ブーム化する「ちょい飲みの現場」を見に行く

 近年、「酒離れ」という言葉を聞くことが増えた。特に若者層について言われることが多い。

「上司と飲むのは面倒」といった勤務先での人間関係の変化や、経済的な理由、さまざまなものがあるだろうが、なかには「酔っ払いはカッコ悪い」という価値観の変化もあるかもしれない。

■お酒を飲む女性が増えている

経済産業省が定期的に公表している「フード・ビジネス・インデックス(FBI)」の飲食サービス業の2013年からの推移を見ると、全業態で見れば概ね上昇傾向なのに対し、「パブレストラン、居酒屋」は4期連続の低下で、最低水準を更新したという。

 では、本当にみんなが酒を飲まなくなったのか。

こんな調査もある。2017年に日本酒造組合中央会が発表した「日本人の飲酒動向調査」がなかなか興味深いのだ。全国の20~79歳の3000人を対象に、1988年の調査以来30年ぶりに実施したもので、その変化にも触れている。

大きな傾向として取り上げられているのが、飲酒する女性が52.6%(1988年)から72.9%と増加していることと、その理由としてストレスと答えたのが、特に女性の20代、40代に多かったという点だ(ちなみに、ストレス要因を挙げた男性は30代が最も多く、次いで50代の順)。

 また、自宅飲み派か、外飲み派かという質問には、全体的に見ると自宅が多いのだが、全年代で見ると20代の外飲み度は最も高い。1回当たりの飲酒量も、ビール以外のアルコール類(日本酒、焼酎、ウイスキー、ワイン、カクテル、ハイボール)となると、全年代を通じて最も多いのだ。

これだけを見ると、若者、そして女性も、しっかり飲んでいる。しかし、彼らはどんなところで飲んでいるのか。そのヒントになる現場を、大阪に見に行ってきた。

■大阪・梅田のデパートは酒飲み天国

新しい「ちょい飲みスポット」として筆者が注目しているのが、デパ地下やスーパーだ。

これらの業種ではリニューアルの際にイートインスペースを拡張するところが増えている。なかでも熱い競争が勃発しているのが大阪・梅田駅周辺のデパ地下だ。

まずは大阪駅直結の商業施設「ルクア大阪」。2018年4月に地下2階に“次世代型の新しい食のエリア”「LUCUA FOOD HALL」(ルクアフードホール)をオープンした。うち「キッチン&マーケット」はイートインスペースを含む7つのエリアで構成され、ピザにローストビーフ、寿司などの海鮮やサラダ、また弁当や総菜もそろっている。それぞれの販売エリアにイートインもあるが、中央スペースに、ビールなどアルコールがオーダーできる「ミート&イートスクエア」があり、他のエリアで購入したデリやお弁当を持ち込んで、ちょい飲みを楽しむことができるのだ。

 「地ビール飲み比べセット」(1080円)に惹かれたのだが、あまりの盛況ぶりにオーダーを断念したほどだ。デリコーナーには300~500円程度で買える惣菜もあり、それらを購入して軽くビールをいただけば安上がりな晩酌になるだろう。夕方にはワインのボトルを囲んで女子会をしているグループもいた。

同じようなスペースは、阪急うめだ本店にもあった。地下2階の「ワールドフードマーケット」は、ルクアよりは小規模だが、やはりワインやビールを楽しめるイートインスペースを設置。デパ地下で購入したお酒や食品をその場で楽しめるほか、グラスワインやクラフトビールをオーダーできるカウンターもある。筆者が訪れたのは日曜の昼だったが、そこで買った寿司をつまみに缶ビールを飲んでいるご夫婦も見かけた。

 面白いのは、客層の違い。ルクアはOLやカップルといったイメージで、阪急はやや年齢が上のマダムたちや年配の夫婦。しかし、どちらもがっつり飲んでいる。

しかし、こんなものではなかった。先述のルクアには、さらにのんべいが押しかける「バルチカ」というスペースがある。先の「フードホール」とフロア続きだが、こちらに27ものミニ飲食店が並んでいて、24時まで営業中だ。たこ焼き、串カツ、お好み焼きといった大阪ソウルフードの粉もんから、ビストロや立ち飲み居酒屋、1人焼肉まで多種多様。ビールとのセットメニューを提供している店も多い。

 バルという名称からもわかるように、「お酒が気軽に楽しめる」というコンセプトのエリアで、気取りがないのがいいではないか。手元の資料では、夜の予算は2000~3000円程度の店が多いうえに、若いカップルやグループが多く、女性1人で飲んでいても違和感がないのもありがたい。大阪出張のビジネスパーソンは、下手に店を探してさまようより、ここで事足りると断言してもいいだろう。

しかし、安さでいうなら阪神百貨店に軍配が上がるだろう。こちらも2018年にリニューアルオープンした「スナックパーク」。地下1階のスペースに13店が並ぶ。触れ込みは「ほぼワンコイン」(アルコール除く)、食い倒れの街らしく安さで勝負だ。

 基本は立ち食い・立ち飲みで、もちろん名物イカ焼きやちょぼ焼き、お好み焼きが一堂に会する。むろん、飲みも安い。筆者が注文した魚の店は、5種盛りの刺身におでん3種、ハイボールがセットで1000円という破格値。つまみのボリュームがハンパなく、酒のお替わりが必須なほどだ。

また、540円で30分間ワイン飲み放題というお店は、ボトル数本をそのまま客に渡して注ぎ放題(つまみ1品のオーダーは必要)というシステム。しかも、これは日曜昼間の風景なのだ。もはやちょい飲みレベルではない。その場でご一緒した地元の方にうかがうと、その辺の居酒屋で飲むよりこっちが安いと断言してくれた。観光客や家族連れ、女性1人の姿も見かける。大阪人は昼間からどんだけ飲むんだ? と、へとへとになる体験だった。

■東京でのちょい飲みはスーパーが主導

関東のデパートには、ここまで「飲み」を打ち出しているところはまだ少ないように思うが、イオン系のスーパー「イオンスタイル」では「ちょい飲み」できるバルコーナーを併設する戦略を取っている。

スーパー業界ではグローサラント(スーパーとレストランを融合した言葉で、本来はスーパーの食材を使った食事を提供する)が注目されているが、子会社であるイオンリカーで売っているワインを試せる場という意味でのバル展開とも言える。

 首都圏では、御嶽山駅前店、碑文谷店、品川シーサイド店、新浦安店、座間店などがある。グラスワイン1杯300円、つまみは店舗にもよるが250円程度から。イオンリカーで買った酒を持ち込むと、グラスを貸してくれる。

再開発中の渋谷駅南側(渋南エリアというらしい)に9月にオープンした「渋谷ストリーム」の中にも、ちょい飲みできるミニスーパーがある。2階の「プレッセ シブヤ デリマーケット」には生鮮食品はないが、惣菜やお弁当、ドリンクや菓子類、そしてアルコールがそろう。イートインコーナーでは買った物を食べることももちろんできるが、サーバーから注いでくれるクラフトビール(1杯500円・250ml)も提供。4種類の飲み比べセット1000円(各125ml)もある。イートインコーナーには電子レンジやポットも備えてあるので、そこで買った惣菜で夕飯がてら軽く飲むにはぴったりだろう。

 デパ地下やスーパーでのちょい飲みは、安く、手早く済ませられるのがありがたい。居酒屋のようにお通し代もかからない。また、買って帰る家飲みと違い、酒びんや缶の分別や生ごみを捨てる手間から解放される。

店側にとっても、つまみに惣菜を買ってくれれば廃棄量も減るし、ついでに他の買い物をしてくれる相乗効果も見込めるだろう。どちらにとっても、メリットが大きいのだ。

■テイスティング的に飲むなら各地のアンテナショップ

 販売しているお酒がちょい飲みで試せるという意味では、各県のアンテナショップも面白い。たとえば、三越前駅にある「日本橋とやま館」にあるトヤマバーでは、富山県の酒蔵の地酒を楽しむことができる。1銘柄がグラス1杯(90ml)700円のほか、3種飲み比べセット(各30ml)700円も。つまみは300~500円程度で用意されている。気に入った酒は、ショップで取り扱いがあれば買って帰ることができるので、ちょい飲みというよりもテイスティングの場だろうか。木目のカウンターがすがすがしく、女性が1人で立ち寄っても違和感がない。

 銀座駅にある長野のアンテナショップ「銀座NAGANO」にも、入ってすぐのスペースにバルカウンターがある。長野産のグラスワインや日本酒をその場で楽しむことができ、いつも盛況だ。観察していると、アンテナショップでお酒をたしなんでいるのは女性客が多く、1人客も少なくない。先の「日本人の飲酒動向調査」には、こんな記述もあった。20代は決まった銘柄を指定買いするより、新しいお酒へのチャレンジ意向が高めなのだとか。日本酒やワインをボトルで買うより、お試しできる飲み方は若い世代にも合っているのかもしれない。

 以前、シングル層の男女にお金の悩みを聞いたことがある。その際、口をそろえて「飲み代がかかるので、なかなかお金が貯まらない」と語ったのが印象的だった。リクルートライフスタイルの調査でも、1人夕食(外食)の市場規模はこの5年の間で約1.2倍に拡大したとある。さまざまな形態のちょい飲みスペースが増えてくれれば、そうした悩めるシングルたちの一助になるのではないか。

筆者もそうだが、お酒は好きだが節約も大事、と考える層に向け、これまでの飲食業態にとらわれないリーズナブルな「ちょい飲み場」がもっと増えてくれると大変ありがたい。おいしいお酒とおいしいつまみを、さっと飲んで、さっと切り上げる――そういうきれいな飲み方ができる大人になりたいものだ。

松崎 のり子 :消費経済ジャーナリスト