爆買いされる「日本産ウイスキー」の謎

今や世界中のウイスキーファンから注目を浴びるジャパニーズウイスキー。その魅力とは? そして急速に品薄になってしまったのは、いったい何故なのでしょうか?

■ジャパニーズウイスキーのハイレベル化は、消費者のウイスキー離れが関係していた?

2001年――。英国のウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」が行った第一回目のブラインドテイスティング・コンペティションで、ニッカウヰスキーの「シングルカスク余市10年」が総合第1位、サントリーの「響21年」が2位という栄誉に輝きました。名だたるスコッチウイスキーの強豪を抑え、ジャパニーズウイスキーが初めて世界最高峰と認められた瞬間でした。その受賞をきっかけに、世界中のウイスキーファンが日本産のウイスキーに注目するようになっていったのです。その後も国際的なコンペティションで続々と高評価を得てきたことで、今日ではジャパニーズウイスキーの人気は不動のものとなりました。

スコッチやアイリッシュと比べれば歴史の浅いジャパニーズウイスキーですが、なぜそれほどのクオリティーになったのでしょう。その理由の一つは日本国内における、長く続いた消費者のウイスキー離れが関係していると見ることもできます。国内のウイスキーの出荷量は1983年をピークに年々縮小を続け、2008年には約5分の1の規模にまで落ち込みます。需要の減少により、樽詰めされたウイスキー原酒は熟成庫で長い眠りにつくことになりました。その結果、原酒は期せずして芳醇で上質なウイスキーに育っていたということなのです。なんとも皮肉な話ですね。

■品薄や終売が続くジャパニーズウイスキー。それほど需要が高い?

世界的な人気に伴い、国産ウイスキーは原酒不足という現象が起きています。その原因となっているのが、まずスコットランドと比べて日本は蒸留所の数が圧倒的に少ないこと。現在スコットランドでは操業中もしくは準備中の蒸留所が130か所余りあり、蒸留所は閉鎖されてしまったけれどまだ買えるウイスキーとなると160以上にものぼります。一方日本では、準備中の新しい蒸留所も含めて40か所ほど。独り歩きしている感さえあるジャパニーズウイスキー人気を当て込んで、昨今日本各地では蒸留所の建設ラッシュとなっています。すでに操業を開始しているところもありますが、規模の小さないわゆるクラフト蒸留所がほとんどで、ジャパニーズウイスキーの圧倒的需要を満たすにはまだまだ至っていません。

また日本産に限ったことではありませんが、一般的にウイスキーやブランデーのようないわゆるブラウンスピリッツには、木樽熟成という製造工程が必要であり、つくってもすぐには販売できないことも品薄を招く原因だといえます。蒸留したての無色透明なスピリッツは、樽という揺りかごに寝かされて最低でも数年という歳月を経て、ウイスキーというお酒に成長します。熟成が不要なジンや焼酎のようには、需要増加に対しすぐに供給ができないわけです。ただし、安価なウイスキーのなかにはほとんど熟成させないでカラメルで着色しただけのものもありますので、それらが品薄になることはもちろんないでしょう。

ジャパニーズウイスキーの品薄を招いている理由は他にもあります。それは中国人を中心とした投機目的の買い漁りです。もっぱら飲むことを楽しむ人々にとっては、なんとも迷惑な行為で腹立たしい限りです。

■愛好家が眉をひそめるウイスキーの転売

その人気に目をつけ、ジャパニーズウイスキーを投機の対象として見る人々も増えてきました。特に中国人富裕層の爆買いは目に余るものがあります。決して法に触れることをしているわけではありませんので咎めることはできませんが、そのせいで品薄になっているわけですから大変嘆かわしいことです。買ったウイスキーを彼らが美味しく飲んでくれるなら、まだ納得はいきます。しかし転売を繰り返し、金儲けの対象としか見ていないのですから、やるせないことこの上ありません。

この件を重く見て、購入条件に転売禁止の承諾を求める日本のウイスキーメーカーも出てきました。ですが合理的な理由がない限り、転売禁止規定は財産権を不当に制約するものだという指摘もあります。転売をしたことによってメーカーにどのような損害が生じたのか?という話になれば、規約違反があっても損害がゼロと判断されれば損害賠償請求をすることは困難になる可能性が高いようです。

ですが、なすすべなく品薄や価格高騰を嘆いていても仕方ありません。ジャパニーズウイスキーファンの中には、自国のウイスキーだからという理由だけでお好きなかたもいらっしゃるようにもお見受けします。ウイスキーというお酒がお好きならば、日本産にこだわらずスコッチやアイリッシュ、アメリカンにも目を向けてはいかがでしょう?