駅直結タワマンが「まち」をやがて破壊するワケ

タワーマンション建設に励む地方自治体は多い。人口と税収の増加がすぐに見込めるからだ。そうした中、神戸市が「タワマン建設規制」を発表し、話題を集めている。まちづくりの専門家である木下斉氏は「神戸市の規制は極めて合理的。地方都市においてタワマンは短期的にはいいかもしれないが、将来的には町を破壊する」という――。

三宮中心部(手前)とポートアイランド(奥)2019年7月6日、神戸市中央区 – 写真=読売新聞/アフロ

■なぜ地方のタワマン開発は熱心なのか

タワーマンションは2018年段階で全国に1371棟、約36万戸が供給されています(※1)。今後建設・計画されているものは11.4万戸になります(※2)。それらは首都圏に集中し、人口流入も多く需要旺盛な東京がずぬけています。

一方で、首都圏、近畿圏の周辺都市でもタワーマンション開発が進展しています。その多くは、東京へアクセスの良い地域であり、神奈川県でいえば横浜市や川崎市、埼玉県ならさいたま市や川口市、関西であれば兵庫県などです。

これらの都市は市域内にすでに人口減少エリアを抱え、空き家問題も発生しています。

開発事業者は売れるものであればどんどん開発して売り切るのはいつの時代も同じです。しかしタワーマンション開発が進むのはそれだけではありません。民間のみならず地方自治体が熱心であることも大きな要因になっています。

自治体にとってタワーマンション開発は「居住人口増加」「税収増加(固定資産税、市民税、所得税など)」「開発による経済効果」といった短期的成果を得られやすいからです。

※1 出所:東京カンテイ
※2 出所:不動産経済研究所

■タワマン開発の3つの問題点

そのような中で、神戸市が駅前周辺地区におけるタワーマンション開発に待ったをかけ、注目を集めています。

神戸市は、現在三宮駅周辺を大きく再編する計画を推進。さらに既存のタワーマンション管理費の状況なども細かく調査をかけた結果、極めて高い確率で将来的に問題が起こると判断し、規制を行うことにしています。

とはいえ、神戸市の規制は緩やかです。完全に駅前エリアでのマンションを禁止しているのではなく、新たに建てる敷地面積(建物を建てる土地の面積)1000㎡以上のビルの住宅部分の容積率(敷地面積に対する建築物の延べ面積の割合)を400%までに制限するというルールです。

これにより、ビルを建てる敷地面積に対し、建物の延べ面積を4倍までの、中層程度のマンション開発に実質的に制限し、超高層のタワーマンションを規制しています。

つまり神戸市は単にマンションを排除しようとするではなく、一箇所で需要を食い切るタワーマンションよりも、都市計画にもとづき、インフラ負荷も少ないかたちで適切にマンションを分散配置しようとしているかたちです。

そもそもタワーマンション開発には、前述のような短期的メリットだけでなく、中長期で懸念される以下3つの問題があります。①道路、上下水道、学校などさまざまな公共インフラの追加投資が必要となること
②親しい所得と年齢の世帯が集中することで、一斉に年老いていくこと
③将来の建て替えの調整が難しく、さらに大きな規模の再々開発を実現しなくてはならないこと

東京都区部のように流入が続き、平均所得も高い大きな市場が存在する地域であれば、タワーマンションの維持管理も、住み替え需要も、再々開発というのもまだ可能性があります。

しかし人口減少が著しく、産業空洞化も進み所得が伸び悩む地方都市であれば、中長期のリスクを見据えて警戒するのは当然といえます。さらに今でも余剰を多く抱えるインフラや学校を局地的に増設するなどの行政負担もまたナンセンスであり、規制や特定地域誘導を図るのが適切です。

■高度経済成長期の「団地、ニュータウン」と同じ構造

同一時期に一斉に入居した人たちが高齢化、空き室だらけとなって廃虚化する問題は、高度経済成長期に開発された団地、ニュータウンの多くがすでに経験していることです。短期的には需要があったとしても、供給を一定制限しなければいずれ都市全体の問題になっていきます。

つまり、タワーマンションが将来抱え込むであろう問題は、いつか来た道で予想可能な範囲なのです。

これらの問題については、都内自治体などでも認識しています。東京都中央区では、すでに住宅の容積率緩和制度を廃止し、ホテルや商業施設への容積率緩和制度に転換を図り、江東区もファミリー向けを制限しはじめたところです。

都心部の旺盛な需要がある立地でも、課題を認識し、中長期での持続可能性を考え、タワーマンションの供給について制限を与え始めています。ましてや地方都市の情勢は厳しく、東京都区部より厳しい規制を検討するのが妥当です。

神戸市は全国政令市でも人口減少が進んでいる自治体です。将来的に再々開発が必要となり老朽化が進むであろう2060年には、2010年より3割以上の人口減少が予想されています。

そのような状況下で一箇所のタワーマンションで住居需要の多くを使い切ってしまうのは、都市全体の衰退を招くリスクが高いのです。そういう意味では、神戸市の三宮周辺での判断は極めて妥当であり、むしろ住宅用容積率はさらに絞っても良いくらいだと思います。

さらに売り切り型の分譲方式では、直近は維持管理に問題なくとも50年後など将来には建て替え問題が立ちふさがる可能性が高いです。一定期間だけの不動産権利を購入する定期借地方式での分譲、もしくはどこかの法人が全体のオーナーとなり、総定期借家に制限するなど、将来の再々開発、解体を見越したコントロールがあってよいでしょう。

■神戸市はマンション開発で揉めている場合ではない!

大阪から電車で40分という便利な立地の神戸市が、駅直結タワーマンションを開発して売ることは短期的には簡単なことです。

しかしながら、マンション分譲で神戸市の競争力はまったく上がりません。今ある魅力を単に切り売りするだけです。駅前の敷地にタワーマンション開発して数千人集めたところで、神戸市が抱える「衰退する都市問題」に貢献するわけでもありません。

大阪市内では梅田駅周辺、なんば駅周辺など各種主要駅周辺の再開発計画も進んでいます。これまでは大阪市内で開発が制限されていたこともあり、企業や人を受け入れるという選択肢がなく、追い出されていったわけですが、今後はそういう押し出し需要も低下していきます。

さらに京都と滋賀、大阪と神戸の間でもさまざまな開発が行われ、西宮北口などの人気エリアも続々と出現しています。つまりは、みんなが同じ競争軸で開発競争しているわけですが、神戸市はそのような競争に巻き込まれるべき都市ではないのです。

そもそも神戸市は、開国後に築港され、輸出入の拠点となりました。世界からヒト・モノ・カネを輸入し、それを地場品で置換する「輸入置換」で国産化し、輸出へとつなげていく日本産業の重要拠点であり、都市開発においても「株式会社神戸」と称されるほど日本有数の注目される都市でした。ところが平成になりバブル崩壊、阪神淡路大震災に見舞われました。平成の31年間は、神戸市にとって非常に厳しい時代だったといえます。

だからこそ今さら、駅前でタワーマンション開発をする、しないと他の都市の真似事のような小さな話で揉めているような場合ではない。今こそ、神戸市が次の時代に何で飯を食っていくのかということに官民両方が向き合う必要があります。

■勝機は「ローテクとライフスタイル」

では神戸市が今やるべきは何か。それは次の時代の産業集積をどのように目指すのかを決めることです。

兵庫県内は歴史的にも皮革産業など含めたローテク産業の集積があった地域。私はもう一度、競争の激しいハイテクよりもローテク産業を伸ばしていくべきだと考えます。

実際、フランスやイタリアの産業として皮革産業は競争力があります。儲からないようなイメージのローテク分野ですが、先日ルイ・ヴィトンなどを保有するLVMHのCEOの総資産がビル・ゲイツを超えるなど、ローテクなブランドビジネスはハイテクに負けません。

また、世界的にアウトドアブランドなど都市近郊型のライフスタイル産業は成長しています。大都市圏に位置しながら、山と海があるという強みを生かした、食やアウトドアなどライフスタイル産業の集積を追求する戦略も有効でしょう。

首都圏では都心部とはちがう環境を求めて、海沿いの鎌倉、小田原などをあえて選択して居住し、リモートワークもしくは起業する人が増加しています。新たな産業集積、ライフスタイルの実現を進めた結果、積極的に神戸市を選択してもらえるようになるのが健全な都市発展といえます。

■人口獲得競争が地方都市をさらに疲弊させる

限られたパイを互いが食い合うために当座しのぎの開発をする。地方の官民が共同して、となりの都市に負けじと短期的な損得にこだわり、将来さらに大きな問題を引き起こすことになるのは、ショッピングモール誘致、産業団地誘致、リゾート開発誘致など、過去に幾度もありました。

ましてや国内で人口減少することが明らかで空き家があふれる時代に、タワーマンションを建ててまでそこに住む人を地方都市が呼び込み、取り合ったところで意味はありません。

タワーマンションについては、まだ歴史がないためこれからも議論が続くと思いますが、各都市の状況に対応し、過去の失敗を繰り返さないために適切な政策対応が求められています。

全国一律で「地方都市にタワーマンションを建てれば活性化する」というのは、単なる幻想にすぎません。

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木下 斉(きのした・ひとし)
まちビジネス事業家
1982年生まれ。高校在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長に就任。05年早稲田大学政治経済学部卒業後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学。07年より全国各地でまち会社へ投資、経営を行う。09年全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。著書に「地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門」(ダイヤモンド)、「福岡市が地方最強の都市になった理由」(PHP研究所)、「地方創生大全」(東洋経済新報社)、『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版新書)、『まちで闘う方法論』(学芸出版社)などがある。
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(まちビジネス事業家 木下 斉)