トヨタ「ガラパゴスHV」に危機感、電動化技術を開放

トヨタ自動車は2019年4月3日、ハイブリッド車(HV)に関する約2万3740件の特許技術を無償開放すると発表した。1997年に初代「プリウス」を投入するなどHVの技術では世界で先頭を走るトヨタ。世界的に燃費規制が厳しくなる2030年代に向け、トヨタの技術へのニーズが高まると判断した。トヨタの技術が普及すれば、規模の拡大によるコスト削減の恩恵も受けることもできる。一方、技術の「ガラパゴス化」によって優位性が薄れることへの危機感も透けて見える。

【関連画像】モーターや車載電池の電力を変換するインバーターなどで構成する「パワーコントロールユニット(PCU)」。今後はPCUやシステム制御などに関する特許を開放するだけでなく、導入に当たっての技術サポートをする「車両電動化技術のシステムサプライヤー」を目指す

 「電動化の技術はこの10年がヤマ」。同日、名古屋市内で会見したトヨタの寺師茂樹副社長はこう強調した。背景にあるのが30年代に向けた世界的な燃費規制の強化だ。先行する欧州の30年からの規制は現行に比べ、走行時に出す二酸化炭素(CO2)の量を半分、つまり燃料消費量を半分にすることを求めている。そうした規制に対し、「(販売する)半分の車をゼロエミッション、電気自動車(EV)にするのが現実的だろうか」と寺師副社長は話す。HVの導入拡大が現実解というわけだ。

 もともと、トヨタはHVの技術はEVや燃料電池車(FCV)にも応用できるとして開発してきた。とはいえ、技術を提供するのは提携するスズキやSUBARUなどに限ってきた。そうしたガラパゴス化に対する「反省があった」と寺師社長は認める。今後はモーターや車載電池の電力を変換するインバーターなどで構成する「パワーコントロールユニット(PCU)」、システム制御などに関する特許を開放するだけでなく、導入に当たっての技術サポートをする「車両電動化技術のシステムサプライヤー」(寺師副社長)を目指すことになる。

 EV本格普及へのつなぎ役として、HVの需要は世界各国で伸びると予想されている。ただHVの先駆者であるトヨタが優位に立ち続けられる保証はない。欧州では、従来のエンジン車の構造を流用しやすく、低コストで燃費を改善できる「マイルドハイブリッド」と呼ばれる方式が電動車の新たな主流になりつつある。

 トヨタやホンダなどが強みを持つHVはエンジンとモーターを組み合わせて効率的に走るため燃費の改善効果が大きい一方、機構が複雑で高度な電子制御が必要になるなど中堅以下のメーカーにとって導入のハードルは高い。一方、マイルド型は独ボッシュや独コンチネンタルなどの自動車部品大手が関連する部品・システムを積極的に外販しており、米フォード・モーターなど欧州勢以外にも導入する動きが広がっている。トヨタがシステムサプライヤーになると宣言したのは、こうしたメガサプライヤーの攻勢に対する危機感の表れでもある。

 ナカニシ自動車産業リサーチ代表の中西孝樹氏は「仲間づくりという意味ではもう少し早い段階で特許を開放してもよかった」と指摘する。自社のHV技術がガラパゴス化すればモーターなど中核部品のコストダウンが進まず、EVの競争力低下にもつながりかねない。車の電動化でトヨタが覇権をつかむことができるのかは、完成車メーカーに加え、メガサプライヤーとの競争の行方が左右しているといえそうだ。