世界「SUV狂騒」の裏側

■ポルシェにアルファ、ロールス・ロイスもSUV
世界的なSUVブームが、もうどうにも止まらない!

【写真】各メーカーの注目SUV

フォルクスワーゲン(VW)は10月25日、2025年までに全世界のSUVラインナップを30車種以上に拡大するという衝撃の計画を発表した。しかも25年には販売の5割をSUVが占めると予測!

VWは昨年、全世界で623万台を販売した。そのなかで大躍進を遂げたのが中型SUVのティグアンだ。実に前年比40%増の72万台を売ったというからスゴい。すでにVWの販売する車両は5分の1がSUVになっている。

そんなドル箱SUVに続くのが、発表されたばかりのVWの世界戦略車、新型コンパクトSUVのT-Crossだ。骨格は「MQB」(モジュラー・トランスバース・マトリックス)をベースに開発した。安全装備も超充実。人気大爆発は確実か!?

続いてはポルシェだ。11月2日、本格改良を受けた新型マカンの予約受注がニッポンでもスタート。14年の発売以来、世界累計35万台超の大ヒットを記録したマカンの新型は2L4気筒ターボに7速PDKを組み合わせ、シャーシの再チューニングも行ない、走行性能はギンギンにアップ。新開発のコネクティビティ機能も充実だ! ちなみにポルシェの販売の7割を叩き出しているのは、マカン&カイエンのSUVである。



BMWからは史上初となる3列シートSUV誕生のニュースが届いている。10月17日にフラッグシップとなるX7を発表したBMW。シートは3列シートが標準。どの列も電動シートでアームレストとドリンクホルダー、USBソケットが備わる。荷室容量は326L、3列目シートを倒すと750Lの容量となる。日本登場が今から楽しみだ!



100年以上の歴史を持つアルファロメオ初のSUVはステルヴィオだ。ニッポンには今年7月に登場した。エンジンは2L直4ツインスクロールターボエンジンを搭載。最高出力は280馬力で、駆動方式は可変トルク配分機構を備えた4WD。プラットフォームは次世代型の「ジョルジオ」が採用された気合いビンビンSUVだ!

それが証拠に昨年、ドイツのサーキット場であるニュルブルクリンク北コースで量産SUV最速タイムを叩き出しているのだ。走り好きは注目のクルマだ!



ロールス・ロイス初となるSUV「カリナン」も注目だ。エンジンは6.75LのV型12気筒ツインターボを搭載。571馬力を誇り、トルクは驚異の86.7kgm。車両重量は2750kgの豊満ボディ。すでにカリナンは日本国内でも受注を開始しているが、約3900万円としびれる価格だ!

■3列シートにPHEVもある!
一方、日本勢のSUV攻勢もハンパない!

世界で年間70万台以上を売りまくっているホンダのミドルサイズSUVのCR-Vが今年2年ぶりにニッポン復帰を果たした。エンジンはガソリンとハイブリッドのツープラトンで、3列シートモデルまで用意している。ちなみに8月30日の発表から約1ヵ月で5000台超を受注。月間販売計画の実に4倍以上を記録して滑り出しは好調!



お次はマツダ。フラッグシップSUV「CX-8」の改良車が今月29日から発売される。昨年12月のデビュー時にはディーゼルのみだったが、今回の改良で自然吸気とターボのガソリンエンジンを追加。

CX-8はマツダ初となる3列シートSUVで最上級グレードは400万円を軽く突破するが、昨年9月の予約開始から3万台超を売っている。ポスト・ミニバン的なSUVはCX-8で決まりだ!



世界累計販売16万台を突破している三菱のアウトランダーPHEVも注目だ。こいつはPHV(プラグインハイブリッド)としては世界で最も売れているクルマだ。8月23日より改良モデルが販売されているが、駆動用バッテリーとエンジンをまさかの新設計という大改良を敢行。

エンジン、モーター、ジェネレーターの出力を向上させ、EV走行時の航続距離も伸びている。しかも4WDシステムはランエボで培った電子制御S-AWCを超熟成させている。ちなみにこのハイテクSUVの最上級グレードの価格は509万40円!



■SUV人気はマッチョへの憧れ?
この世界的なSUVブームの背景には何が? 自動車専門誌の編集長が解説する。

「中国の年間新車販売は3000万台に迫る勢いです。そんな中国で昨年、SUVは1000万台以上を売りました。また、昨年の欧州市場でもSUVは456万台を売り、前年比19・5%増を記録。しかも、ベース車の背を高くするだけで100万円から200万円ほど価格を盛れる。SUVはまさに金脈なのです」

では、なぜSUVが世界中でこんなにも支持を集めるのか。自動車ジャーナリストの塩見智(さとし)氏はこう分析する。

「SUVは乗用車のジャンルとして今や最大派閥です。その理由は、世界中の人々のマッチョへの憧れを表したもの。男性はSUVに乗ればシュワちゃんみたいなマッチョなイメージを身につけられると思っている。一方、女性は運転席から下々を威嚇(いかく)するようなコマンドポジションのSUVに乗ることで、周囲の男性をかしずかせているような気持ちになれると思う」

さらに塩見氏が続ける。

「現実的な理由も話すと、SUVは圧倒的に便利なのです。多人数乗車というミニバンの要素を取り込み、4WDによる高い悪路走破性というクロカンの要素を取り込み、最近ではSUVなのに低くクーペの要素を取り込むモデルも。あらゆるクルマの要素を取り込んだ乗用車の最終進化系がSUVなのです」 

どうやらこの世界的な狂騒はまだまだ続きそうである。

(写真協力/VWグループジャパン、ポルシェジャパン、BMWジャパン、FCAジャパン、ロールス・ロイス・モーターカーズ、ホンダ、マツダ)


取材・文/黒羽幸宏 撮影/本田雄士