朝ドラ女優がCMに引っ張りだこの理由、企業の思惑と時代背景

メディアの調査・分析を行うニホンモニターの『2019タレントCM起用社数ランキング』(2019年1月~11月)によれば、男性の年間首位は嵐の相葉雅紀と櫻井翔、お笑い芸人のサンドウィッチマン、俳優の西島秀俊が10社。女性は、16社という驚異的な数字を誇る渡辺直美が年間首位に輝いている。女性の2位以下のラインナップを見ると面白いことに気が付く。

 有村架純、齋藤飛鳥(乃木坂46)、白石麻衣(乃木坂46)、広瀬すずが12社。土屋太鳳が11社。綾瀬はるか、川栄李奈、清野菜名、中村アン、吉田羊が10社。芦田愛菜、新垣結衣、浜辺美波、松岡茉優、吉岡里帆らが9社。木村文乃、高畑充希らが8社という具合に、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)にヒロインを含め重要な役柄で出演経験のある女優が少なくないのだ。

 実際、朝ドラの影響は大きく、2018年前期の朝ドラ『半分、青い。』で主演を務めた永野芽郁は、同年下半期以降、野村證券、カネボウ「Free Plus」、味の素「クノール カップスープ」という具合に立て続けにCM出演本数を伸ばし、昨年末からは長らく石原さとみがCMキャラクターを務めていた英会話イーオンのCMキャラクターにも就任し、6社となっているほど。同様に、2017年後期の朝ドラ『わろてんか』で主演を務めた葵わかなも、2018年以降、JA全農あきた「あきたこまち」、日本中央競馬会(JRA)、AOKIと短期間でCM本数が増加し、現在は6本。朝ドラ以降、まさに“飛ぶ鳥を落とす勢い”と言える。

 なぜ朝ドラ女優は、CMと親和性が高いのか。

「NHKに対する世の中の信頼度があります」と説明するのは、企業や商品のブランディングを手掛けるコピーライターのこやま淳子氏。クライアントからの信頼度が、出演していない女優と比べまったく違うと続ける。

「朝ドラ効果と相乗して女優も活躍する、売れるという成功パターンが見えているので、クライアントとしては起用しやすい。また、仮に知らなかったとしても、『朝ドラに出ているんですよ』と言えることで、『だったら大丈夫か』と思わせる力があります」

 朝ドラ女優という看板が、水戸黄門の印籠よろしく、クライアントには絶対の効果を発揮するというわけだ。しかも、「その効果は、主演に限ったことではない」と唱えるのは、ドラマウォッチャーでもあるコラムニストの吉田潮氏。

「有村架純は、『あまちゃん』(2013年)で小泉今日子演じる主人公の母親の若かりし頃を演じて人気に火が付いた。また、高畑充希は『ごちそうさん』(2013年)出演時点で、その演技力と歌唱力が大きな話題を集めていました。二人ともその後、『ひよっこ』(2017年)、『とと姉ちゃん』(2016年)で主演を務めますが、人気を確かなものにしたのはサブとして出演していたとき」

土屋太鳳も、『おひさま』(2011年)、『花子とアン』(2014年)ではサブ役だったが、その後、『まれ』(2015年)で主役の座を射止めている。

「『純と愛』に桐野富士子役で出演した吉田羊は、主人公・純の先輩で接客指導担当という役でした。陰があるけどクールな姉御肌という役柄は、その後の彼女のイメージを作り上げた一因にもなっています。彼女も、朝ドラ以降、急激にCM本数が伸びた一人です」(吉田氏)

 必ずしも主演である必要はなく、朝ドラでインパクトを残す役柄であれば、CMをはじめ、その後も安定して活躍する可能性が高いというわけ。

◆東京オリンピック・パラリンピックも影響?

 さらに、世相も無関係ではなさそうだ。英会話スクール・AEONを運営するイーオン広報課・山田佳奈さんはこう語る。

「基本的に当社のCMキャラは、メインターゲットである20代~30代前半の若い女性にとって身近な若い女優が起用されます。だからこそ今回は永野芽郁さんにお願いしました。これに加え、シニアの方々の英語ボランティアニーズが高まっていることもあって、シニア層にも認知度が高いキャラクターを求めていました。朝ドラに出演されている方は、幅広い年齢層から人気が高く、また認知度もあります。そういった意味では、永野さんは当社のイメージに最適な方だと思っています」

 今年は、東京オリンピック・パラリンピックが控えている。シニアも参加可能な国際系ボランティアも増えているだけに、英会話スクールにとってキッズからシニアまで重要な顧客と説明する。

 そして、マーケティング的な面においては、2019年のAEONのキーメッセージは「この教室が、セカイの入り口」。永野がスクールの中に入り、その雰囲気や授業の様子を紹介する内容だが、自然体で自分の言葉で語ることができるキャラこそ適任と考えた。山田さんはこう語る。

「楽しそうな雰囲気で仲間と一緒に学びたい人にはスクールがあっているのだと思います。これを体現するのが朝ドラ女優なのでしょうね。常に努力をするイメージがありますしリアリティのあるかわいさと、親しみがあります」

 お酒の弱い女性や年配者からの支持の高い梅酒、その代表格であるチョーヤ梅酒のCMは、過去に高畑充希、比嘉愛未、宮崎あおいが出演し、現在は倉科カナ、夏菜らが出演するように、朝ドラ女優率が高い。幅広い年齢層に訴求しなければいけない商品は、朝ドラ女優が最適解になっても不思議ではないだろう。

 また、 幅広い年齢層から人気が高いということは、それだけ親しみやすさもあるということ。現在の日本中央競馬会(JRA)のCMは、土屋太鳳、葵わかな、高畑充希が出演し、男性陣も松坂桃李(『わろてんか』)、中川大志(『おひさま』『なつぞら』)、柳楽優弥(『まれ』)という朝ドラ出演者デカ盛りマシマシ状態である。彼ら彼女たちが出演することによって、公営ギャンブルに親しみやすさをもたらしていることだろう。今後、少子高齢化が進み、幅広い層をターゲットとした商品が増えたとき、朝ドラ女優のCM出演本数はより増加するかもしれない。
 
 前出のこやま氏は、「NHKの目利きはすごい信頼度があると思います。みんなが好きになるような魅力を持った人を発掘するのが上手」と語る。

「朝ドラって紆余曲折を経て成長していく、頑張っていくストーリーです。そのため、最終的にシニア層を含めた多くの視聴者がファンになることが約束されています。しかも、その時点ではコストパフォーマンスもいい。広告の予算の面においてもとてもメリットが高い。今年から朝ドラに出るよ、来年出るよ、というタイミングを狙って提案し、広告に登場するタイミングでは、人気が出ている。そういう人は、広告的にも魅力的です」