これから給料が「下がる仕事」「上がる仕事」

技術革新で人間の仕事の8割が消滅!

「AI(人工知能)はいま将棋や囲碁などの分野で注目されていますが、2030年以降は人間と同じように仕事をこなす汎用型AIが生まれて、AIを搭載したロボットがレストランのウェイターや警察官、消防士という仕事まで担うようになる可能性があります。

将来的に人間の仕事として残るのは2割ほど。残りの8割を仕事にしている人は、生活をするにも苦しい少ない稼ぎしか得られなくなるでしょう」

駒澤大学経済学部准教授の井上智洋氏はそんな驚愕の未来予想図を語るのである。
AIやロボットが人間の仕事を奪っていく――。

SFで描かれていたそんな近未来図は、もうすでに現実のものとなり始めている。

真っ先にそのターゲットになっているのは、意外なことに医療界だ。

『日本の国難 2020年からの賃金・雇用・企業』著者でエコノミストの中原圭介氏が指摘する。

「アメリカでAIを搭載するロボットを使った臨床実験が進み、医師の仕事の8割ほどを代替できることが明らかになってきました。

たとえば、患者の症状や年齢や性別、体重、病歴などの個人データを入力するだけで、AIが病名を特定したり、適切な治療法を提案してくれるのは当たり前。ミリ単位の精密さで手術をこなすAI搭載ロボットも誕生しており、これからは世界トップレベルの医師の技を持つロボットが手術をするのが普通になる。

医師や歯科医師という職業自体がAIによって淘汰されることが現実味を帯びてきました」

画像センサー技術が向上したことで、AIロボットは人間の「目」では発見できないような病気も見つけるため、すでに人間よりAIに診てもらうほうが助かる確率も高くなっているという。

中原氏が続ける。

「これからはAIが個人個人の遺伝子情報を分析し、個人レベルでオーダーメイドの薬を処方できるようにもなります。

そうなれば、手術をせずに薬だけで病気の大半が治せるようになります。医師がますます必要なくなるうえ、薬剤師の仕事もAIに代わられるでしょう」

医師や歯科医師だけではなく、いまはペットブームで人気職種の獣医師も大半が必要なくなりそうだ。

「これからは高精度センサーがついた毛布のようなものでペットをくるむだけで、病状診断ができるようになります。

家畜の牛、豚などにはセンサーがつけられて、その健康状態はデータで常時把握される。獣医師がわざわざ診に行くことなく遠隔診療できるようになって、その数も現在のように必要ではなくなる」(マイクロソフト日本法人元代表の成毛眞氏)

生保営業、SEが大ピンチ

そんな医療界と同じようにAIの猛威に晒されているのが金融業界だ。

すでに「仕事消滅」という想像もしたくない事態が起き始めていて、みずほFGではAIなどのIT技術を活用することで、全従業員の3割ほどにあたる1万9000人分の業務量を減らすことを決定。

今後は3メガバンク合計で3万人分の業務量が減らされるとの試算もあり、当然、その分、バンカーの仕事がなくなることになる。

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まさに銀行員受難の時代だが、次は保険業界がそのターゲット。業界全体に悲鳴が鳴り響くことになる。

「金融とIT技術を組み合わせたフィンテックは全世界で猛烈な勢いで発展していて、中国では必要なデータを入力するだけでAIが審査をして、数分で融資可能額が振り込まれるサービスがすでに始まっています。

保険業界にも間もなくそうしたフィンテックの波が押し寄せて、スマホなどで年齢、ライフプラン、貯蓄額などを入力すれば、AIがその人に最適な保険を提示してくれるようになる。

これまでは各社の生保営業が薦めてきた保険に入ったり、保険ショップファイナンシャルプランナー(FP)の提案するものを契約していたのが、それがAIに取って代わられるようになるわけです。いまは保険の審査業務も人力ですが、これもAIで代替される」(前出・中原氏)

当然、損保営業でも同じことが起こるのだ。

そんなフィンテックの猛威は凄まじく、海外ではすでに税理士の仕事が「なくなった」という国も出てきているから驚きである。

「行政サービスの99%がオンライン化しているエストニアでは、政府のデータベースに国民の銀行口座が紐づいている。そのため、AIが自動的にその口座履歴から納税額を計算できるようになって、税理士の仕事がすでになくなりました。

納税者はパソコンのボタン一つで納税額が計算でき、もう一度ボタンを押せばその金額を納税できるという具合です。

日本でもマイナンバーを起点にした電子政府化が進めば、将来的には税理士という職業自体がなくなるでしょう」(前出・成毛氏)

なにより数字の計算や分析はAIの能力が発揮されるところで、大手監査法人のエリート公認会計士が見抜けなかった東芝の不正会計問題にしても、「AI会計士」であれば完全に見抜けたといわれている。

そもそも「士師業」というのは、潜在的にAIに仕事を奪われやすい職種なのだという。

「税理士、会計士から司法書士、社会保険労務士などの士師業は、高度な専門スキルが必要とされている職業ですが、じつはAIが最も得意とする分野です。

いずれも資格試験に合格する必要がある仕事だというのがポイント。その資格に必要なルールと知識さえ覚えてしまえばできるタスクが多いので、AIにとっては将棋や囲碁に勝てるのと同じ理屈でできてしまうわけです。

すでにアメリカではAIによって、法廷書類を作成する弁護士助手の仕事が急速に奪われています。将来の役に立つとして資格試験の勉強を猛烈にしている学生がいますが、あまりお勧めしません」(前出・井上氏)

最近では喰いっぱぐれる心配がないとして、子供が幼少期からシステムエンジニア(SE)やプログラマーなどIT資格の勉強をさせる親も多いが、これも無駄……。

「AIが深層学習(ディープラーニング)する能力を備えるようになったことで、人間のSEがわざわざシステムを作らなくても、AIが自動的にシステム構築できるようになりました。

皮肉な話ですが、IT業界のエンジニアたちが生み出したAIによって、みずからの仕事が奪われることになっているわけです。世界中からエンジニア業務を受注して稼いできたインドなどの新興国は、経済全体への打撃も避けられません」(『仕事消滅』著者で経営コンサルタントの鈴木貴博氏)

「未来の給料」を全公開!

では、こうした職業の給料はどれくらいになってしまうのか――。すでにその仕事に就いている人も、その仕事を目指している人もやはり気になるのはそこだろう。

そこで今回本誌では、株式会社おたに代表の小谷祐一朗氏の協力のもと、さまざまな職種の「適正賃金=将来の賃金」を算出する史上初の調査を行った。

使用したのは同社が開発した価格予測AI『GEEO』。全国のハローワークの求人データ約500万件をもとに、経済統計や経済政策にかかわる1000を超える統計データを加味した独自のビッグデータを作成したうえで、『GEEO』が各職種の「将来の賃金」を弾き出した。

その結果をまとめたのが本稿の5ページに掲げた表。現在の平均募集賃金(実績値)と、AIが算出した将来の賃金(予測値)を比較して、下落率、上昇率が高かった順にランキング化している。

前述した歯科医師の場合、現在64万円の月給が、将来的には17万円にまで7割ダウンするという結果になっているのだから恐ろしい。FPや税理士、生保営業も給料は半額以下である。

ワースト4位には高速道路の保守・点検が入っているが、これはIoT(モノのインターネット化)の洗礼を受ける仕事の代表だ。

「これまで人間による目視で点検していたものが、IoT時代にはほとんど機械で代替できるようになります。たとえば、道路に埋め込まれたチップやセンサーが道路の傾き、揺れなどを監視して、道路に設置した監視カメラの高解析度映像からひび割れ状況などが把握できる。

そのデータはすべて中央システムに送信されて、問題があればAIが察知してアラームを鳴らしてくれる。すると、保守用ロボットが出動する。人間が入りこむ余地すらない」(前出・鈴木氏)

しかも、日本ではこれから少子高齢化・人口減少が進むことで、すべてのインフラを保守する財源が確保できず、インフラ業務の需要自体が減っていくという面もある。

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縫製工が大復活するワケ

給料が下がる仕事のランキングには大工、建築現場監督、不動産営業といった建築・不動産業界の仕事が数多く入っているが、これもまた少子高齢化・人口減少の影響をモロに受ける職業といえる。

「2024年には全国民の3人に1人が65歳以上になり、’45年には東京都でも3人に1人が65歳以上になるといわれるなか、これからは住宅取得者の数が恐ろしいペースで減っていくのが目に見えています。

同時に空き家が増え続けるので、若い人は新築住宅を作るのではなくて、中古物件をリフォームして住むようになる。そうなれば、新築住宅の市場自体がほとんどなくなることすらあり得る。

当然、住宅メーカーや大手ゼネコンをはじめとして、建築、建設にかかわる仕事の需要は激減する。建築業界はいまでこそ人手不足で給料が高くなっているが、将来は安泰ではない」(前出・中原氏)

AIと人口減少が同時に襲ってくる社会はかくも残酷で、われわれの仕事と生活を一変させてしまうわけだ。

では、そんな激変時代にあって勝ち残る仕事はどんなものかといえば、今回「給料が上がる仕事」ナンバーワンに輝いたのはなんと縫製工!中国や東南アジアの安価な労働力に仕事を奪われている代表的な仕事のはずが、いったいなぜ――。

「じつは縫製工はこれから日本になくてはならない仕事になる可能性を秘めています。背景にあるのは、アパレル業界の変革。

いまアパレル業界では既製品を大量生産・大量販売するやり方から、顧客それぞれの体型にあったオーダーメイド製品を多品種生産・少量販売する動きが急加速しています。

そうなると、新興国で一括大量生産できた既製品と違って、多様化・細分化した製品作りに対応できる技術力が必要となるので、技術力を持つ日本の縫製工の需要が高まるのです。

しかも、いまアパレル業界ではリユースビジネスが拡大しているので、古着を補修するという仕事のニーズも高まってきた。縫製工の仕事はこれからどんどん増えていく勢いなのです」(経済評論家の加谷珪一氏)

AIには絶対できない仕事がある

2位に病院の調理員が入っているのは、高齢化の進展で病院利用者が増えていくことがひとつの理由だが、それだけではない。

「これからは病気を治すよりも防ぐ予防医療が重要で、病院の役割もそこが期待されるようになる。その点、老人特有の病気を防ぐための個々人の日々の食生活から、誤嚥性肺炎のリスクまでを考慮した食事を作るには、高度な知識が必要になってくる。

病院調理員や病院の栄養士がそのプロフェッショナルとして活躍する時代が来るわけです」(前出・加谷氏)

3位の病院の介護職員は、じつはAIには代替できない仕事だという。

「介護の現場では、ベッドに寝ている人が床ずれして痛がっているかどうかなど、他人の痛みや感覚を察知する能力が必要ですが、AIやロボットにはそれができません。

同じように子供相手にゲームをしてくれる保育ロボットがありますが、子供はすぐに飽きてしまう。子供が飽きていることを敏感に察知して、ゲームの種類を変える人間の保育士のようなことがAIにはできないからです。

そうしたホスピタリティや臨機応変な対応ができるというのは、人間が持つ強力な能力。ホームヘルパー、学童保育指導員などの給料が上がるとされているのも同じ理由からでしょう」(前出・井上氏)

キャディが「給料が上がる仕事」とされているのも、まさにホスピタリティがモノをいう仕事だから。

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一方、AIが最も代替しやすいとされる「事務職」が多くランクインしているのは一見不可解だが、明確な理由がある。

「これからは事務職の役割が雑務をこなすものから大きく変わっていきます。契約書を作ったり、領収書を整理するといった仕事の大半はなくなる一方で、事務職は人間にしかできない『調整』という重要任務を担うようになる。

社内から取引先まで、先方の顔色をうかがいながら絶妙な調整をこなす仕事はAIには絶対にできない。今後はそうした秘書的な事務職の仕事がどんどん高度化・プロ化していき、経営者にとって掛け替えのない存在になる可能性もある」(前出・成毛氏)

このように給料が上がる仕事、下がる仕事のランキングを見ていると、これから職業、会社、社会がどう変わっていくかがよく見えてくる。

「10tドライバーやトレーラー運転手などの給料が下がるとされているのは、高速道路を使う長距離輸送はほとんど自動運転化ができるようになるから。

一方、集配ドライバーや2tドライバー、タクシー乗務員などは複雑に入り組んだ都市部を走るので、自動運転化が難しい。しかも、すでに人手不足のうえ、今後は宅配需要も急増するので、給料が上がる可能性が高い」(前出・加谷氏)

職業の未来はかくも明暗が大きくわかれる。

8割の仕事が消滅する時代。いまから情報武装・生活防衛を始めないと、大損することになりそうだ。

※「アフターメンテナンス」は施工後物件の点検、修繕などアフターフォローにかかわる仕事。「騎乗員」は育成・生産牧場などで競走馬の育成、調教など全般にかかわる仕事。「製缶工」は鋼板を使って産業機械の重要部材などを製造する仕事。「牧場作業員」は酪農牧場などで搾乳など牛舎内雑務全般を担う仕事。「アイリスト」はまつげエクステなどまつげ関連施術を行う仕事。「作業療法士」は障害を負った人や心身機能が衰えた人などのリハビリを担う仕事。「言語聴覚士」は言語障害、聴覚障害を負った人などのリハビリを担う仕事

※「製材工」は製材工場などで木材加工を担う仕事。「生活支援員」は施設などで障害を持った人の日常生活支援などを行う仕事
※「教習指導員」は自動車教習所でのインストラクター
※「サービス提供責任者」は訪問介護においてコーディネーター業務全般を担う仕事