「サンリオピューロランド」の来場者数が5年で約2倍 現地で見えてきた“勝因”とは

 サンリオが手掛ける屋内型テーマパーク「サンリオピューロランド」(東京都多摩市)の売り上げが2桁増と好調だ。7月31日に発表された2020年第1四半期(19年4~6月)決算によれば、来場者数は32万9000人と前年同期比8.4%増となった。それだけでなく、お土産などの商品やレストランの売り上げも軒並み伸びた。

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 驚くべきことに、ピューロランドの来場者数は113万9000人(13年度)から219万人(18年度)へと、5年でほぼ倍増している。特に平日の集客は4倍にもなったという。

 「当園ではSNS映えするスポットをつくったり、インバウンド受けする歌舞伎を取り入れたショーを始めたりして、お子さまばかりでなく、大人や外国の方でも楽しめるような内容に変えてきました。お客さまの層が広がり、3世代で来ていただけているのを実感しています」とサンリオピューロランド営業部マーケティング課・林亜衣子氏は好調の要因を語る。

 今年は、45周年を迎えた「ハローキティ」を前面に出したグッズやアトラクション、レストランメニューが当たっており、このまま突っ走る勢いだ。かつては「サンリオのお荷物」

 ピューロランドは1990年12月の開園。91年度には来場者数194万8000人を記録したが、長らく初年度の実績を超えることができず、慢性的な赤字に悩んでいたため「サンリオのお荷物」とまで言われていた。09年度には過去最低の108万5000人まで落ち込んでいた。

 それが、17年度には198万人を集客して、実に26年ぶりに過去最高を更新。劇的なV字回復を成し遂げ、黒字に転換。今や現代日本における“KAWAII(カワイイ)カルチャーの聖地”と認識されるまでになった。

 今回は、ピューロランドが人気になった背景を、「ハローキティ」45周年の盛り上がりという観点から読み解いていきたい。大雨でもにぎわう

 台風接近のため荒天が予想され、実際に多摩丘陵では局所的な大雨が降っていた8月の某日、サンリオピューロランドを取材で訪れた。テーマパーク観光には全く不向きな天候と思われ、さすがに空いているだろうと高を括っていたが、良い意味で裏切られた。

 園内は目を見張るほどの活気であふれていたのだ。

 京王、小田急、多摩都市モノレールの多摩センター駅前にある「パルテノン大通り」からピューロランドを結ぶ「ハローキティストリート」を歩いていると、人通りはまばら。しかし、屋内型のピューロランドは車で来園する顧客が多く、天候に左右されない強みを発揮していた。

 キティと記念写真が撮れる点が人気の施設「レディキティハウス」に行ってみた。フォトスタジオで出迎えるキティ(着ぐるみ)の歓待ぶりは尋常ではない。まさに、全身を使って手を広げたりハグをしたりと、出会えた喜びを過剰なまでに表現する。そしてかわいらしいポーズをとって、撮影係のスタッフのリードで一緒に写真へと納まってくれるのだ。

 物言わぬ着ぐるみでも、パフォーマンスを徹底すれば時には言葉より気持ちが伝わるものだ。握手会で人気を博すアイドルにも通じる。老若男女・国籍を問わず、キティのファンはこれだけでも胸いっぱいになってしまうに違いない。

 レディキティハウスではキティ45周年を記念して「初めて出会った時のハローキティ」を思い出してもらうという「My First Kitty」をコンセプトとしたイベントを1月12日から開催中だ。

 エリア全体がラベンダーとピンクの花でデコレーションされ、いつもよりいっそう華やかに彩られている。フォトスタジオでは、運が良ければ45周年アニバーサリードレスを着たキティが出迎えてくれることもある。

 グッズ売場では、45周年を記念したラベンダーとピンクの衣装の特別なキティグッズも販売している。

 その他にも、レディキティハウスにはインスタ映えするスポットが多数設けられている。巨大なポットからミルクティがティーカップに注がれるオブジェや、外国人に人気の和室でキティのぬいぐるみと一緒に写真が撮れるコーナーなどがあって、顧客を飽きさせない。

 また、メルヘンの世界に来たようなキャラクターフードコートでは、キティ45周年記念メニューとして、辛さを調節できる「栄養バランスキティカレー」や「キティのアニバーサリーケーキ」、料理が盛られたお皿を持ち帰れる「キティのアニバーサリーコンビプレート」といった期間限定メニューが販売されている。

客席が毎回ほぼ満席

 「メルヘンシアター」で上演中の「KAWII KABUKI~ハローキティ一座の桃太郎~」は、18年11月からスタートしている。350席ある客席が毎回ほぼ満席となり、立ち見が出るほどの人気だ。20年の東京五輪に向けて、サンリオキャラクターのKAWAIIと、日本の伝統芸能である歌舞伎を融合させて、海外の顧客にも楽しんでもらおうといった趣旨。

 監修は松竹で、脚本・演出・作詞にワンピースのスーパー歌舞伎などを手掛ける横内謙介氏、歌舞伎演技指導に市川笑三郎氏を迎えている。日本人なら誰しも親しんでいる昔話「桃太郎」をモチーフに、ミュージカルやダンスの要素を取り入れるだけでなく、プロジェクションマッピングも効果的に使っており、デジタル技術と融合した独特な舞台を構築している。

 また、今夏は「ピューロ夏フェスLIVE!!!!」というライブショーや「ハローキティイルミネーションSPARKLE!」も行っており、音楽やイルミネーションが好きな顧客も取り込んでいる。

 「ショーに出演するイケメンのダンサーを目当てに、毎日のように1人で来るお客さまもいます」(前出・林氏)とのことだ。

 園内のメインイベントともいえる「ミラクルギフトパレード」は15年12月、ピューロランド25周年を記念して約8年ぶりに一新されたものだ。ピューロランドのシンボル「知恵の木」を囲む「エンターテイメントホール」で開催されている。

 アートディレクターにきゃりーぱみゅぱみゅさんらを手掛ける増田セバスチャン氏、メインテーマの作詞・作曲にももいろクローバーZへの楽曲提供で知られるヒャダイン氏(前山田健一)を迎えるなど、日本のポップカルチャーの英知を結集。キティを主役に、マイメロディやシナモロールなどサンリオが誇る人気キャラクターがフロート車に乗って登場する。ストーリーは「かわいい」「なかよく」「思いやり」の大切さを訴える内容になっており、究極のKAWAIIを見せるといった意気込みを感じさせるステージ作りを行っている。

 アクロバティックなダンスやポップな歌が楽しめるだけでなく、顧客が購入したシーンによって色が変わるミラクル・ライトによってイルミネーションに参加できる。体験型の新しいパレードとなっている。

人気投票でキティが1位に返り咲き

 ピューロランドとキティの勢いは、外部のコラボ企画にも発揮されている。増田氏プロデュースで15年8月、原宿にオープンした「KAWAII MONSTER CAFE」(カワイイ モンスター カフェ、経営はバグース)では、7月12日から9月30日までキティとのコラボ企画「原宿×KAWAII×ハローキティ」を開催中だ。9月1日までの予定だったが、好評につき1カ月延長した。

 店に入ると、正面に突如としてケーキ型のメリーゴーランドに乗った巨大なキティが現れ、度肝を抜かれる。この回転するキティの周りで、モンスターガールと同店のキャラクターであるチョッピーが踊るショーも開かれる。

 店の奥にはキティに囲まれて過ごせる「Mel-Tea Hello Kitty Room」(予約制)を用意。コラボメニューとして、キティのカラフルポップバーガー、原宿レインボーカレー、スイーツゴーランドケーキなどを販売している。

 アクリルキーホルダー、ステッカー、Tシャツなど同店でしか買えないコラボグッズも充実。キティの世界が満喫できる。

 このように活躍が目覚ましいキティは、4月10日~5月27日に開催されたネット投票でサンリオのキャラクター人気ナンバー1を決める「サンリオキャラクター大賞2019」で、6年ぶりに1位を奪回。息の長い人気ぶりを証明した。キティのプロフィールとは?

 キティは74年、ビニール製の小銭入れであるプチパースのデザインで初登場。当初は名前も付いていなかったが、売れ行きが抜群だったので、次のようなプロフィールが設定された。

 「身長はりんご5個分。体重はりんご3個分。明るくて、優しい女のコ。クッキーを作ったり、ピアノをひくのが大好きで、夢はピアニストか、詩人になること。音楽と英語が得意。好きな食べ物は、ママが作ったアップルパイ。双子の妹、ミミィとは大の仲良し。誕生日は11月1日」

 家族には、ミミィ、パパ、ママ、おじいちゃん、おばあちゃんがいて、ボーイフレンドはダニエル スター。ペルシャネコのチャーミーキティは、パパが誕生日のプレゼントにくれたペットだ。キティは女のコなので擬人化されてはいるが猫ではない。キティが飼っているチャーミーキティが猫である。家族等の設定は、順次付け加えられてきた。

 キティは人間の持つ腹黒い心や邪悪な心が生み出した「モンスター」と戦う時、イチゴマンに変身する勇猛な面がある。イチゴマンの登場は11年の「ハローキティアート展」。イチゴ型のスマートフォンを天空に掲げ、みんなで合唱する「パワー・ザ・キティ!」の声が数百万ヘルツに達すると変身するのだ。

 なお、ハローキティアート展とは、80年に就任した3代目デザイナーの山口裕子氏が、キティを現代アートとして表現した美術展である。

大人が持っても違和感のないキティ

 キティは、マイメロディ(1975年)、リトルツインスターズ(通称:キキララ、75年)、ポムポムプリン(96年)、シナモロール(2001年)、ぐでたま(13年)などといったサンリオが自社内で開発したキャラクター群でも最初にヒットした。ファンシーグッズを直営店で売るというサンリオのキャラクタービジネスを確立した存在だ。

 サンリオは70年代初めから直営店を出していたが、その頃のデザインは水森亜土氏ら外部に頼っていた。

 80年頃には女児に人気を博したキティブームは終息した。山口氏はキティの再構築を進め、デザインで変えてはいけないとされたことを一部緩和して、自由な表現を可能とした。流行の服を纏(まと)うお姉さんキティが登場し、ファッションの発信地として発展してきた原宿ともリンクするようになってきた。キデイランドでは今もキティは主力キャラクターだ。

 90年代半には人気絶頂だった歌手の華原朋美さんがキティファンを公言したのは大きなインパクトを持った。プラダやグッチといった高級ブランドを好む大人の女性が、子どもの持ち物とされたキティグッズを買ってもいいのだと気付かせた。女子高生、女子大生、さらには消費の中心である25~35歳のF1層へとリーチした。

 また、2000年代に入って日本の漫画やアニメがクールジャパンの象徴として、欧米で評価が高まったのも追い風となった。マライヤ・キャリーさん、レディ・ガガさんら、キティ好きを公言する世界的スターも出現。ハリウッドセレブがキティグッズを持っても、何の違和感もない状況となった。ピューロランドの成長は持続可能か

 6月にピューロランドとハーモニーランドという大分県にある屋外型テーマパークを運営するサンリオエンターテイメントの社長に就任した小巻亜矢氏は、14年に同社顧問となって以来、ピューロランド館長などを歴任し、改革の先頭に立ってきた。

 その手法については「来場者4倍のV字回復! サンリオピューロランドの人づくり」(ダイヤモンド社、19年7月刊)に詳しい。本書にはV字回復の秘密として、メインターゲットを「大人女子」に変える、キャラクターの輪郭をなくす、と書かれてある。これはまさに、キティが世界的キャラクターに飛躍する段階でとってきた戦略だ。大人仕様のキャラクターにするためには、輪郭をなくしてふんわりした癒(いや)しを感じる雰囲気にするのが重要だ。

 そのうえで、お土産としてプレミアム感あるオリジナルのグッズやレストランメニューを開発し、キャラクターの個性を生かすカワイイ歌舞伎のような他の場所では見られない出し物をつくり、レディキティハウスのように思わず笑顔になる活気あるおもてなしを行っている。

 このような実践を続ける限り、ピューロランドの成長は持続可能ではないだろうか。