壇蜜起用の宮城県動画が炎上!「エロでPR」が絶えない理由

レントの壇蜜さんを起用した宮城県の観光PR動画が、「エロ過ぎる」と大炎上している。少し前に、やはりエロいと炎上したサントリーのビール「頂」の事例もあった。なぜPR動画でこのようなトレンドができてしまったのだろうか?(ノンフィクションライター 窪田順生)

宮城県のエロいPR動画はアリかナシか?

宮城県のPR動画「涼・宮城の夏」が大きな話題を呼んでいる。

といっても、作品としてのクオリティが注目されているのではなく、出演しているタレントの壇蜜さんに、あの手この手で「エロ」を連想させるようなセリフ、行動をとらせる「演出」が、ちょっと卑猥すぎるじゃないの、と物議を醸しているのだ。

ご覧になった方はわかると思うが、この映像では、「牛のし・た」なんて感じで壇蜜さんが色っぽく宮城のセールスポイントを紹介するだけではなく、CGの亀の頭をなでるとパパラパッパパーという効果音とともに、赤面した亀の頭がムクムクと大きくなるという、かつて「日刊ゲンダイ」で連載していた横山まさみち氏の成人漫画「やる気マンマン」を彷彿とさせる「悪ノリ描写」もある。

当然、宮城県には「税金使って安っぽいエロ動画つくるな」なんて厳しい批判の声が寄せられているが、最近よく見かけるパターンの、「不快な思いをさせてすいません、と謝罪して動画削除」という対応はしないという。批判の多さを指摘された村井嘉浩・宮城県知事の「反応」がすべてを物語っている。

「賛否両論があったことは、逆に成功につながっているんじゃないかと思う」

実は「涼・宮城の夏」の再生回数は昨日時点で157万回を突破。卑猥すぎて問題になってます、とワイドショーなどでも取り上げられたことで、「どれ、そんなにエロいなら一度見てやろう」と視聴者が増えているのだ。また、今読んでいただいているこの記事も含めて、ネットニュースでも多く取り上げられている。要するに、バズったことで宮城県のPRとしては大成功だったというわけだ。

サントリーに続く炎上マーケティング

そう聞くと、「またエロを利用した炎上マーケティングか」と呆れる方も多いだろう。

つい最近もサントリーのビール「頂」のウェブ限定動画「絶頂うまい出張」が、「都合のいい女」を性的に表現していると批判が多く寄せられ、サントリーは公式サイトに「お詫び」を掲載後に動画を削除したが、「炎上マーケティング疑惑」が持ち上がった。

BuzzFeed NEWSが、動画の制作を担当した大手広告代理店・電通の複数の社員から、「炎上やむなし、という感じだったようだ」など、ハナから“バズること”を狙った「確信犯」だったと思わせるような証言を報じたのである。

こういう流れのなかで、村井知事がホクホク顔で「卑猥」だと批判される動画を「成功」と言えば、同様の疑いがかけられてもしょうがない。

そんな「炎上マーケティング疑惑」が囁かれるなかで、自治体PR動画ならではの厳しい批判も寄せられている。いくらバズったところで、いくら再生回数が稼げたところで、あの安っぽいエロ動画を見て宮城県へ行こうなんて思う人間はいないというのだ。

つまり、観光関係者がやたらと使う「ブランディング」ができていないというわけだ。

ご指摘はごもっともだと思う。ただ、そういう「宣伝会議」のセミナーで教えているようなシャレた理屈をこねるのもいいが、宮城県がこういう「動画」へ走ってしまった事情も考慮しないことには、根本的な問題解決にはならないのではないかという気がしている。

宮城県は何をおいても、あの檀蜜さんを起用したエロ動画をつくりたかった、というわけでもなさそうだからだ。

手っ取り早くビューを稼ぐにはバズらせるしかない

実は宮城県観光課では最近、「光に出会う旅 宮城」というPR動画を公開している。光をテーマにして、宮城の四季折々の風景をダイジェストで紹介した10分間の動画で、ドローンによって撮影された壮大な景色は、ため息が出るほど美しい。

ただ、そんな素晴らしいPR動画だが、5月11日にYouTube公開されてから2778回しか視聴されていない。メディアにもほとんど取り上げられていない。つまり、メディアへの拡散や視聴数をKPIとすると、厳しいようだが、この美しいPR動画は「成功」とは言い難いのである。

当たり前の話だが、「光に出会う旅 宮城」は県民の血税でつくられた。あの内容ならば、不満は出ないだろうし、むしろ「宮城の魅力がよく表現されている」とお褒めの言葉をいただくかもしれないが、一方で「PR動画でたった2278回の再生とはどうなのさ」という批判も出るというのは、容易に想像していただけるだろう。

こうなるとPR動画の担当者は、確実に「上」からの「もっと結果の出るPRをやれ」というプレッシャーにさらされる。ネットPRの世界で「結果を出せ」という言葉は、「バズらせろ」と同じ意味だ。

そういう「難題」をもちかけられた広告代理店が解決策としてひねりだしたのが、「絶頂うまい出張」であり、今回の「涼・宮城の夏」である。

いやいや、「結果を出せ」というプレッシャーはどこの世界だってあるし、バズらせるためのアイデアなんて山ほどある。敢えて下品で卑猥な動画に走る理由はないではないか、と思うかもしれないが、実はこの手のエロい映像で煽ると、「いとも簡単に結果が出る」という事例ができてしまっているのだ。

覚えている方も多いだろう、「うなぎのうな子」である。

鹿児島県志布志市が昨年9月、「ふるさと納税」の寄付を呼びかけるために制作したPR動画で、黒いスクール水着姿の少女を市特産の養殖ウナギに見立て、養殖ウナギ日本一という事実を紹介。最後に少女が「養って」と言うというものだが、これが「女性蔑視だ」「少女を監禁するような犯罪を助長する」「少女をうなぎに見立てて食すなど、ただただ不快」と批判が殺到して大炎上。海外メディアまで、「日本の性差別CM」だとして大きく取り上げるという事態に発展した。

海外でもバズって大炎上!宣伝効果も絶大だった

今でもPR担当者向けの炎上関連のセミナーなんかでは事例として紹介され、「こういう感覚だとえらい目に遭いますよ」と教訓にさえされている「うなぎのうな子」だが、実は「結果」はちゃんと出している。

海外メディアにまで露出した壮絶なバズりによる宣伝効果、かどうかはわからないが、炎上前は約7億5000万円だった「ふるさと納税」の寄付額が、なんと3倍の約22億5000万円まで跳ね上がったのだ。

もちろん、「うなぎのうな子」で失ったものもあるだろう。だが、「ふるさと納税のPR」ということで言えば、「結果」は出したというのは紛れもない事実なのだ。

PR動画を発注する人間、そして結果を求められる人間からすると、この「事実」は非常に重い。なんやかんやと批判を受けても、すさまじい露出と再生回数が確実に稼げてしまうのだ。「こんなうまいやり方、お前もやっちまえよ」と、悪魔が耳元でそっと囁くのは容易に想像できるだろう。

つまり、再生回数やメディア露出を獲得することをゴールとして設定した時点で、PR動画制作者は「炎上マーケティング」という「暗黒面」に引きずり込まれる危険が生じるのだ。

そういう人をたちをモラルがない、人権感覚がない、地獄に落ちろ、と批判するのは簡単だ。

ただ、このような「炎上マーケティング」に手を染める人たちも、みなさんと同様に組織のなかで成果を求められ、それで給料をもらい、家族を養っている普通の企業人だったりもする。

担当者のクビを飛ばしても問題は繰り返されるだけ

報道対策の仕事をしていると、よく不祥事を繰り返す企業に共通する特徴が見えてくる。それは、原因を「個人」に押し付けて、その「個人」を排除することで解決できたと捉えるような企業文化だ。

再発防止ができている企業は、そのような「個人」をつくらないように、組織として何ができるのかということに真正面から向き合っている。

「炎上マーケティング」の問題もこれに近い。PRというものに対して、露出や視聴という「数」だけではなく、「質」も評価するように評価体系を改めない限り、同様の問題はいつまでも繰り返されるだろう。

むしろ、トランプ大統領ではないが、「過激なことをやればやるほどウケる」と勘違いをする者もあらわれる。おカタい役所が「エロ」に走ったということは、日本にも、こういうヤバめのトレンドが訪れつつあるということかもしれない。