コロナ後「飲食店」復活に欠かせない4つの視点 マクドナルドと松屋の持ち帰り策は何が違うか

今年の大型連休が完全に明けた5月11日(月)のランチタイム。東京・新宿近辺の飲食店の状況を観察してきました。

新型コロナウイルスの感染拡大によって4月上旬から続いている緊急事態宣言が延長され、政府や自治体の呼びかけもあって5月9日(土)、5月10日(日)は繁華街も閑散とした状況だったようですが、新宿では接待を伴わない普通の飲食店の多くは営業を再開していました。外出自粛のさなかであることは百も承知ではありましたが、感染リスクに最大限の注意を払い、街角経済評論家として今の経済状況を伝えるためには必要と考えたうえでの視察でした。

とはいえ開店しているお店のランチタイムの状況は、ほぼほぼどの店舗でも閑散としていました。オフィス街の飲食店でも同様で、例外的に同じ制服を着た同じ職場の人が8人でテーブルを囲んでいるお店もありましたが、ほとんどのお店は「疎」の状態でした。

実は私は10年ほど前までミステリーショッパー会社の社外取締役を務めていました。顧客のふりをして飲食店を訪れてお店のサービスを確認するというちょっと秘密めいた仕事を引き受ける会社です。そこで学んだノウハウは今でも私の街角経済観察に役立っているのですが、その手法を使って観察したコロナ後の飲食店の改善点についてまとめてみましょう。

■いま飲食店に来店しているのはチャレンジャー

まず大前提として今のお店の来店状況がどうなっているのかという話から始めます。ひろびろとしたお店の中に3人の顧客が離れ離れで座っている。そのような状況から、お店の人に気づいてほしいことがふたつあります。

ひとつは今お店に座っている顧客はマーケティング用語でいう「チャレンジャー」だということです。正規分布のベルカーブでいえばいちばん左側にいるひとかたまりの「まずはリスクを考えず動いてみよう」という、全体の2.5%程度の勇気あるひとたちです。つまりまだ特定の性格の顧客しかお店には戻ってきていないのです。そして課題はどうすれば残りの大半の顧客がお店に戻ってきてくれるのか、顧客のためのリハビリ策を考えなければなりません。

もうひとつ気づいてほしいのはなぜ顧客が離れ離れで座っているのかの意味です。実はチャレンジャーの顧客さんもお店がすいているかどうかを確認して入店しているのです。ですから3人目ぐらいまでならまだ許容するのですが、彼らは座りながらお店の入り口をにらんで“もうこれ以上入ってくるなよオーラ”を発しています。リスクを冒している勇気のある顧客であっても、お店の中は疎であってほしいと願っていることに気づかなければなりません。

今回の新型コロナウイルスについて顧客は自宅でテレワークないしは自粛しているうちにメディアやSNSを通じて、新型コロナウイルスについてのたくさんの知識を得ています。私の知人はコロナウイルスが基本的に指で触ったところを通じて感染するのが大半だという知識を得た結果、スーパーで購入した商品はひとつひとつ除菌してから冷蔵庫に入れるようになりました。マスク以外に衣服や首筋にも飛沫がついていると考える別のひとは、外出から帰ったらまずシャワーを浴びるそうです。

それが正しいかどうかはここでは関係ありません。そういったさまざまな認識によってさまざまな対策を実践しているひとたちがいることを前提に、以前と同様にお店に来てもらうためにはどうすればいいのかを、飲食店は考える必要があるのです。

ではどうしたらいいでしょうか。気づいた点を順番にお伝えしましょう。

(1) ランチタイムのテイクアウト

最初のリハビリ段階はテイクアウトです。お店の中で食べてもらえる顧客は少数派だという事情からランチタイムにお店の前に従業員がひとり立ってお弁当を売っているお店が散見されます。大半の消費者はテイクアウトから復活するという点ではこのサービスは正しいです。

■店員が手袋をはめていないお店への不安

ただ完璧に見えた、あるお店を例にとって気づいた改善点を3つ指摘しましょう。私が実際に見かけたお店です。

かなりいいところまでいっていたお店だったのですがミステリーショッパー的に気づいた点のひとつめは店頭の従業員が手袋をはめていなかったこと。手袋ははめたほうがいいです。後述する理由から気休めなのですが、手袋をはめているだけで顧客は安心します。それが重要なのです。

2つめにお弁当の価格が580円。これはいただけません。お得感を出したいのかもしれませんが、キリのよい600円のほうがいいです。理由は端数だとお釣りがたくさん出やすいから。580円に対して1000円札で会計すればお釣りは420円。100円玉が4枚と10円玉が2枚。硬貨を用意して600円を払っても10円玉2枚のお釣りが出てしまいます。

実際のところはわかりませんが、人と人の手を介してやり取りされていく現金には、ウイルス感染のリスクを排除できません。その知識を持ってしまっている顧客にとってこうした端数によってお釣りがたくさん出るような価格設定はマイナスに見えます。手袋をはめた従業員から感染しないとしても前の人が渡した現金が自分に回ってくるのはリスクだと考えて、それを避ける人が実際にいるのです。

上記の理由から3つめにキャッシュレス決済の導入が求められます。これは意外と簡単でお弁当を置いた台の上にQRコードを用意すればいい。実は現金を嫌う人はQRが使えるお店を選んで利用しています。ほんのちょっとの手続きで簡単に導入できる時代なのですから飲食店としてその準備は重要だろうと思います。

(2)大手チェーンのテイクアウトで気づいたこと

すみませんが次にちょっと大手チェーンの実名を出させていただきます。

■私が感じたマクドナルドと松屋の差

まず良い例から。マクドナルドはこのコロナの時期に対前年比で売り上げが伸びているということが話題になっていますが、確かにテイクアウトがスマートにできます。スマホのアプリを使ってクーポンを提示してキャッシュレスで支払い、番号札をもって他の顧客と密にならないようにお店の外で待っていると自分の番号が呼ばれます。それを受け取って持ち帰るだけ。基本的にリハビリ客にはOKです。

その次に松屋でテイクアウトをしようとして気づいた点が3つあります。お店が比較的がらがらの時間帯でした。

1つめは注文がタッチパネルによる自動販売機だということです。キャッシュレスで購入するのですが、そのためにタッチパネルを触らなければいけません。院内感染がおきた病院の事例でニュースになりましたが、このタッチパネルが実はコロナの感染源になりうるという知識を結構多くの顧客は知っています。とはいえタッチパネルのシステムを変えることはお店側にはできません。そうであるならば自動販売機の近くにアルコール除菌スプレーを置いてほしいと思いました。店内にあるからいいというのではなく、食券を買う前の顧客の目につくところにスプレーが置いてあることが大切です。

2つめにテイクアウトの食券を渡そうとしたらテイクアウトの窓口側に回るように指示されたことです。お店のカウンターの端にテイクアウトの受け渡し窓口があるのですが実はお店の中でそこだけが「密」になっていました。私の場合、すでに2人の先客がいて3人目になりました。これは私がたまたま入店したお店だけに限った話なのかもしれませんが、これは今のコロナ禍の状況をさまざま考えると、顧客にとってちょっとマイナスイメージを持つ経験です。

3つめにそのテイクアウトを待つ場所がカウンター席の真後ろだったということです。これもこのお店だけの問題かもしれません。私が来店したときに私が先客と距離を保って立って待っていた場所のすぐ前で別のお客さんが食べていました。私ではなく彼の心の中を想像すると「俺の後ろに立つな」とゴルゴ13のように言いたくなったのではないかと思います。テイクアウト客が多いことがわかっているのですから、店内で食べる顧客がその動線にイラッとしないように店内で飲食する顧客をカウンターの別のサイドに案内するような気遣いがあったほうがいいと思います。

具体例を出してしまって申し訳ないのですが、顧客はこういったところを見ています。それでもお店にわざわざクレームを入れることはありません。普通の顧客はただお店から去っていく。だから飲食店は顧客視点に立つ必要があるのです。

(3)入りやすいお店と入りにくいお店

冒頭の5月11日の新宿のランチタイムの状況について改めて振り返ると、ほぼほぼお店が閑散としている中でも、実はお店の状況はふたつに分かれていました。顧客が数名ぱらぱらと入っているお店と、誰も入っていないお店です。

■店内の状況が外からわからないと入りづらい

入っているお店の特徴は、ドアが開けっぱなしになっていて、道を歩きながら店内の状況が丸見えになっています。逆に誰も入っていないお店ではドアが閉まっていて、スモークガラスになっているので中の様子がよく見えない。私が近づいてお店の中を覗き込んでみたところ、案の定お店の中には誰もいない。たぶん大半の顧客は近寄ったりせずに最初から入店をあきらめるのでしょう。

お店の構造はすでに作ってしまった時点でどうにもならないところはあります。なので、お店の中が外からよく見えないお店は工夫が必要です。いちばん簡単な工夫がお店のドアを開けっぱなしにすること。顧客は入り口に近づいて入るか入らないか決めることができます。

ではそれもできないお店はどうするか? いい工夫をしているお店がありました。入り口に「店内は疎を心がけています」と文字が貼ってありました。顧客目線のよい工夫だと思います。

(4)普通に顧客として入店した最高のお店

テレビやネットなどでニュースをさんざん見ているせいで顧客はコロナについていろいろな知識を持っています。店内で密にならないように座るとか、対面で座らずに横並びで座るようにといった厚生労働省の広報もされています。

知識としては飛沫よりも指先という話をしましたが、いちばん危険なのは実はテーブルで、その次がドリンクバーのパネルだそうです。トイレのドアノブも危ないという話もありますが、ポイントはそういった知識を持っている顧客がたくさんいるということです。

私が店内で飲食したお店でいちばん「いいな」と思ったお店の話をします。

まず席に通してもらう際に、入り口で手をアルコール除菌してもらったうえで、案内してもらった席に座ったら私の目の前で除菌スプレーとダスターでテーブルを拭いてくれた店がありました。顧客目線で説明すると、前にいた顧客からの感染リスクをこれで気にしなくてもよくなるという点で良いサービスです。

オーダーはタッチパネルで行う店なのですが、タッチパネルも目の前でひと拭きしてくれました。医師のような専門家には、ひと拭きでウイルスを除去できるかという点に別のご意見があるかもしれませんが、このちょっとした動作で安心度は変わるものです。

席は疎になるようにひとつおきにテーブルの上にバッテンマークが置かれていたので、隣に誰かが座るかどうかを気にしなくてすみました。普段であればテーブルの上に置かれている漬物のツボは撤去されていて、そういったものは料理と一緒に配膳されてくる仕組みに変わっていました。

支払いもキャッシュレスで、お店を出る際には店頭のアルコール除菌で手を消毒して安心して帰ることができました。あくまでコロナが収束に向かう今だからこそということですが、少しでも顧客に来てもらうためにこのお店が知恵を絞ったことがうかがえます。

さて、結局この話、どこが重要なのでしょうか。緊急事態宣言を受けた外出自粛の効果もあって新規感染者数は減ってきています。まだまだ油断大敵と言えますが、いずれは緊急事態宣言も解除されるでしょう。新型コロナウイルスが高温多湿、日光には強くないという研究結果も伝えられており、これから6、7月になると医学的にはコロナ感染は急速に収束していく期待もあります。

■慎重派の顧客をいかに早く呼び戻せるか

しかしマーケティング的には街に人が戻ってきても飲食店を安心して使ってくれる人の数は、最初はそう多くないでしょう。マーケティング用語でいうアーリーアダプターぐらいまでの合計16%の顧客はそれでも6月あたりから飲食店に繰り出すでしょうが、重要なのは慎重派の顧客をいかに早くお店に呼び戻せるかの施策なのです。

飲食店にとって朗報なのはマスクバブルが崩壊してマスクが手に入るようになったのと同時期に、アルコール不足も解消されてきて除菌用のアルコールも価格が下がって入手しやすくなってきたことです。

あとは飲食店の工夫次第の勝負になります。この先、緊急事態宣言が解除され、感染のピークが過ぎたとしても、警戒を緩めていない顧客が世の中の過半数に上ることを念頭においた工夫が必要になるのです。

鈴木 貴博:経済評論家、百年コンサルティング代表