【藤野 英人】日本人だけが知らない「日本の強さ」の正体…アジアで見た意外な現実 日本には「分厚さ」がある

アジア各国で考えた

6月下旬、投資先企業調査のためにアセアンに行ってきました。

フィリピン・マニラからベトナムのハノイとホーチミンを回り、最後にインドネシア・ジャカルタへという行程で、観光もはさみながら10日間で約30社を訪問しました。今回はアセアン訪問で投資家として考えたことをお伝えしたいと思います。

〔photo〕gettyimages

ベトナム・インドネシア・フィリピンはアセアンの中でも成長著しい国々として「VIP」と呼ばれていますが、実際、どこに行っても「パワーが溢れているな」と感じます。道路は大渋滞しているのが当たり前で、移動は一苦労です。これは、交通インフラがしっかり整備されないうちに人口が爆発してしまったという面もあるのでしょう。経済成長は、今後10年ほどは続いていくのではないかと思います。

街中では、新しいサービスが広がっている様子もこの目で見ることができました。ウーバーは駆逐され、代わりにマレーシアに本社を置くグラブと、インドネシアに本社を置くゴジェックがバイクタクシーサービスで市場を席巻しています。

バイクなら渋滞もすり抜けて移動できますから、ビジネスマンから若い女性までバイクタクシーを利用する人がたくさんいるのです。どの街でも、緑色の服とヘルメットを身に着けたグラブやゴジェックのライダーがあちこちを走っています。

企業調査は、国を問わずやることは同じです。

言葉の違いはありますが、お客さまのためにどのようなビジネスをしているのか、そのビジネスには永続性があるのか、成長性はあるのか、ライバルとどのように差別化しているのかといったことを確認します。

「日本人=4L」という現実

実際に現地の経営者に会って感じたのは、歴史ある財閥系企業でもベンチャー企業に近いマインドを持っている人が多いということです。非常にアグレッシブで、プレゼンもうまく自分たちのミッションやビジョンを明確に話しますし、意思決定のスピードも早いと感じました。

一方で強く感じたのは、日本の投資家の存在感の薄さです。

〔photo〕iStock

今回はVIPの代表的企業を訪問したのですが、それにもかかわらず「日本人に会うのは久しぶりだ」といった反応が少なくありませんでした。そしてどこに行っても、日本人について言われている「4L(フォーエル)」という言葉を耳にすることになりました。

「4L」とはLook、Listen、Learn、Leaveの頭文字で、「見て、聞いて、学んで、帰るだけ」という意味なのだそうです。日本人がやってきても視察だけに終わることが多く、「投資したい」「一緒に事業をしましょう」といった話にはならないといいます。

議論したり意見を述べたりすることさえなく、「ありがとうございました、勉強になりました」と言って帰っていくだけなので、現地の企業経営者からすれば「何をしに来ているのかわからない」わけです。

私たちはこれから投資をするために準備している段階ですが、少なくともアクションを起こそうとしていることは感じてもらえたようで、「君たちはほかの日本人とは違うね」と言ってくれる経営者もいました。また、私たちがベンチャー企業であること、資産残高でアジア最大のアクティブ株ファンドを運用していることなどを話すと、「アジアで最も大きいファンドは中国人ではなく日本人が運用しているのか」などと興味津々の様子で、運用会社としてのこれからに向けた手応えも得ることができました。

日本はやっぱりすごかった

アセアンにはこれから何度も訪問することになるだろうと思います。

実際にアセアンで投資をするようになれば、企業との関係構築も進んでいくでしょう。アジアで成長する企業に投資することは当社のお客さまのためになるのはもちろん、アジアの成長企業に日本の資金が投入され、それが成長資金となって実った果実が日本に戻ってくるというのは素晴らしい循環だと思っています。

そしてもう一つ、私が今回のVIP訪問で考えたのは、「日本はやっぱりすごい国なんだ」ということです。

今回訪問した国は、いずれも鉄を輸入しています。

自動車部品や電子部品も輸入に頼っていますし、自動車やスマートフォンもすべて輸入品です。技術力がなく、付加価値の高い製品は自前では作れないので、輸入に頼らざるを得ないわけです。

〔photo〕iStock

加工度の低いものを輸出し、加工度の高いものを輸入している状況では、1人あたりの所得はなかなか上がりません。もちろん、これらの国々ではこれから人口が増え、インフラが整備されて消費も伸びていくことも間違いありませんが、教育水準の向上、それに伴う技術力の向上が起きなければ、人口の伸びが止まったところでGDPの伸びも止まることになるでしょう。

翻って日本について考えてみると、鉄や化学製品などを作る技術は高く、供給が多すぎて需要がだぶつくほどですし、自動車部品や電子部品はもちろん自動車やハイテク製品も世界に送り出しています。小惑星探査機「はやぶさ」には町工場の技術が詰め込まれ、新潟・燕三条の会社がiPhoneの重要部品製造を担うなど、中小企業魂にも目をみはるものがあります。

いずれも私たちにとっては「当たり前のこと」ですが、歴史や文化、教育水準の高さというベースがあってこそ今の日本があるのであって、この厚みはASEAN諸国が一朝一夕で覆せるものではないでしょう。

うつむく必要はない

日本では、この国の未来を悲観的に語る人が少なくありません。私には、多くの人がうつむいているように思えます。しかし日本はGDPの世界ランキングで第3位の大国であり、その強さは簡単に崩れるものではありません。

これほどのベースを持ち、安全で、美味しいご飯が食べられ、働く機会もたくさんあり、やる気があれば資金を提供してくれる人もいます。日本の中で挑戦心を持っている人は、「世界最強」と言ってもいいのではないかと思います。そんなにうつむく必要はないのです。

日本がつまらない、息苦しいなどと感じるなら、アジアで挑戦するのもいいと思います。実際にVIPで頑張っている人は少なくありません。

たとえばベトナムではいま、「Pizza 4P’s(ピザ フォーピース)」というピザのお店が大人気。「平和のために」という名前のこのお店を経営しているのは、ベトナムに移住した日本人夫婦です。

現地においしいチーズがないからとベトナムで自家製チーズまで作るこだわりようで、そのおいしさが評判を呼び、現地の人はもちろんベトナムに滞在する日本人や欧州の人々も魅了しています。同じくベトナムで大人気の「FUWAGORI(フワゴオリ)」という名前のかき氷店も経営者は日本人で、今後はアジアの国々への展開を視野に入れているといいます。

うつむきがちになっている人や煮詰まっている人は、一度アジアの国々に出かけみてもいいかもしれません。のんびり観光でもしながら、自分を見つめてみるのです。そこには成長する国の姿があり、一方では日本の素晴らしさを改めて感じることにもなるでしょう。「日本にまだまだ自分が活躍できる場があるんだ」と気づくのか、それとも「アジアに出て働いてみよう」という気持ちになるのかは、みなさん次第です。