「ウイルスばらまく」愛知・蒲郡の感染男性、法的責任も

新型コロナウイルスに感染した愛知県蒲郡(がまごおり)市の50代男性が、市による入院までの自宅待機要請を無視し、市内の飲食店に繰り出す騒動があった。店内で「ウイルスをばらまく」と話したとされる男性には批判が殺到。自宅待機の違反者に罰則を科す国もある中、日本ではあくまでも「要請」にすぎず、強制力は伴わない。男性の法的責任の有無や、検査や待機への強制の是非は。専門家に聞いた。(桑村朋、土屋宏剛)

【図】ライブハウスなどでクラスターが発生するイメージ

 ■市民に感染の危険

 「ウイルスをばらまいてやる」「俺は陽性だ」

 関係者によると、男性は4日夜、タクシーなどで蒲郡市内の飲食店を訪れ、2軒目で自身が感染者だと切り出した。店側の通報を受けて警察官が防護服姿で出動、保健所職員も消毒の対応に追われたという。

 男性と同居する両親は、発熱や呼吸困難を訴えて入院し、3日に感染が判明。男性は翌4日に遺伝子検査で陽性が明らかになった。男性は入院までの間、自宅待機を要請されていたが、従わなかった。

 防護服の警察官らが駆け付けたためか、SNS上では《蒲郡駅で感染者》との騒ぎが広がり、混乱が拡大。記者会見した鈴木寿明市長は「自宅待機の指導がありながら、市民に感染の危険が及んだことは大変遺憾」と述べた。

 訪れた飲食店名などを公表していない蒲郡市には、多数の問い合わせがあったといい、担当者は「さまざまな意見をいただいた。今後、必要に応じて対策を検討するかもしれない」とした。

 ■損害賠償請求も

 《テロ以外の何でもない》《店は被害届を出すべき》。全国での感染拡大に終息が見えぬ中、男性が取った非常識な行動にはネット上を中心に批判が殺到した。

 このケースで、男性が何らかの法的責任を負うことはあるのか。元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は誰かの感染が判明した場合、「傷害罪の適用は可能だ」との見方を示す。ただ立件するには、男性が原因だったことを明らかにする必要がある。

 若狭弁護士は、感染者が感染拡大の意図をもって入店した場合は偽計業務妨害罪、脅迫や軽犯罪法違反などの罪で取り締まることも想定されると指摘し、「感染抑止に努める人の心を踏みにじる行為だ」と憤る。男性の来店が原因で店が休業や閉店するなどすれば、損害賠償を求められる可能性も否定できない。

 ■集団感染起きれば…

 10日に閣議決定された新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案。状況によっては首相が「緊急事態」を宣言でき、都道府県知事は外出自粛や興行施設の利用制限などを要請できるようになる。だが、男性への待機要請の効力については疑問視する声も出ている。

 新型コロナウイルスは2月施行の政令で、感染症法に基づく指定感染症(2類感染症)に指定された。感染者の強制入院が可能となったが、検査や自宅待機は要請どまりで、強制ではない。

 これに対し、海外では強制力を伴う措置を取る国・地域もある。

 シンガポールでは、感染検査を拒否したり、自宅待機命令に違反したりすると、最大で罰金1万シンガポールドル(約76万円)か禁錮6月の罰則が科される。台湾では自宅待機者にスマートフォンの位置情報を提供させ、外出の有無を確認しているという。

 神奈川県警友会けいゆう病院感染制御センターの菅谷憲夫センター長は、蒲郡市の男性の行動を非難しながらも、現時点では国内で大規模な集団感染が起きていないとして「個人を強制的に隔離や自宅待機させる措置までは必要はない」と指摘。ただ仮に、集団感染が複数発生した場合は「経済的な損失を覚悟してでも、海外のように都市封鎖などを断行し、感染拡大の抑止を徹底すべき」と述べた。