産経を締め出した中国が「日本政府はメディアを教育せよ」の笑止

先日、産経新聞による王毅外相と日本人外務事務次官の会談冒頭取材を拒否した中国政府。これに抗議した日本政府に対し中国外務省が「日本は自国メディアを教育せよ」と反発したことが物議を醸しています。台湾出身の評論家・黄文雄さんは自身のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』で、中国が自国に対して批判的なメディアを排除するのは当然としその理由を述べるとともに、近い将来、他国メディアに「中国に併合されることの幸せ」を報じさせる日が来るとの持論を記しています。

【中国】メディアの教育を日本政府に要求するが、人民の教育もできない中国

● 中国、本紙の代表取材拒否 日本人記者会がボイコット

中国政府は、8月29日に北京で行われた王毅外相と秋葉剛男外務事務次官の会談に際し、産経新聞の会談冒頭取材を拒否しました。これを受けて、北京駐在の新聞・通信社で構成する日本人記者会は、特定のメディアが取材拒否をされることは看過できないと、会談冒頭取材をボイコットするに至りました。

当然、日本政府も産経新聞排除を中国側に抗議しましたが、中国外交部の華春瑩報道官はこれを非難した上で、「日本政府は自国メディアを教育し制限しないといけない」と述べました。

● 産経排除への抗議に反発=日本政府は「メディア教育」を-中国外務省

この中国政府の産経新聞取材拒否と、日本メディアの取材ボイコットは、台湾でも大きく報じられました。台湾メディアの「民報」によれば、産経新聞は会談の冒頭取材について、くじ引きで会場での取材資格を得たものの、中国外交部が「中国と親しくない」(不夠親中)、「中国の意図に沿わない」(不符合黨意)という理由で、産経新聞の取材をNGにしたとしています。

● 北京封殺日本《産經新聞》不親中/20多家日媒集體抗議拒採訪

「民報」は、華春瑩報道官は物事の本質をぼかしているうえに、中国政府の態度はかなり傲慢だと批判しています。

もともと日本と中国は、事前に取材人数を制限することで合意しており、そのためくじ引きの制度が導入されているそうですが、しかし、中国の意図に沿わない報道をするメディアが閉め出されるのであれば、許可されるメディアは「中国の意図に沿ったメディア」ということになります。

かつて日本のメディアと中国政府の間には、日中記者交換協定というものが交わされました。これは1964年に結ばれ、その後、1968年に新たな内容で締結し直されたものですが、その内容を簡単にいえば、「中国を敵視しない」「二つの中国をつくる陰謀に加担しない」「日中国交正常化を妨げない」という「政治三原則」が掲げられ、これを守らなければ中国に記者を常駐できなくなるというものです。

そのため、中国にとって批判的なことを書いたことで、中国当局に逮捕されたり、中国から強制退去させられた新聞社や通信社が続出しました。また、中国から取材・報道ビザが下りないといったことも頻発したのです。

1960年代の中盤から70年代にかけての中国は、文化大革命が真っ盛りの時期です。文革によって中国では1,000万人以上が粛清や餓死などで死亡したとも言われていますが、朝日新聞をはじめとする「親中派」とされるメディアは、これをまったく報じず、むしろ文革を礼賛したことは、よく知られた話です。

また、1971年、毛沢東による粛清を恐れた林彪副主席が飛行機でソ連に亡命する途中、モンゴルで墜落死したという事件が起こりましたが、まだその事実が発覚する前、表舞台から林彪が消えたことで、海外メディアはこぞって林彪失脚を書き立てましたが、朝日新聞のみは、林彪は健在だと言い張りました。朝日新聞が林彪死亡を認めたのは、墜落死から10ヶ月も経過してからです。

このことは、「世紀の大誤報」として、朝日新聞が世界的な赤っ恥をかいた事件として新聞史に刻まれています。

とにかく中国や共産主義に肩入れして報道してきたメディアはことごとく真実を見誤ってきたのです。中国や共産主義に対する幻想は、中国の友邦である北朝鮮を「地上の楽園」と報じ、日本からの北朝鮮帰国事業も後押ししました。日本のメディアの口車に載せられて北朝鮮へ戻った朝鮮人、あるいはその配偶者となった日本人妻たちに、どのような暮らしが待っていたかということは、改めて言う必要はないでしょう。

今回、日本のメディアが産経新聞と歩調を合わせて取材ボイコットしたのは、私にとっては少し意外でしたが、それだけ日本は変わりつつあるということなのでしょう。

上記のように、ただでさえ、日本のメディアは中国や韓国の論調に従属的であり、さらには中韓に「ご注進報道」まで行って、日本の国益を損なってきたという過去があります。朝日新聞などは、「人民日報日本支社」「朝鮮日報 日本支局」などと陰口を叩かれてきたほどに、親中路線を貫いてきました。

そのことを多くの日本人が気づいてしまったのです。だから、ここでボイコットしなければ、本当に「中国の代弁者」だとレッテルを貼られてしまいます。実際には「一応は抗議のそぶり」しているメディアもあるでしょうが、ここは、産経新聞側に立つしかありません。

ましてや、習近平は自らを毛沢東に重ね合わせ、カリスマ化を進め、メディア統制を強めています。そのような中国に迎合することは、まさしく「毛沢東時代の再来」そのままです。

産経新聞が取材拒否されたのは、今回が初めてではありません。3月の李克強首相の記者会見への出席も拒否されましたし、6月のチベット自治区への取材団にも産経新聞は参加拒否されました。このとき日本記者クラブは取材団の派遣を中止しています。

また、取材を拒否されているのは産経新聞だけではありません。ここ数年だけでもアメリカのブルームバーグ、英国のBBC、フィナンシャル・タイムズ、エコミストなど、中国に批判的な報道をしたメディアが締め出しを食らっています。

● 中国新指導部の披露会見から一部メディア排除、米英紙など

もちろん、台湾メディアなどは、中国本土での取材が不可どころか、国際会議での取材まで中国から妨害されています。今年の5月には、台湾メディアによるWHOの年次総会の取材が中国の圧力で拒否されました。

● 台湾メディアの取材拒否=WHO年次総会、中国が圧力

今回の産経新聞の取材拒否については、その前段がありました。今年の6月27日、産経新聞は「対中安保『日台で対話を』台湾の外交部長が異例の呼びかけ」と題して台湾の呉ショウ燮外交部長の単独インタビューを掲載したのですが、これに対して、在日中国大使館は「断じて受け入れられないと産経新聞へ抗議しました。

● 台湾外相取材の日本メディアに中国大陸が抗議 外交部「受け入れられない」

台湾の外交部も中国の異例の抗議を「台湾と日本の報道の自由に反するものだ」と反論しましたが、こうした近年の経緯が今回の取材拒否につながったことは間違いありません。中国政府の方針に反する報道をするメディアは徹底排除するつもりでしょう。

しかし、共産党一党独裁の中国の現実を知るには、海外メディアの取材しかありません。中国国内のメディアは共産党の広報ですし、インターネットすら検閲されている現在、中国の現状を知るための方法は、外国メディアによる自由な報道しかありません。しかし中国にとってはそれが都合が悪いから、海外メディアの自由を規制したいわけです。それだけ、報じられたくないことが中国国内で進行中だということでもあります。

中国のメディアは「騙す文化から生まれたものであり、人民のメディア観も「嘘しか言わない」ということはわかっています。そのため、「人民日報は人民を騙す。解放軍は軍人を騙す」という俚諺があるほどです。

また、中国人にとって、メディアは政府礼賛の道具であるという認識です。いわゆる「歌功頌徳」で、政府の「功・徳」を伝えるのがメディアだという「伝統的観念」があるので、メディアは批判や異見を流すものではないと考えています。だからそもそも中国人に、メディアを使って政府批判をするという発想がないのです。

それにしても、中国の「日本政府はメディアを教育せよ」という言葉には、思わず笑ってしまいます。前述の日中記者交換協定のころから、中国政府は日本に対して「記者の教育」を求めていましたが、まだ同じことを言っているのかという感じです。

中国人は幼い頃から「政府を礼賛することこそ愛国だ」と教育されてきていますので、記者になってもそれが常識となっています。政府の徳政を礼賛することは、古代からの中華の文化風土から生まれた共有のエートスです。政府に異議申し立てをしてはいけないということは、中国人にとって当たり前のことであり、教育もそれを教えるためにあるのです。

中国ではそれが当たり前であるから、日本も当然、同じことができると思っているようです。さすが民主主義を知らずに独裁しか知らない中国共産党らしさともいえますが、そのような国が「21世紀の覇権国」になれるのか、なっていいのかということは、人類共通の問題でしょう。

もっとも、これまで日本のメディアや大企業も、「近隣諸国が怒るから」という理由で、首相の靖国神社参拝の中止を求めてきたのですから、日本政府は「近隣諸国が怒っているから」という理由で、中国の言うとおりに「メディア指導」を行ったらどうでしょうか。メディアが猛反発しても「近隣諸国に配慮した」と言えばいいだけです。みんな納得するでしょう。

台湾問題、チベット・ウイグル問題、人権問題、公害問題、中国人のマナーの悪さ、南シナ海問題、東シナ海問題、一帯一路、軍拡問題……中国にはさまざまな問題が存在しますが、今後は、それらを批判的に論じたメディアや企業は、中国では活動できなくなるのかもしれません。

中国政府はいま国内的には「習近平皇帝の偉大さ」をしきりに喧伝していますが、海外メディアに対しては「中国に併合されることの幸せ」「中国は地上の楽園」ということを報じさせようとしてくるはずです。

チベットやウイグルのみならず、香港での民主活動についても報道規制が入るでしょうし、台湾の政治取材については、前述したように、すでに中国から猛抗議がくる始末です。

かつて中国は、中国の立場に立って中国擁護、親中姿勢を見せる日本の文化人を「中日友好人士」として、最大限の支援を行ってきました。その恩恵を得てきた学者や政治家も少くありません。

ただ、ここ10年くらいは、日本での反中感情の高まりから、手放しで中国礼賛をする「友好人士」も少なくなりました。とはいえ、安心はできません。

現在の中国はいよいよ「踏み絵を踏むことを要求するようになっています。中国から「友好企業、友好人士」と呼ばれるようになるか、それとも取材や中国進出を拒否されるか。それによって、媚中派・人権無視派なのかどうかがよく判別できるようになると思います。