ブラックホールの撮影に成功

映画『イベント・ホライゾン』では地獄の蓋が開いていましたが……現実では一筋の光明です。

科学者たちはついに、史上初のブラックホールの姿を撮像することができました。この画像は、5500万光年離れた乙女座銀河の中にある、巨大なM87銀河の中心に浮かぶブラックホールの「影」です。その質量は、なんと太陽の65億倍とのこと。これは科学者たちが世界に散らばる8カ所の電波望遠鏡を繋ぎ、地球サイズの仮想望遠鏡「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」として機能させたおかげで撮られたもの。そのイメージが、記者会見で公開されたのです。

ハーバード大学の天文学者にして、EHTのディレクターを勤めたシェパード・ドールマン博士が、米Gizmodoにこう語ってくれました。

これは驚きの結果ですよ。私たちは深く腰掛けて、感謝する時間が必要でした。何が最高かって、今すぐ疑問と回答が欲しいということではなく、研究に新たな分野が開けたということなんです。

悲願達成

ブラックホールは長い間、理論的に存在が確信されているだけで、実像はつかめていませんでした。ですが、過去60年に渡る天文観測は、時空がねじ曲がり、光すら逃げ出せないほど重力場が集中している天体が宇宙にあることを日々証明してきたのです。それが「イベント・ホライズン・テレスコープ」により、ブラックホールの存在にもっとも近い映像の撮影を可能にしたのでした。手を取り合った世界中の科学者たちに感謝ですね。

ブラックホールそのものの写真ではない

実はこの画像、ブラックホールの“写真”ではありません。そして影はブラックホールの事象の地平面でもありません。ここで見られるのは、ブラックホールの事象の地平面より5倍ほど大きい、周囲にある領域の物質から放出される電波による、重力効果なのだそうです。ブラックホールの専門家ロバート・マクニーズ教授いわく、重力が時空の形でねじ曲がり、領域内にある光を歪めることで奇妙な丸い影が見えるのだとか。

The Event Horizon Telescope isn’t exactly seeing a black hole’s event horizon. Rather, it is imaging the “shadow,” a region about 5x larger that would appear dark to us as a result of the deflection of light by strong gravitational effects. 680 15:26 – 2019年4月10日Twitter広告の情報とプライバシー 283人がこの話題について話しています

しかし、この観測はこれまでの常識を覆すものとなりました。、物理学者たちが宇宙を知るために使う重力理論、アインシュタインの一般相対性理論を証明する重要な証拠にもなったのです。

複数の観測データを統合

EHTの科学者たちは、超長基線電波干渉法(VLBI)の原理のおかげで、この撮像に成功しました。電波望遠鏡の解像度は、集光領域の直径光の波長の長さという、ふたつの主な特性に頼っています。どこまで大きな衛星受信アンテナを建造できるか? については物理的な限界があるので、波長の観測についても限界が出てきます。ですが科学者たちは、代わりにいくつもある対になった望遠鏡で得られたデータを統合する、ベースラインと呼ばれる手法を採用しました。それらの望遠鏡は南極、チリ、スペイン、アメリカなど8カ所から成ります。

EHTは、我々の銀河の中心にあるブラックホールと、M87のブラックホールの両方を撮像しました(今回発表されたのはM87のブラックホールです)。今回の結果は、研究対象としてとても興味深い天体でした。アムステルダム大学のセラ・マーコフ教授は、こう説明しています。

それらは活動銀河のド真ん中にあり、ジェットを噴射し、太陽系全体と同じくらい巨大です。

いま私たちは、ブラックホールがジェット生成の原因であることを知っています。ウォータールー大学エイヴェリー・ブロデリック助教授が、記者会見でこう説明しています。

サイエンス・フィクションが、サイエンス・ファクト(科学的事実)になったのです。

観測できたのは一部だけ

とはいえ、干渉法はまだ人間が画像を作らなくてはいけない、という大事なことを憶えておかなくてはいけません。EHTの科学者たちは、いくつかのデータを採取できただけで、少し聞こえてきたメロディーの部分だけ歌を口ずさんだ程度のものだ、と説明しています。

ブラックホールの理論は、アルバート・アインシュタインの一般相対性理論を解こうとした結果、生まれてきました。しかし物理学者デイビット・フィンケルステインが1958年に光の帰還不能点、つまりブラックホールがどのように見えるのかを考え出した研究でもあります。

この撮像もまた間接的なデータである

私たちはブラックホールの存在に関する間接的な証拠をいくつも得ています。たとえば重力波は、2つのブラックホールの間で起こった衝突で、質量がエネルギーに変わったことで生じたのだと考えられています。私たちは、私たちが大型ハドロン衝突型加速器で行った最高のエネルギー物理実験で起こった衝突から来るものより、もっと強大な粒子のジェット噴射が銀河の中心から放出されたものも観測しました。

技術的には、EHTのデータもまた間接的なものだったりするのですが、これは人類が観測し得るもっとも直接的な観測に近いものなのです。

科学者たちのコメント

イェール大学の物理学者、プリヤムバーダ・ナタラジャン博士が米Gizmodoにこう話してくれました。

イベント・ホライゾンが写したブラックホールが、我々の知識の限界です

ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天文物理学者、グラント・トレンブレイ博士もまた、Twitterでの質問に答えてくれました。

実際ここで見えているのは影なんですよ。どれほど素晴らしいものなのか、大袈裟に言うのが不可能なくらいです

ブラックホールが銀河の中心であれば、銀河系の中心にある明るくコンパクトな天文電波源「いて座A*(エー・スター)」はどこだろう? と思う人もいるかもしれません。これはブラックホールと同じ位置にあると考えられています。ですがそれは、見つけにくいものだとドールマン博士が説明してくれました。

EHTからいくつかの報告書も出ていますが、ブラックホールに関しては、まだまだ研究することが山積みです。この撮像は一般相対性理論のいくつかを証明していますが、まだいくつもの疑問が残っています。トレンブレイ博士は、「この撮像から、宇宙観測の新たな時代が始まるのです」と語っています。

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Posted by takahashi