[生活調べ隊]ベビーフード 薄れる抵抗感…「離乳食は手作り」にこだわらず

少子化の進行にもかかわらず、ベビーフードが売り上げを伸ばしている。商品を刷新するなど、メーカーがさらにテコ入れする動きもある。背景を探った。(内田淑子)

 棚いっぱいに瓶詰やレトルト、フリーズドライなど様々なベビーフードが並ぶ。「豚肉と緑黄色野菜のグラタン」「牛そぼろと豆腐のすき煮」と商品名も本格的だ。川崎市中原区の「アカチャンホンポグランツリー武蔵小杉店」では、約600種類もの商品を取り扱う。

 9か月の女児を育てている女性(38)は「3歳の長女もおり、まだ手がかかるので、すぐに食べさせられる商品はありがたい」と話す。

 主要メーカー6社で作る「日本ベビーフード協議会」(東京)の統計では、市場規模はここ数年拡大傾向にあり、特に2018年は前年比8%増の440億円となった。レトルト商品や主食とおかずがセットになった商品が伸びているという。同協議会事務局の浅見太一さんは「レトルトは自宅で、セット商品は外出時。使い分けたいという消費者ニーズに応えているようだ」とみる。

 同協議会によると、18年度にはレトルト商品が88品廃止された一方、新たに88品が発売された。「各社とも、商品刷新での魅力アップに力を入れているのでは」と浅見さん。

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 テコ入れの動きは19年も続く。「和光堂」ブランドを展開するアサヒグループ食品(東京)は9月、レトルトの新商品「WAKODO GLOBAL」を発売する。肉や野菜は全て国産素材を利用。同社の一般的なレトルト商品は店頭で100円前後だが、新商品は希望小売価格200円(税抜き)と強気だ。

 近年は新規参入も相次ぐ。製麺会社が赤ちゃん用のうどんを販売したり、加工食品メーカーが生後5か月頃からでも食べられるカット野菜を商品化したりしている。

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 各社が取り組みを強化するのは、離乳食に対する意識の変化を感じているからだ。

 アサヒグループ食品が19年、生後7~18か月の子のいる母親に行った調査では、市販ベビーフードの利用に抵抗がある人は16・8%で、前年比6・9ポイント減。同社ベビー&ヘルスケア事業本部の首藤美佳さんは「『離乳食は手作りで』とのこだわりは薄れつつある」と話す。

 育児に関わる男性の増加も市場拡大につながっている。調理に不慣れな男性でも、ベビーフードなら扱いやすい。

 19年3月、12年ぶりに改定された厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」では、離乳食は「手作りが好ましい」と記述。その上で、「ベビーフード等の加工食品を上手に使用することにより、離乳食を作ることに対する保護者の負担が少しでも軽減するのであれば、それも一つの方法」としている。

 同ガイドでは、離乳の完了期を生後12~18か月頃としており、ちょうど育児休業から復職する母親が多い時期に重なる。働く女性が増えるなか、仕事と育児の両立のため、「時短のためにベビーフードを活用したい」というニーズは今後も高まりそうだ。

 育児誌「ひよこクラブ」(ベネッセコーポレーション)でも、月齢ごとの人気商品などをまとめた特集記事は母親らに好評だという。編集長の仲村教子(ゆきこ)さんは、「ベビーフードへの後ろめたさを感じないママも増えている。それぞれのライフスタイルで赤ちゃんとの食事を楽しめるといいですね」と話す。

 「長期保存できるのは保存料を使っているから?」「味が手作りのものより濃いのでは」――。ベビーフードに対する親の疑問は根強い。その払拭(ふっしょく)にも各メーカーは知恵を絞る。

キユーピー(東京)は5月、東京都調布市の見学施設「マヨテラス」に、0歳児とその親を対象にしたベビーフードの体験メニュー「ベビーコース」を設けた。そこで商品に関する質問に答えている。

 長期保存については「容器に詰めて、密封した後に加圧加熱殺菌をしているので日持ちします。保存料は使っていません」、味が濃く感じるのは「だしや素材の風味を生かしているから。塩分を示すナトリウム量は業界の規格に従っています」などと説明する。

 同コースを担当する高田香代子さんは、「月齢に合った食材の大きさや軟らかさ、味付けなどがわからない時にも、ベビーフードは参考になりますよ」とアドバイスする。

 買いすぎて適切な月齢の間に使い切れなかった商品に別の食材を加えてアレンジするレシピも人気だという。例えば、5か月から食べられるトウモロコシの裏ごし(瓶詰)は、子ども向けにコーンスープを作る時にも活用できる。

 他社もホームページでアイデアを発信する。足りない栄養素を補う工夫やベビーフードを使った行事食のレシピなど、参考になるものも多い。

 もちろん、注意すべき点も伝えている。衛生面の観点から、ベビーフードの食べ残しや作り置きした分は与えないといった内容だ。一部を保存したいなら、レトルト商品の場合は食べる分を取り分け、残りを別の容器に移して冷蔵するなどの説明もしている。

 ◎取材を終えて ベビーフードの変化はパッケージでも感じた。印象的だったのは、食事時の声かけを学べるQRコードだ。サイトを見ると「ちゃんと食べられたね」などと話しかけながら食べさせる動画が流れた。

 十数年前の自分を思い浮かべた。長男の子育てでは月齢に合った離乳食作りに励んだが、手作りしたのにあまり食べない時は、ついイライラして無言でスプーンを口に運んだことも。手作りにこだわるより、楽しい食事の時間を作る方が大事。そんな当たり前のことを改めて学んだ。