ビートたけしが指摘 芸能人に必要なのは「嫌われ者」の自覚

2018年はタレントの不祥事によるニュースが相次いだ1年となった。その一方で、著名人やタレントの私生活を週刊誌やワイドショーが報じることへの批判も増えてきた。この現状について、11月30日に著作『「さみしさ」の研究』(小学館新書)を上梓したビートたけし氏は、若手タレントが陥っている「勘違い」を指摘する。

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元TOKIOの山口達也に限らず、「未成年との不祥事」に関しちゃ今や一発アウトって感じだな。オイラにゃ誰だかよくわからないけど、若手人気俳優の小出恵介ってのが17歳のオネエチャンと一緒に酒飲んで、そのうえヤッちゃって、活動休止になったっていう話もあった。

まァ、時代が変わって、法律でそうなってる以上、芸能人は気をつけるしかないよ。オイラの若い頃と、まるで状況が違うもの。 こういうイケイケの若い俳優の話を聞いてると、「とにかくお人好しだな」って思うね。おそらく、「自分は有名人だから、世間はみんなオレのことを好きだろう、いや好きに違いない」くらいに思ってるのが透けて見える。

それは大きな間違いでさ。芸能人なんて、世間に顔が知られてるだけで一般の人たちにとってみりゃ「心の底では腹立たしい存在」に決まってる。人気があって、女にモテて、それでカネまでもらいやがってってね。そんないけ好かないヤツが一度スキャンダルを起こせば、そりゃ叩くヤツは大勢いるよ。

不倫やら、世間に特に迷惑もかけないことで芸能人が寄ってたかって叩かれるのはどうかと思うし、オイラはその風潮にずっと文句を言ってきた。だけど、世間に名前を売って生きてる芸能人は、「自分は世間からいつボコボコにされてもおかしくない憎まれ者だ」って意識を持ってなきゃダメなんだよ。

こんなオイラも、そういうつもりでやってきた。今だってそう思ってる。昔から知ってる信用できる店でしかメシは食わない。馴染みの店でも個室に入って、できるだけ不特定多数に会わないようにしてるんだ。浅草時代や若い頃みたいな自由はもうないんだよな。でも、そうでもしなきゃ怖くてしかたがねェぞってさ。

そこまで徹底したって、「たけしは高い店の個室で偉そうにメシ食ってやがる」って話になることは避けられない。そういう世界だよ。食い物ですらそうなのに、「初めて会うヤレそうな女」なんてもっとヤバいに決まってる。それが人気商売ってもんだ。それくらい想像できなきゃバカだよ。

高倉健さんもそういう考えの人で、髪を切るのも、服を買うのも、メシを食うのもいつも同じ店だったらしい。あの人の場合、「俳優・高倉健のイメージを崩さない」っていう、もうひとつの大きな目的もあっただろうけどね。まァ、芸能人ってのはそれくらい世間の目を意識できなきゃダメなんだよ。

♦キャディに「上から目線」は下品

オイラはよくゴルフに行くんだけど、絶対キャディに文句をつけない。グリーンを読み間違えたり、キャディの言う通り打ってバンカーや池にハマっちまったりしても絶対にブーブー言わない。で、いつだってチップを渡すからね。

よく他の芸能人の話をキャディから聞くんだよ。 「俳優の〇〇さんはちょっと調子が悪いとすぐキャディに当たる」とか「タレントの△△さんはマナーが最悪で本当に下品なの」とかね。ひとりのキャディがそう言ってるってことは、ゴルフ場のキャディ全員がその話を聞いてると思ったほうがいい。

で、キャディが家族に話す。その家族が職場や学校で話す。つまり、ひとりのキャディに悪態をついたことはねずみ算式に噂になって、最終的には100人、1000人という単位で広まっていくんだよ。それがいつかヤラかした時に一気に爆発する。そう考えると、人気商売ってのは本当に怖い。「調子に乗る」ってのが命取りになる。

調子に乗ってる若手ってのは、きっと「自分は代わりのいない存在」だと勘違いしてる。だけど今や、芸能界にはそんな存在はほとんどいない。昔の高倉健さんや石原裕次郎さんみたいな不動のスターは、もう絶滅したようなもんだよ。

18歳成人なんて動きとはまるで逆で、今や30代や40代の男すらガキみたいに見えちまう。「高齢化社会」ってのは実は「大人の幼齢化社会」なのかもしれないな。

※ビートたけし・著/『「さみしさ」の研究』(小学館新書)より