30代以下が頼りにしなくなったテレビの危機 メディア世代間ギャップは確実に進んでいる

「テレビの見られ方が変わってきた」

ローソン広告販促部の庄司考志マネージャーは、2014年頃からそうした“変調”を感じ始めていた。話題性を喚起するようなテレビCMを仕掛けても、従来通りの反応が得られない。

■テレビCMは打たず、YouTube動画で勝負

今年4月に発売した「でからあげクン 夢のミックス味」。人気商品の「からあげくん」よりも大きめのサイズで3つの味を組み合わせた数量限定商品として展開するに当たり、ローソンは、あえてテレビ広告を打たずに若者層をターゲットに絞って動画共有サイトのユーチューブ(YouTube)にネット動画を配信した。するとSNSで一気に拡散され、想定以上の反響が得られた。7月にはからあげくんと女性2人組ユニット「まこみな」がコラボレーションしたキャンペーンも実施したが、これもネットのみの展開だ。

ローソンにとって、テレビ広告も重要な媒体であることに変わりはない。「最近は主婦層やシニア層を対象にした内容を意識して、夕方の時間帯に流している」(庄司氏)。日本全国のローソン加盟店1万2000店に商品を仕入れてもらうためにも、マスメディアとしてのテレビ広告の訴求力は魅力的だ。目的や商品に合わせて、テレビとネットを巧みに使い分けているという。

週刊東洋経済は11月14日発売号で『そのメディアにおカネを払いますか?』を特集。有料メディアの攻防や増殖する広告メディアなど、新聞、テレビ、ネットメディアの最前線を追っている。

「今やテレビの主な視聴者は50代以上。若者のテレビ離れは深刻」と複数のテレビ局関係者は口をそろえる。それを裏付けるようなデータもある。電通総研が15年に「頼りにするメディア」について調査を行ったところ、40代を境に結果が大きく分かれた。15~39歳はテレビや新聞・雑誌への信頼がマイナスとなる一方、ネットニュースやSNSはプラスだった。

一方でテレビを頼りにしているのは40代以上。50代になるとテレビ、新聞・雑誌など伝統的なメディアの信頼が総じてプラスになっている。20代はテレビ視聴時間よりもネット利用時間の方が長くなっており(総務省調べ、2015年)、メディアをめぐる“世代間ギャップ”が鮮明となっている。

すでに若者に焦点を定めた、ネット上の動画配信サービスも誕生している。テレビ朝日とサイバーエージェントが手を組み、4月に開始したインターネットテレビ局「AbemaTV」(アベマTV)では、24時間、約30チャンネルを放送している。広告収入が収益源で、誰でも無料で視聴できる。

滑り出しは好調でアプリのダウンロード数は11月2日に1000万を超え、スマホ経由で視聴する20代以下のユーザーが中心となっている。2017年にかけて200億円を番組の充実化や独自コンテンツの制作費に充てる方針で、「週間1000万人ユーザーを目指す」とサイバーエージェントの藤田晋社長は力を込める。

コミュニケーションアプリを展開するLINEが昨年12月にサービスを開始した「LINE LIVE」は、今年8月に月間視聴者数が1900万人を突破。これはスマホに番組をライブ配信するサービスだ。毎日、公式番組20本前後のほか、個人が1000本程度を配信している。視聴者がコメントを送ると画面に表示され、出演者やユーザー同士がリアルタイムに交流できるのが魅力だ。収益柱は有料スタンプと広告となっている。アベマTVやLINE LIVE以外の新興動画メディアも続々と生まれており、この中から新たなマスメディアが生まれてもおかしくない。

■コンテンツの魅力をどう伝えるかがカギ

このままでは10年後、ネットに押されてテレビは「老人のメディア」になりかねない。それを食い止めるすべはあるのか。

電通総研メディアイノベーションラボ統括責任者の奥律哉氏は、「テレビのコンテンツの魅力は生きている。複数の端末から見られるよう視聴者に寄り添う必要がある」と指摘する。実際にNHKはスマートフォンをはじめとした通信端末でも番組が見られるよう、番組のネット配信を増やしている。

将来的には全番組を対象としたネット配信を視野に入れ、放送法改正や支払い義務化の可能性も含めた受信料制度全体の見直しを進めている。テレビを持たない若者も増えており、テレビ受信機を契約の対象とするNHK受信料の収入は先細りになりかねない。そうなる前にネット対応を着々と進めている。

民放も一部番組のネット配信は行っている。しかし全番組が対象となると、サーバー代や著作権処理の負担が相当額発生する。さらに番組視聴率を指標としたテレビ広告の商習慣とは異なる、ネット配信にまつわるおカネの稼ぎ方(マネタイズ)も新たに考える必要がある。

ある民放幹部は「オリンピック開催の20年までに、家庭内のテレビがどこまでネットにつながるかが焦点」と語る。テレビがネットにつながると、テレビ番組とネット動画の境目が曖昧となる。テレビがスマホと同じようにさまざまなコンテンツを映し出すディスプレイとなったとき、“メディアの王様”としてのテレビ局は安泰でいられるのか。テレビ番組とネット動画、放送と通信、さまざまな垣根を越えて、視聴者と広告費の奪い合いが過熱している。