串カツ田中「中止も検討」、プレ金に大きな岐路

月末の金曜日に早く退社し、買い物や外食を楽しんでもらうことを狙いに2017年2月から始まった「プレミアムフライデー」。ちょうど3年が経とうとする今、その試みが岐路に立っている。

「続けることに意味があると思い、ここまでやってきたが、効率が悪い」

プレミアムフライデー成功の代表例とされる居酒屋チェーン「串カツ田中」の織田辰矢営業本部長はいま、プレミアムフライデーにちなんだキャンペーンの中止を検討している。

プレミアムフライデー効果で売り上げ3割増

同社は2017年1月の最終金曜日、136店ある国内全店(当時)で「フライングフライデー」を実施した。通常は午後5時の開店時刻を午後3時に早め、ほとんどが100円を超える串カツ全品を100円(税抜き)に設定した。

「プレミアムフライデーの取り組みを行う企業が多い中で、揚げ物のフライにかけて、『フライング』で実施すれば目につくのでは、と始めた」(織田氏)というもくろみで、限定商品も発売した。

効果は抜群だった。テレビなどの取材が数多く舞い込み、通常の金曜日と比べて売上高が3割増加。2017年2月の開始から1年間、プレミアムフライデー時の売り上げは前年と比べ2割増が続いた。金曜日以外の客足も増える波及効果もあったという。

2020年2月までほぼ全店での午後3時開店やほぼ全品100円での提供を続けてきたが、串カツ田中はなぜ今になって中止を検討しているのか。

織田氏は「同じ取り組みを続けることで、割引の日しか来なくなる『割引待ち』を最近感じ始めている」と打ち明ける。

全面禁煙による男性会社員の来店減少やメディア露出の減少により、直近の業績は苦戦している。串カツ田中の既存店売上高は、2017年11月期に客単価が2.1%減となる一方で、客数が4.9%増となり、売上高は2.7%上昇した(いずれも前期比、以下同じ)。2018年11月期も客数が牽引し、客数が4.8%増、客単価が2%減となり、売上高が2.6%増加した。しかし、2019年11月期に入ると勢いが鈍り、既存店客数が0.2%増と前年並み、客単価が3.3%減となり、既存店売上高は3.1%減と前期を下回った。

鳴り物入りで始まったが・・・

午後3時から店舗を開けるため、その分人件費や食材費などの追加負担も重荷になっている。2017年11月期、串カツ田中(当時は単体)の売上高は55.3億円(前期比39.2%増)、営業利益は3.8億円(同22.4%増)と大きく成長した。2019年11月期の売上高は100億円(前期比30.6%増)と伸びたが、人件費や出店費用増加を受け、営業利益は6億円(同8.1%増)と増益幅が鈍った。

今後は毎月の最終金曜日という形ではなく、割引の実施時期などを再考していく。加えて織田氏は、「串カツ田中の認知度が高まったため、『お得』以外の見せ方をする必要がある。これまでは店舗のスタッフが毎日具材を串に刺しているなどおいしさの理由を伝えていなかったので、こだわりを打ち出していきたい」と話す。

プレミアムフライデーは2017年2月の開始当初、「関ジャニ∞」を起用したイベントが行われるなど鳴り物入りで始まった。旗振り役を担った経済産業省は、「消費喚起と働き方改革を進める2つの狙いがあった」(消費・流通政策課の伊藤政道課長)と振り返る。月末の金曜日は給料日後にあたる人が多く、財布のひもが緩みやすいということで設定された。

経産省や日本経済団体連合会のほか百貨店などの業界団体が加盟し、プレミアムフライデーの普及活動などを担うプレミアムフライデー推進協議会によると、当初は大きく報道されたこともあり、プレミアムフライデーの認知度は9割にのぼった。

しかし、開始当初から「月末は忙しく、早く帰宅するのが難しい」という声が多く寄せられた。小売業界からも「最初は働き方改革を前面に出して、それから小売りに浸透するという方法を採るべきだったのではないか」と疑問視する声が上がる。

こうした実情を踏まえ、2017年10月以降は、プレミアムフライデーの実施日を月末金曜日以外の日にちに振り替えたり、ノー残業デーや午後3時にこだわらない早帰りにするなど、取り組みを柔軟化させた。ただ、その試みが浸透しているとは言いがたい。

同協議会が2015人を対象に実施した調査では、2017年2月のプレミアムフライデー当日に通常より早い時刻に退社した人は17%にとどまった。2019年1月も14.4%にすぎず、プレミアムフライデー当日以外への振り替えを推奨したにもかかわらず、別の日に振り替えて通常よりも早く退社した人は5.7%にとどまった。


串カツ田中がプレミアムフライデーに合わせて展開する100円キャンペーン(記者撮影)

2018年2月発表のアンケートでは、回答した1130社のうち77.5%の会社は、プレミアムフライデーの施策を行っても売り上げが変わらなかったと回答した。

当日の過ごし方として、2019年1月のプレミアムフライデーでは「家でゆっくり過ごした」と回答した人が42.6%。次いで16.8%が「仕事をしていた(残業で特別な過ごし方はできなかった)」と回答。経産省などが狙った「外食した・お酒を飲みに行った」と回答した人は15.1%、「買い物・ショッピング」と回答した人は4%にとどまった。

一朝一夕に成果は出ない

百貨店業界では、業界を挙げてプレミアムフライデーを推進しているが、大きな成果を得ているわけではないようだ。ある百貨店の社員は「プレミアムフライデーの客層は、期待されていたビジネスパーソンではなく、既存顧客である主婦やシニア。しかも、ほかの日の需要を奪うほどの大きな効果はなかった」と話す。

2018年7月からは、「消えかけている火を一生懸命おこす努力」(百貨店業界関係者)として、7月と1月のプレミアムフライデーに「プレミアムサマーバザール」や「プレミアムウィンターバザール」をスタートさせた。芸人を呼ぶなどの取り組みも行っているが、中心に据えられているのは安売りのセールだ。


プレミアムフライデーの旗振り役・経済産業省は「時間をかけて徐々に社会に浸透させていく」という(記者撮影)

今後の方針について、日本百貨店協会の山崎茂樹専務理事は、「プレミアムフライデーは(消費喚起の)決定打になっていないが、消費は気分に左右される。『百貨店業界では何かやっている』という雰囲気を作る機会としてこれからも利用し続けたい」と話す。

経産省の伊藤課長は1980年代から民間企業で広まり始めた週休2日制を例に挙げ、「週休2日が浸透するまでに時間がかかったように、働き方改革は一朝一夕には成果が出ない。消費者が月末金曜日に早く帰宅することと、店舗側が顧客を呼ぶための施策を行うことそれぞれにハードルがある中で、時間をかけて徐々に社会に浸透させていく」と話す。

ただ早い時刻での退社定着には程遠く、消費喚起策も沈静化しつつある。働き方改革と消費喚起の「二兎」を追う取り組みは、一兎も得られないまま立ち消えとなるおそれに直面している。