東大・京大・早慶では「中国人留学生」が圧倒的に優秀という現実 教育現場が実感する「日本の衰退」

「中国人留学生」といえば苦学生で、学業よりも就労目的―。そんなイメージは完全に過去のものだ。1000万人の競争をくぐり抜けた人材が、日本の一流大学で、ズバ抜けた存在になっている。発売中の『週刊現代』でその実情について特集している。

数学五輪は世界1位

「ここ4~5年、東大にいる中国人留学生が全体的に優秀になっている印象があります。かつては優秀な子もいれば、そうでない子もいて、玉石混交の状態でした。

ところが、最近は日本人の学生はもっと頑張らないと厳しいと思えるほど、優秀な中国人留学生が増えています」

そう語るのは、東京大学先端科学技術研究センター教授・西成活裕氏だ。

大国・中国の存在感は政治、経済の世界以外でも増す一方だ。7月11日からイギリスで開催された国際数学五輪でも、中国チームはアメリカとともに1位に輝き、日本は13位に沈んだ。そんな国力の衰えを最も実感しているのが、教育現場なのだ。

いま、中国人留学生が東大、京大、慶應、早稲田などの名門校に多数在籍している。そして、その多くが日本人が太刀打ちできないほど、優秀な成績を収めている。

現在、東大には約2400人の中国人留学生がいる(’19年5月時点)。中国の高校を卒業した後、留学生試験を受けて学部から入る、あるいは中国国内の大学を卒業後に日本人と同じ院試を受けて、大学院から入学するなど、パターンは様々だ。

西成氏が話す。

「日本人学生とはハングリーさが違います。私の講義後、質問にやってくるのは、きまって中国人留学生。彼らは自分が理解できなかった部分や疑問に感じたところを、その場で明らかにしたいという考えを持っているように感じる。

反対に日本人学生はなかなか質問に来ない。『まあ、いいや』と済ませてしまう人が多い傾向にあると思います」

東大には学業、社会活動などで優れた成績を収めた学生を表彰する「総長賞」という制度がある。

これまで何人もの中国人留学生が受賞しており、直近では’17年度に薬学系研究科の博士課程に在籍する中国人留学生が「自然免疫受容体Toll様受容体7の構造生物学的研究」というテーマで総長賞を受賞している。

「私が会った中国人留学生で印象的だったのは、中国の大学を出て、研究員として東大にやってきた青年です。彼は何かに興味を持ち、研究を始めると、必ずどこかで区切りをつけ、論文という形にまとめるんです。

日本人学生の場合、研究を始めても、行き詰まったり、面白みがないと、すぐに諦めてしまう。必死さが違うんです。

通常、研究者は年齢と同じ本数の論文を書かなければならないとされています。たとえば、40歳であれば40本といった具合です。

しかし、彼は30代ですでに100本近くの論文を書いていました。いま彼は中国の大学に戻っていますが、30代の若さですでに教授になっています」(西成氏)

なぜここまで優秀な中国人留学生が増えているのか。ひとつに、総数自体が「爆増」しているという実態がある。

「独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が来日する留学生数を出身国別に調査しており、’13年度の中国人留学生の数は約8万2000人でしたが、’18年度は約11万5000人と、大幅に増加しています。

中国人留学生の数は留学生全体の4割弱と、ダントツです。人気なのは東大、そして早稲田です。早稲田は、初代総書記の陳独秀など、中国共産党の創設メンバーらが留学していたという点が、中国人の心をくすぐるようです」(『中国人エリートは日本をめざす』の著者で、ジャーナリストの中島恵氏)

日本でなら成り上がれる

早稲田には、現在、約3400人の中国人留学生がいる。慶應には約950人、京大には約1400人が在籍している(すべて’19年5月時点)。

中国の学生のトップ層はハーバード大、エール大といったアメリカの名門校に留学するケースが多い。米・国際教育研究所の調べによると、’17~’18年にアメリカの大学に在籍している中国人留学生は実に約36万3000人にのぼる。

それでも、日本を選ぶ優秀な留学生がいるのには理由がある。中国最大手のオンライン教育企業「沪江」の社員が解説する。

「留学先として日本を選ぶ理由の一つは、教育水準は一定以上あるにもかかわらず、欧米の大学に比べて学費が安いこと。つまりコストパフォーマンスがいいのです。

さらに奨学金制度も充実しており、決して経済的に豊かではない家庭の子息であっても、留学できる。治安が良いという点も、人気の理由の一つです」

彼らの優秀さの一因に、中国の大学入試試験「全国普通高等学校招生入学考試」、通称「高考」がある。高考は毎年6月に全国一斉に行われる、いわば「中国版センター試験」。

しかし、日本と違って大学別の入試はなく、高考一発勝負だ。中国には約2600校の普通大学があるが、多くの受験生が目指すのは、’78年に政府が選定した、北京大学や清華大学を始めとする88校の「国家重点大学」。

その他の大学と比べ、ブランド力や就職実績が天と地ほど違う。今年6月に実施された高考の出願者数は、実に約1031万人。日本とはケタ違いの競争率なのだ。

この高考に向けて、中国の学生たちは死に物狂いで机に向かう。東大大学院に通う、中国人留学生A子さん(24歳)が話す。

「高校時代は朝6時に起床し、体操をして、朝食を食べたら、後はずっと勉強でした。中国の中学・高校は寮生活を送る学生が多いですし、日本のような部活動も基本的にはありません。なので、ずっと勉強漬けなのです。

高校1年のうちに、3年間分のカリキュラムをすべて終え、2年からは高考にむけた受験勉強です。休日は朝7時から深夜2~3時まで勉強する生徒も珍しくありませんでした」

毎年のように高考でのカンニングなどの不正事件が起きるのも、それだけこの試験が厳しく、人生を左右するものだからだ。A子さんが続ける。

「先生からは、繰り返し『合否を分けるのは、ほんの少しの差だ。合格まであと1点だったと嘆く生徒が毎年いるが、その1点に数万人の受験生がひしめいている。それが高考だ』と言われました」

勝負にならない

一方、今年1月の日本のセンター試験の出願者数は約58万人。高考では、中国の23ある省のひとつの受験者数程度にすぎない。

高考を突破し、中国国内の名門大学を経て日本の大学院にやってくる留学生はもちろん、高考で思ったような結果が出ず、やむなく日本の大学に入学する留学生も、この1000万人との苛烈な競争を経験してきている。

日本にやって来てからも、中国人留学生は勉強することを止めない。日本人学生がアルバイトや遊びに没頭する中、彼らは家と大学を往復する毎日を送り、ひたすら勉強、研究に明け暮れる。日本人学生は、端から勝負にならないのだ。

海外に飛び出した中国人留学生の多くは、卒業後は中国に帰国する。しかし、日本へ来た留学生は、そのまま日本国内の企業に就職する人が多いという。中国問題に詳しい、ジャーナリストの福島香織氏が語る。

「トヨタや伊藤忠商事などの大企業を始め、メディア系企業、外資系企業の日本支社などに入る人もいます。

中国の共産党一党体制を好ましく思っていないから、安全で空気が綺麗だから、あるいは単純に日本文化が好きだからなどの理由で、そのまま日本で就職する人が多いのです」

’18年6月に米・トランプ政権は、ハイテク分野など、一部の留学生のビザの期間を最長5年から1年へと大幅に短縮した。

米中関係の悪化から、すでに中国人留学生のビザが出にくくなるといった影響が出始めている。これまで米国に行っていた中国の最優秀層の学生たちが、今後、続々と日本に流れる可能性は高い。

大学のトップ層はもちろん、国内の有力企業の中枢も中国人ばかり――。そんな未来は、すぐそこまでやって来ている。

発売中の『週刊現代』ではこのほかにも「7月1日から相続は『早いもん勝ち』に変わっていた」「すごい退職金をもらっている会社の人たち」「死の前後に起きること」などを特集している。