本人も困惑? 出川哲朗“空前のブーム”はなぜ起きたのか?

タレントの出川哲朗(53)に対する再評価が止まらない。少し前まで、テレビの“嫌われ者”代表として「ブサイク」「キモい」「埋めてしまいたい」などと呼ばれていたことは記憶に新しい。また90年代には女性誌『an・an』(マガジンハウス)の「抱かれたくない男」でまさかの「殿堂入り」を果たしたこともある。しかし、ここに来て一転、子どもや若い女性を中心にファンが急増し、愛されキャラとして人気を博している。

気がつけば現在、レギュラー番組が10本以上。4月からは、初の冠番組「出川哲朗の充電させてもらえませんか?」(テレビ東京系)がスタートしている。ブームともいえる現象について、お笑い評論家のラリー遠田氏は「日経ウーマンオンライン」で「自分の芸を曲げずに、こつこつと信頼を積み上げてきた結果」と指摘。また、「文春オンライン」でてれびのスキマ氏も、『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)での活躍を例に取り、その“出川力”に感嘆の声を上げている。では、この奇跡の“大逆転“はいかにしておこったのか。

「(ビート)たけしさんや(明石家)さんまさんなど多くの大御所が『笑いのために死ねる狂人』と絶賛しています。もともと出川さんはウッチャンナンチャンたちと劇団を立ち上げ舞台で活動していましたが、体を張ったリアクション芸人としてテレビに出るようになり、どこでも裸になるなどなんでもしてきた。過去、『進め!電波少年』(日本テレビ系)などで見せていたハードなリアクション芸を覚えている人も今は減ってきているでしょうが、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)などで過去の業績をイジりながらも評価されていますよね。芸風はずっと変わらないのに世間の評価がガラリと変わっているのが興味深い」(週刊誌の芸能担当記者)

一方、出川ブームのキッカケについて、ある放送作家はその原因を分析する。

「ブームの根源には、間違いなく『イッテQ』での活躍があります。放送開始から10年以上経ったここにきて、20%超えという高視聴率を叩き出している同番組は、世代を超えて視聴されており、出演すると子どもからの人気がものすごく上がると言われています。出川さんがかつて、『抱かれたくない人』と言われていたことなんて知りもしない世代にとっては、『太った面白いおじさん』として認識されているようです」

出川は、同番組の司会で盟友の内村光良(52)からの信頼も絶大。磨き抜かれたリアクション芸で、有名セレブと自撮り写真を撮ろうとする「パパラッチ出川」など、いつ誰か偉い人から怒られてしまうかわからない企画に、体当たりでチャレンジしている。

「『パパラッチ出川』は、英語がしゃべれない出川さんが、(スティーブン)スピルバーグやナオミ・キャンベルなどに、メチャクチャな英語で接触しようと試みる企画。最近では、こうした“出川イングリッシュ”を駆使した『出川哲朗はじめてのおつかい』が、SNSなどで爆発的に拡散されています。海外に行き持ち前の英語力だけで与えられたお題をクリアするのですが、刑務所を探すのに『ドゥユーノー ウォンテッドハウス?』『メニーメニー バッドマン スリーピング』などと聞いて回るなど、文字面だけで見てもついつい笑ってしまうので、拡散されやすいのでしょうね」(民放のバラエティー番組ディレクター)

若き日の出川哲朗。どんな事にも体当たりだった=1997年撮影 (c)朝日新聞社 © dot. 若き日の出川哲朗。どんな事にも体当たりだった=1997年撮影 (c)朝日新聞社

ただ、こうしたブームについて本人は少々困惑気味のご様子。5月29日に横浜市内で行われたケンタッキー・フライド・チキンの新商品発表記者会見では、自身の人気について理由を聞かれると「それはわかりません。仕事の内容は20年以上変わってないのに、時代が追い付いた」とコメント。リアクション芸人にはあるまじき、照れた反応をみせていた。

「出川さんは、普段はとても真面目な人。しゃべり方や声から『抱かれたくない男』になっただけで、よく見ると実は痛いのを『痛い』と言っているだけなんです。今の若い人から見ると、いつも笑顔ですし、意外にまともなことをしゃべっているし、いやらしさがないので『カワイイ』と思うのかもしれません。リアクション芸人のまま消えるのではなく、またブームになってうれしいです」(前出の放送作家)

実は実直な男が積み上げてきた境地が芸として確立された今、真のブレイクポイントを迎えているようだ。(ライター・黒崎さとし)