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「会社を魅力的にする」方法 エンプロイヤーブランディングとは何か

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現在、日本の人事管理職は多くの問題に直面している。人手不足と人材獲得競争の激化は、従来の人事管理プロセスに大きな影響を及ぼすことになるだろう。 人材争奪戦が、日本でも始まっているのだ。

いい人材を獲得して雇用し続けるという問題は、今に始まったことではない。ドイツのメーカーでは過去20年間、こうした問題に直面しており、人材獲得と人材管理への大変興味深い新たなアプローチを生み出した。「エンプロイヤーブランディング(雇用者側のブランディング)」と呼ばれる概念で、日本ではまだあまりなじみのないものだ。

スキルを備えた人材を見つけて確保するために、多くのドイツメーカーはより「面白く、魅力的な」雇用主となることが求められており、こうした中でそうなるための戦略を立てる必要に迫られていたのだ。

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■自社の魅力をいかに高めるか

そこで本稿ではまず、エンプロイヤーブランディングという概念を紹介し、実際に日本企業がどう役立てられるかを考えてみたい。長年、日本企業のアドバイザーなどもしている筆者は、エンプロイヤーブランディングは、日本企業にとっても有効なものだと確信している。

エンプロイヤーブランディングとは、企業の雇用主が従来のマーケティング戦略や知識を使って、自社の商品ではなく企業イメージを売り込むというものだ。これは、マーケティングと人事戦略との融合であり、雇用主として自社の魅力を高め、才能や経験豊富な人材の雇用を容易にし、離職率を抑え、社員と企業との間に強力な精神的つながりを生み出すことを目標とする。

大きな目標としては、自社を理想的で将来有望な雇用者として位置づけ、労働市場において競合他社と差別化し、新卒及び中途採用希望者にとって最良の選択肢とすることだ。企業側が主体的に自社のイメージを積極的に調整し、それに見合うよう努力するわけである。応募する側も、こうした企業を比較検討し、将来的に最も有望と考える企業を選ぶことができる。

エンプロイヤーブランディングがとくに有効なのは、消費者にあまりよく知られていない商材やサービスを扱う企業だろう。自動車メーカーや化粧品会社などの知名度の高い消費者ブランドが、新たな人材を引きつけるのは難しいことではない。

求職者はその企業がどんな会社なのか十分承知しているだけでなく、その会社の製品を気に入っている場合もある。そしてその業界における自分の将来的な仕事がどんなものになるか想像することもさほど難しくないだろう。

一方、B2B(企業間取引)市場に属する企業、例えばモーターや化学品などの技術的な製品のメーカーは、大手消費者ブランドと比べると優秀な人材の採用が困難だ。オファーされた職が非常に興味深く、キャリアの選択肢が有望であるとしても、求職者たちがすでによく知っている有名ブランドに勤めることを希望することは少なくない。

■ドイツでは政府機関なども活用

ドイツを例にとってみると、会社の所在地も大きな役割を担う。東京、大阪、名古屋といった大都市近郊に多くの企業が集まっている日本と違って、ドイツの企業所在地の分布状況は全国に広がっている。

多くのメーカーは、フランクフルトやミュンヘンのようなビジネスの一大中心地から数時間も離れた小さな都市で展開している。特定の技能を持つ従業員をわざわざ引越しをさせてドイツの中都市に居住させる、ということがドイツメーカーにとっての最大の問題なのだ。

ドイツを例に挙げれば、エンプロイヤーブランディングを利用しているのは企業だけにとどまらない。警察などの政府機関も高等教育を受けた従業員を見つけることに大変苦労しており、エンプロイヤーブランディングを非常に効果的に利用している。

上述のとおり、エンプロイヤーブランディングでは、マーケティングと人事のプロセスを用いる。最初の重要なステップは、市場における雇用者としての「自社の位置づけ」を明確にすることだ。

ここで言う位置づけとは、仕事内容(業種や日々の業務内容)から会社の福利厚生(オフィスのデザイン、無料のコーヒー、休暇、所在地など)、職場の雰囲気、ワークライフ・バランスまでに至るまで、明確にすることである。社内でのキャリア向上の機会も重要な要素だ。

これはまさに、その企業やそこで働く人々、そしてその企業が世の中でどんな役割を果たしているかについてのストーリーそのものである。総体的な目標は、その企業を単なる職場としてだけではなく、充足感のある居心地のいい場所として提示することだ。消費者がものを購入する時と同様に、求職者は雇用主を選ぶ際に自分の感情を伴った決断をするものであり、この事実は企業が対策を考慮するべき点である。

次のステップは、こうした「ストーリー」を的確に、求職者に届けることである。これは、求職求人フェアから大学のキャンパスでの採用活動やオンライン広告に至るまで、あらゆる可能性のあるチャネルを通じて行う。これまでどおりの採用チャネルも重要ではあるが、ソーシャルメディアやメディアをいかに使うかがブランディングを左右する。

ソーシャルメディアの中でも重要な役割を果たすのが、動画である。例えば、会社のイベントや職場の雰囲気、現在働いている社員へのインタビューなどを映した動画などだ。こうした動画は職場の雰囲気を伝え、働いている人を映し出すなどして、その企業の最もリアルな姿を伝えるすべとなる。

すでにオーストリアには、ワチャドゥ(Watchado)など、社員へのインタビューを企画したり、職務内容や職場生活についての詳細を紹介するプラットフォームを立ち上げる支援をするベンチャー企業が登場している。また、エンプロイヤーブランディングの教育や、企業及び人事管理職がエンプロイヤーブランディングの専門家となるための認定を行う特殊な民間機関もある。

■学生は何を基準に企業を選んでいるのか

日本における労働力不足のような急激な変化は、日本企業の採用へも影響を及ぼす。これまで企業の人事部は新卒の若者を大学から直接採用してきたが、これは、大学の就職説明会、求職求人フェア、そして時間のかかる就職試験プロセスといったものだった。もちろん、こうした採用方法も意味があるもので、これからも有効な手段であり続けるだろう。

しかし、私が上智大学で教えている学生たちは、卒業時点で1人平均5つのオファーをもらっている。そして、彼らはその中から自分のニーズに最も合致していると思われる企業を選ぶ。彼らの判断基準は往々にして、そのときの感情によるところが大きい。この点を見逃してはいけない。

こうした中、エンプロイヤーブランディングは日本企業にとっても非常に有用な概念となり、求職者が適切な選択をするための助けとなる可能性がある。強力なエンプロイヤー・ブランドをもつ企業は、長期的に見て従業員を引きつけることに関して優位に立つことができる。

今のような人材争奪戦の早い段階でエンプロイヤーブランディング戦略を打ち立てることによって、その後何年もの間、経費を大幅に節約することができる。そして、今後は日本でもワークライフ・バランス、企業による家族向け説明会、フリンジ・ベネフィット(付加的給付)、キャリアの国際化といった話題がさらに重要な役割を果たすようになっていくだろう。

こうした話題の多くは、日本の人材開発担当者が聞き慣れないものかもしれない。しかし、人材獲得競争が激化する中、これからはますます「売り手市場」になることは間違いなく、彼らは福利厚生が充実していて、個人の興味を支援してくれるような企業を選んでいくようになるだろう。エンプロイヤーブランディングは、日本企業にとってもはや無視することのできない動きなのである。

パリッサ・ハギリアン:上智大学教授(国際経営学)