを支えるEpic Gamesの「Unreal Engine」の無料化にもつながり、現在では、ゲーム開発のスタートアップは、小規模なものなら0円で始められる好環境となったのです。

また、インディーゲームの取り組みも年を追うごとに大きくなり、世界的なゲームディベロッパーカンファレンス「GDC(Game Developers Conference)」でもインディーゲームに関する講演は大人気となりました。

このような潮流は日本にも影響を及ぼしており、今年、京都で開催された国内インディーゲームのゲームショー「BitSummit 4th」では、6435人と過去最高の来場者数を記録しています。さらに、この「BitSummit 4th」では、任天堂、SIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、マイクロソフトの大型プラットフォーム会社の3社が参加し、大きな話題と なりました。

このようなショーの裏側ではインディーゲーム開発者やインディーゲーム開発会社と大手ゲーム会社によるBtoBなども積極的 に行われています。ビジネス面におけるインディーゲームの流れも、さらに加速するでしょう。国内においても「インディーゲーム」に関するショーやビジネス に、大きな期待が寄せられているのです。

世界のインディーゲーム事情

さて、これまでインディーゲームの概要について説 明してきました。しかし、世界的な視野でみると「インディーゲーム」という一言で、すべてのインディーゲーム事情を説明するのは難しくなってきました。と いうのも、近年のインディーゲームの大成功により、その成長の度合いから、各国の市場やインディーゲーム会社の規模も異なってきたからです。

たとえば、日本国内の場合であれば、インディーゲーム開発者・インディーゲーム開発会社の規模は、数名から10人前後です。よくて、50から100人規模の会社の中で、スタートアップチームとして数名がアサインされるというのが一般的です。

これに対し、北米などでは、いきなり30名や100名からスタートするインディーゲーム開発も珍しくありません。これは、世界的に大ヒットした『マインク ラフト』などの影響により、投資が集まりやすく、かつ、受け入れやすくなったからです。また、Kickstarterなどのクラウドファンディングサービ スが登場したことで、プロの投資家に頼らない、一般のゲームユーザーから投資を受けてゲームを開発することも可能となりました。

投資額も人気のゲームであれば、数億円から10億円規模で投資を受けることに成功しています。近年では、元セガの鈴木裕氏が『シェンムー3』を発表して、約7億8000万円の資金確保に成功しています。

ただし、インディーゲームも華々しい側面だけでは、なくなってきました。海外ではインディーといえども開発規模が大きくなってしまったために、リスクも大きくなり、一般的なゲーム開発会社と同じジレンマを抱えることとなったゲームプロジェクトも少なくありません。

また、クラウドファンディングでは、完成したゲームのクオリティが低かったり、そもそもゲームが完成しなかったりと、インディーゲームと投資におけるリス クの問題が浮き彫りになってきました。国内のインディーゲーム開発においては、資金確保と技術者の人材確保が大きな課題となっています。

これからのインディーゲーム

では、これからのインディーゲーム開発は、どのように見ていけばよいのでしょうか? そのヒントとなるのが、社内キックスタート型のインディーゲーム開発です。

たとえば、TV番組や企業VP(Video Package)、イベント用CGなどの製作を手がけるParkgraphics社は、社内キックスタートによってスマートフォン用ゲーム『ひよこまみ れ』を開発しました。コアメンバーは4名。これまでのシリーズ累計ダウンロード数は450万本と大ヒットを記録。直近では、筆者が所属するUnity Technologies Japanも協力して、Newニンテンドー3DS版を発売しました。

発売日5日目にして、ニンテンドーeショップ ダウンロード専用ソフト 人気ランキング8位を記録しています。

このゲームのポイントは、かわいい「ひよこ」キャラと、女性と子どもをターゲットにした「難しすぎない・気軽に遊べるゲームデザイン」です。また、 Miiverseと呼ばれる任天堂のコミュニティサイトや、FacebookやTwitterなどのSNSに写真を投稿できる機能を持っており、「自分が 見つけたかわいい瞬間」をコミュニティで共有できるようになっています。

成功するゲームには、「ルック(人を魅了する見た目)」「ゲーム デザイン(おもしろがらせる設計)」「ゲームメカニクス(ゲームを成立させる構造と技術)」の最低3要素が成立している必要があります。『ひよこまみれ』 には、この3要素のほかに、思わず自分がプレイしたことを他人に話したくなる「バイラル性」があり、これらがコンテンツとしての「商品力」となってユー ザーの人気を獲得しているのです。

現在、インディーゲームは成長期から成熟期へと向かおうとしています。インディーゲームの数も多くなっ ており、人によっては混迷しているように見えるかもしれません。しかし、このような時期では、ご紹介したような3要素+α要素を持つコンテンツが、しっか りと足場を整え成長していくでしょう。

さらに、現在話題となっている仮想現実で遊べる「VR(Virtual Reality)」や、Pokémon GOのような現実世界を拡張する「AR(Augmented Reality)」「MR(Mixed Reality)」の登場によって、「自由」を源にゲームを開発するインディーゲームの可能性はまだまだ広がります。今後もインディーゲーム市場からは目 が離せません。

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Posted by takahashi