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ベンツ、BMW…高級車乗り付けるマンション抽選会 五輪レガシーめぐり最高倍率70倍超の熱き前哨戦

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東京五輪・パラリンピック開幕までまだ1年あるというのに、激戦が繰り広げられているのが「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」だ。五輪「祭りのあと」を狙うマンション購入希望者が語った真意とは。

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「4部屋を申し込んで3部屋当てました。でも、1億円もするマンション分譲の(抽選)倍率がこんなにすごいなんて、東京は景気がいい」

 そう不動産投資家が笑えば、30代の中国人夫妻は「倍率9倍だったから、当選してラッキー!」「収入はありますよ。1億円くらいは」とそろって口も滑らかだった。別のアジア系外国人は「当たったよー」と一言。2部屋も当選したという不動産業者らしき人物もいれば、4、5人で会場に来てはしゃいだ人々もいて、東京五輪・パラリンピックのレガシー(遺産)セールは一日中、大騒ぎだった。

 彼らが集ったのは、炎天下の東京・晴海。通称「選手村マンション」の抽選会場である。8月5日午前10時前からベンツやBMW、レクサスなどの高級車で次々に乗り付け、ガラポン抽選機を見つめた。

 抽選のお目当ては、東京五輪の選手村マンション。東京湾やレインボーブリッジを一望する東京都中央区晴海5丁目にあり、銀座までは2.5キロ。都の埋め立て地だったところに建てられている。五輪期間中は選手宿泊棟として使用されるが、土地はすでに三井不動産レジデンシャルなど大手マンション開発業者11社の企業連合が、都から周辺の約20分の1の激安価格で払い下げを受けている。五輪開催はまだ1年先だというのに、閉幕後を見越して、もう第1期分譲を始めたのだ。

 前述の11社連合は東京ドーム3個分のこの地に、14階から18階の宿泊棟21棟を建て、五輪閉幕後には50階の超高層マンションなどを加えた計5632戸の街「晴海フラッグ」を誕生させる計画だ。ただし、閉幕後、内装工事などが必要となるため、入居は2023年3月からと予定されている。

 この日は、そのうち第1期600戸の販売抽選会が実施された。ちなみにこの販売戸数は、首都圏で今年最多。東京中の業者が注目するイベントとなった。

 結論から言えば、顧客は殺到した。不動産投資家や富裕層、さらに近隣のタワーマンション族たちである。注目すべきは、都心部にしては広めの部屋設計と抽選倍率だ。

 600戸に対して1543組が応募し、「電話や当日不参加でもOK」という条件のもとで130組以上が詰めかけた。抽選にあたって、ガラガラポンで白玉が出る伝統的な抽選機を選んだのは、「これが一番納得を得られるから」と関係者はいう。

 平均倍率は25.7倍。第1期販売で最も高い2億3千万円(152.1平米)の部屋は競争率が11倍、2億1960万円の部屋は9倍、最上階の18階にある1億3320万円(127.5平米)の一室は、なんと44倍。これはレインボーブリッジと東京湾を挟んで豊洲市場が見渡せる抜群の眺望を誇る部屋だ。東京タワーまで見える1億960万円の部屋(14階、78平米)は、最高倍率の71倍に達した。

 2番目に高い2億1960万円の部屋を抽選で引き当てたのは、冒頭の中国人夫妻だ。Tシャツにジーンズの夫はまだ30代。流暢な日本語で妻が語る。

「今も近くのタワーマンションに住んでいるけど70平米しかなくて。当たった部屋は2倍の広さです。2億円は高いけど、周辺はもっと高いでしょう」

 前述したアジア系の女性は、自分で住むのかという記者の質問に「イヤ」と首を振る。では、投資目的で?

「ダメ、ダメ」

 そう残して去っていった。

 選手村マンション販売の特徴の一つは、転売や投資目的で買おうとする経営者や富裕層が多いことだ。

 筆者らが抽選当日、会場前でインタビューを試みたところ、大半は取材を拒否。が、中には堂々と複数の部屋を買ったことを認める人もいた。取材に応じた計13人の当選者のうち、少なくとも3人は投資目的だと話している。今年4月から始まったモデルルーム見学者に対する取材でも「投資目的」と答えた人が多かったことを考慮すると、実際には不動産業者を含んだ多くの人々が転売益や値上がりを期待して抽選に参加したとみられる。様子を見て値上がりするようなら転売し、投資含みで自宅を買う「半投半住」組と呼ばれる人たちも、かなり含まれていると思われる。

「4部屋を申し込んで3部屋当てた」と言う冒頭の不動産投資家の男性も、その一人だ。都内に計15部屋のマンションを持っているという。

「一番欲しかった1億3千万円の部屋は競争率21倍で、抽選に外れてしまった。当たった部屋は1億円以上の角部屋ばかり。倍率は8倍と9倍。富裕層の方が住むわけだから、角部屋でレインボーブリッジが見れる部屋になると、それなりの付加価値はつく」

 穏やかな口調で、こう続けた。

「どうせ住むなら、ちょっと無理してでも買えばいい。払えなくなったら貸せばいいんです。東京に限って言えば、賃貸はバブルがはじけてもそんなに落ちていない。銀座も近い。羽田空港もそんなに遠くない。投資として見たとき、家賃収入を得るならここがいい。これから街ができ、言われているような地下鉄ができれば(晴海フラッグは)『住みたい街ナンバー1』になると思う」

 男性が言った「地下鉄」とは、一部の大手新聞が報じた銀座地区と臨海部を結ぶ新しい地下鉄路線開発構想を受けてのこと。羽田空港までの直結とも報じられており、晴海だけでなく豊洲市場や台場の活性化が期待される。同じく臨海部の新たな交通網となる「バス高速輸送システム(BRT)」が22年度以降の運行を目指し、整備が進められている。

 最上階の8千万円近い部屋を当てたという60代の女性も、不動産投資家だった。東京都港区を中心に数部屋の不動産を所有している。選手村マンションは五輪閉幕後、都と五輪組織委員会の負担でリフォームされ、前述したように23年3月から住むことができる。そうなれば、いま住んでいるマンションは貸し出して賃料を取る予定だ。

「いまも不動産ビジネスで、夫婦合わせて2千万円以上の収入がある。今まで投資は港区ばかりだったけど、これからは中央区。夫は公務員で、私は商社勤めだったけど、貯金2千万円なんてなくてもやっていけるわ」

(ノンフィクション作家・清武英利、ライター・小野悠史、編集部・福井しほ)