「働きアリ」に学ぶ? 全員が一生懸命働くと組織が存続できない理由

政府からの提言もあり、いまは「働き方改革」が求められています。長時間労働や生産性についての議論もされています。しかし現状を見ると、まだまだ会社員は会社という組織を維持するために生産性を要求され、長時間労働を強いられていることが多いのではないでしょうか? まさに「働きアリ」のようですね。では実際のところ、働きアリはどのように働いているのでしょうか。今回は私たちの考えるヒントとして「働きアリの法則」を紹介しましょう。

■「働きアリ」って本当に働いているの?

「働きアリ」と聞くと集団で一丸となって猛烈に働いているイメージを抱かれるかも知れません。しかし、実際のところ一生懸命働いているのは全体の約2割にすぎないのです。これは経済学の世界では「働きアリの法則」もしくは「パレートの法則」とも呼ばれています。

ちなみに、一生懸命働いている2割の働きアリが「全体の8割の食料を集めてくる」といいます。残り8割のアリは何をしているのかというと、6割は普通に働き、さらに2割のアリは何もしていないといいます。つまり、その割合は「2:6:2」になることが分かっています。

ここで一つの疑問が湧いてきます。もし、一生懸命働いている2割のアリだけを集めると非常に効率の良い組織ができるのではないかと。夢のオールスターのような「最強のチーム」の誕生です。

ところが、実際に一生懸命働いている2割のアリを集めてみると、いつの間にか同じように働くアリと働かないアリのグループに分かれて、その割合は「2:6:2」に落ち着くという実験結果があります。逆に「働かないアリ」だけを集めたグループを作ったとしても、同じ結果になるそうです。

■組織に「働かないアリ」が必要なワケ

組織の中に「働かないアリ」がいるのは、いかにも効率が悪いと思われがちですが、どうして上記のような結果になるのでしょうか? その謎について、北海道大学大学院の長谷川英祐准教授による研究グループが詳しく研究しています。

長谷川准教授の研究グループは、まず「すべてのアリが一斉に働くとどうなるか?」コンピューターシミュレーションを使って解き明かしました。それによると、一時的に仕事の処理能力はアップしますが、同時に疲労も蓄積されるので、高い処理を維持することが困難となり、最終的には組織(コロニー)を存続できなくなることが判明しました。

一方、「働かないアリ」のいる組織はどうでしょうか。一生懸命働いているアリが疲れて休んでいるとき、「働かないアリ」が代わりに働き始めるという現象が確認されました。つまり、「働かないアリ」が疲労したアリをカバーすることで、常に仕事の処理が一定の速度で行われることが分かりました。そして、むしろそのほうが組織が長続きすることが解明されたのです。

「働きアリの法則」は私たちに大切なことを示唆しています。すなわち、組織とは効率だけを追求しても長続きしないものなのです。

■様々な場面で役立つ「パレートの法則」

先に述べましたが「働きアリの法則」は「パレートの法則」「80:20の法則」とも呼ばれ、自然現象や社会現象、経済の世界の様々な事例に当てはめることができます。ちなみに、この法則を発見したのはイタリアの経済学者ヴィルフレド・パレートです。

「パレートの法則」は多くの事例が当てはまるのですが、その一部を列挙すると下記の通りとなります。

「売上げの8割は、2割の顧客で占められる」
「売上げの上位2割の商品が、全体の8割の売上げを占めている」
「Webのアクセスの8割は2割のページに集中している」
「故障の8割の原因は、全部品の中の2割の部品に原因がある」
「仕事の成果の8割は、仕事に費やした時間のうち『2割の時間』から生み出されている」

とても興味深い法則ですね。「パレートの法則」は、私たちに仕事をするうえで、どこに力を注げば良いのかを示しています。

たとえば、あるソフトウエアの話です。そのソフトウエアはとても人気があるのですが、消費者はその機能の約2割しか使いこなせていません。つまり、その2割の機能が売上を支えています。あまり使われていない機能に力を入れて底上げを図るよりも、良く利用されている機能を「より伸ばす方向」で開発を進めたほうが、結果として効率良く収益を伸ばすことができるのです。

いま、日本社会は「働き方」を含めて様々な変化のときを迎えています。何を変えるべきか、どう変わるべきか、ひとり一人が考えるべき局面を迎えているように思います。今回紹介した「働きアリの法則」「パレートの法則」が読者のみなさんの考えるヒントとして、少しでもお役に立てば嬉しいです。

長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『怖い保険と年金の話』(青春出版社)『商品名で明かす今いちばん得する保険選び』『お金に困らなくなる黄金の法則』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)、『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社発行)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。

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