コード決済の未来は? J.D.パワーの満足度調査から見えたもの

J.D.パワーは20199月中旬に、同社として初めて「QRコード・バーコード決済(以下、コード決済)サービス顧客満足度調査」の結果を発表した。結果はPayPayが1位、その後に、メルペイ、LINE Pay、d払い、楽天ペイ、au Payと続く。

 なぜJ.D.パワーはコード決済の満足度調査を行ったのか、また、どのように調査したのかを、J.D.Power Japan 常務執行役員 Global Business Intelligence部門長の梅澤希一氏に聞いた。この調査を行ったことにより、コード決済が浸透し、ユーザーに支持され続けるためのポイントも見えてきたという。

●消費者に対して選ぶ基準を提示するのがミッション

 コード決済が2018年頃から盛り上がってきているが、業界の全体像は見えにくい。ユーザーも、どの決済サービスを選んで使っていいのか分からない。それが調査を行う理由になったという。

 「各プレーヤーとも自社サービスのユーザーを手探りで集めて、PDCAサイクル(※)を速く回そうと一生懸命やっていますが、他社を含めた全体像は把握できていないのが、この業界の特徴です。誰が見ても1番という業界を調べても意味がない。どれを選んでいいか分からない、何を基準に選べばいいのだろうかというときに、消費者に対して選ぶ基準やものさしを提示するのがJ.D.パワーのミッションです。それが今回の調査をやった理由でもあります」

 その結果として出てきた上記6社が、現時点のコード決済のオススメ企業ということになる。6位までと7位以下とでは、少し差があるという。

 この調査では、コード決済を利用した3000人のユーザーに調査している。3000人を決める前に、まずは全体でどれくらいのコード決済利用者がいるかを調べるため15万人にヒアリング。それをベースに上位6ブランドを選抜した。業界のトレンドを明らかにするために、どれくらいのサンプルが必要かを見極め、3000サンプルで主要6ブランドを取り上げることになった。サンプル数の多さは主要事業者の関係者からも高評価だったそうだ。

 3000人のうちの男女比や年齢の比率は公表していないが、若干男性が多いという。「キャンペーンの場所が、男性利用者が多いコンビニなどだった影響」と梅澤氏は説明していた。

 調査は7月に行った。調査するユーザーには、直近3カ月間のサービス利用に対して評価してもらっている。総合評価を10段階で評価してもらった後、個別の評価も聞いていく。例えば、「利用できる店舗・Webサイト」の調査では、ユーザーに自分の行動を思い出してもらい、その上で利用できる店舗やサイトを評価してもらう。他の項目も同様に評価して、最後に全体を評価してもらう。

●コード決済でユーザーは何を重視しているのか

 採点においては、J.D.パワーの独自色でもあるのだが「満足度構造」を出していることが大きな特徴だ。

 コード決済の顧客満足度の測定にあたっては、「キャンペーン/ポイントサービス」「決済手続き/管理」「アプリのアカウント設定」「利用できる店舗・Webサイト」「セキュリティ/不正利用防止対策」の5つのファクターをJ.D.パワーが決め、調査の結果、ユーザーが各ファクターにどの程度ウェイトを置いているかを考慮して採点。総合満足度を1000点満点で測定している。

 「ユーザーが、どういうところにウェイトを置いているかを算出して点数に加えています。ファクターによって配点が異なるというイメージです。ただ、この配点はわれわれが勝手に決めているのではなくて、あくまでユーザーの回答をベースに決めています」

 今回は「キャンペーン/ポイントサービス」「決済手続き/管理」の2つがそれぞれ26%で上位になっており、ユーザーはこの2つを重視していることが分かる。調査ではわずかな差で「キャンペーン/ポイントサービス」が最も重視されていたという。

 派手なキャンペーンを展開しているPayPayは、やはりそれが評価されて満足度1位になったということだ。なお、満足度構造は調査時期によってあまり変えないようにしているという。

 「通常、商品や顧客属性が劇的に変わることはあまりないので、データを作ってみて、そんなに差がなければ変えません。でもコード決済業界は黎明(れいめい)期なので、サービス内容が変わり、たぶん顧客層も変わっている。次回の調査では満足度構造が変わる可能性は高いと思っています」

 PayPayの1位は順当という印象だが、後発のメルペイが2位に付けていることは意外だ。

 「メルペイはメルカリで培ったものが生かされているところが多いのでは。ユーザーにとっての使いやすさが、『決済手続き/管理』などの高評価に反映されているのではないでしょうか」(梅澤氏)

 1位から6位の間に点差はあるが、「互いに良いところはマネしながらやっていくので、短期間でキャッチアップされる可能性がある」という。また、実際に使う人が増えてきたときに「セキュリティが懸念点として出てくる」と梅澤氏は予想している。

 コード決済は、まだ使っていない人が多い。ただ、消費増税が始まった10月から、「お得」に敏感な主婦層が使うようになった可能性がある。そうなるとセキュリティなどを重視するようになり、評価が急に変わる可能性もある。

●セキュリティを気にしている人が意外と少ない理由

 意外なのが、「セキュリティ/不正利用防止対策」が14%と、一番ウェイトが低い結果になったこと。梅澤氏によると「セキュリティや不正利用を気にしている人は、まだこのマーケットに入ってきていない」とのこと。顧客満足度調査にサービスを利用していない人の声は反映されない。コード決済業界は、セキュリティよりもキャンペーン/ポイントサービスを優先する人がアーリームーバーとして動いている状況だ。

 「コード決済を使っているユーザーはまだまだ少なく、別の調査によると、1カ月以内に利用したキャッシュレスの方法でコードは24%にすぎません。ただ、今後利用してみたいと思っているキャッシュレス決済をたずねると、コード決済が40%もあるので、期待値が非常に高い。ポテンシャルは最もある業界です」

 今回の調査ではウェイトが低かったセキュリティだが、コード決済を「使わない」理由として挙げられるのが不正利用される不安だ。「ここの満足度をいかに上げていくかが本質的に問われていく」とセキュリティの重要性を梅澤氏は指摘している。

●“還元”の先を見据えた事業とは?

 今はキャンペーンが盛んに行われており、キャッシュレス・ポイント還元事業でポイントバックがあるなど注目度も高いが、キャンペーンはそのうち減り、キャッシュレス還元事業も2020年6月までとされている。コード決済のブームは続くだろうか。

 梅澤氏は現在を「キャンペーンやポイントによって初期利用を促している第1フェーズ」と見る。第2フェーズになったときに「利便性を評価して使ってもらえるかがポイント」で、各事業者がこれから考えるべきことだと指摘する。

 それには「普段使いの習慣化」がどれだけできるかがポイントだ。各事業者もそれは考えており「中長期的に、その先の事業を踏まえて考えている」と梅澤氏は述べている。

 では、その先の事業とは何か? 今回の調査を通して梅澤氏が予想したことの1つに「業界横断的な共通ポイント」がある。「ポイント経済圏の中で顧客データを取得し、将来的なマーケティング戦略を考えていると思います。それがどこまで実現できるかが重要でしょう」と同氏。

 メルカリのメルペイ、ドコモのd払いのように、自社のメインのサービスの利便性を高める側面もある。

 ただ、ソフトバンクグループとはいえ、PayPayのように決済専業でやっている事業者にとって、それは難しいように思える。梅澤氏は「送金」がキーになるかもしれないと見ている。今回の調査では、当時サービスを提供していなかった事業者もあり、送金についての質問項目は入れなかった。

「日本銀行が得ている『通貨発行益』を各プレーヤーも狙っていると思います。今はマイナス金利なので目立ちませんが、普通の金利が出る状態になると通貨発行益が非常に大きくなる可能性があります」

 海外では、中央銀行がデジタル決済に進出し、電子通貨を発行するという議論があるという。決済事業者と中央銀行がクロスオーバーしてくる領域になっていくだろうと梅澤氏は語った。

●今後は半年に1回調査

 この他にも、今後のコード決済業界の動向について、梅澤氏に気になる部分を予想してもらった。

 現在、支払い方法には現金のチャージもあれば、クレジットカードひも付け、銀行口座からの引き落としもあるが、何が普及していくかは「ユーザーの利便性が高い基準で選ばれていく」との立場だ。幅広く対応することが、今後のサービス普及の要因にもなると見ている。もちろん、ポイント還元率に差をつけて、自社グループのサービスに誘導する施策も出てくるだろう。

 「自社サービスに呼び込んで、グループの経済圏の中でどれだけお金を落としてもらえるかを狙う。単体では無理でもグループで採算を取るという考えもあります」

 最近は女性の利用者が多いスーパーマーケットでもコード決済を導入するところが出てきている。女性にも利用を広げるため、女性にフォーカスしたキャンペーンが増えているので、ユーザーの男女比が半々になっても驚かないという。

 なお、事業者ごとにはユーザーに違いが見られるという。携帯電話系サービスでは携帯電話ユーザーがベースになるので比較的男性が多め。一方でメルペイはメルカリのユーザーに女性が多いので、女性比率が高いという。年齢は比較的ばらけているが、これも事業者によって違いが多い。携帯電話系は年齢が高く、メルペイとLINE Payはメルカリ/LINEで若者ユーザーの比率が高いので決済利用者も若者が多い。

 基本的にJ.D. パワーの調査は1年に1回、同時期に行われているが、このQRコード・バーコード決済サービス顧客満足度調査は半年に1回行う予定だという。コード決済業界は「動きがあまりにも速いため、1年前の使用経験にあまり意味がない」ためだ。次の調査は2020年3月だ。