「オンライン飲み会」需要で酒屋が人気?クレカ購買データでわかるコロナ消費

5月17日現在、日本における新型コロナの新規感染者数はピーク時からおよそ35分の1程度の20人となりました。落ち着きを取り戻しつつある感染者数の動向を受けて、政府は本日21日にも緊急事態宣言の解除を全国に拡大するかの判断を行うとみられています。

コロナ禍においては、旅館やフィットネスジムなどが大きな打撃を受けた反面、ECやオンラインコンテンツを取り扱う企業が株価を伸ばす場面もみられました。

それでは、コロナ禍で意外な恩恵や打撃を受けた業種はあるのでしょうか。今回は、4月後半以降のクレジットカードの購買ビッグデータ(現金含めた総支出の推計値)を用いて、4月7日の緊急事態宣言以降に私たちの消費行動がどのような変化をたどったのかを確認していきたいと思います。


支出が最も落ち込んだ業種は?

JCBと、スマートプラスのグループ会社であるナウキャストが5月15日に公表した「JCB消費NOW4月分速報値」によれば、2020年4月の消費動向は同年1月との対比で次のようになりました (なお、「冬には電気代が高くなる」などといった季節的要因は排除して集計されています) 。

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自宅で注文できるECが恩恵を受けている反面、映画館や遊園地のように、営業自粛を余儀なくされた娯楽関係の施設や外食・宿泊産業に対する支出が大きく落ち込んでいることがわかります。支出金額の落ち込みが最大となった業種は「映画館」で、2020年1月比で▲96%にものぼります。ここまでは私たちの感覚通りではないでしょうか。

意外に思う方もいるかもしれませんが、その次に支出金額が減少したのは「鉄道旅客」で、およそ▲95%でした。パーソル総合研究所の調査によれば、緊急事態宣言が発令された4月第2週のテレワーク実施率は全国平均で27.9%でした。ここから考えると、依然として鉄道旅客の需要は高いのではないかと思われます。

しかし、大きな支出が伴う運賃といえば、新幹線などの特急券の購入が主だったものになるでしょう。他県への出張や外出自粛による観光需要の減少が、消費面で大きな影響を与えている様子がうかがえます

また、休校措置やテレワーク体制への移行に伴い、通勤・通学定期券の購入を控える動きも、「消費金額」を減少させた要因であるといえるでしょう。

「オンライン飲み会」で酒屋が好調?

これまでの報道などから、飲食店が打撃を受けていることを感覚的に理解している方も多いでしょう。ここで、飲食店のセクターをより詳細に分析すると、より詳細な消費者の動きを観測できます。

飲食店のうち、「居酒屋」は▲90%と、ファミレス(20年1月比▲76%)、喫茶店・カフェ(20年1月比▲82%)と比べて一段と深刻です。ファミレスやカフェなどについてはデリバリーやテイクアウトが可能です。しかし、居酒屋という業態は、比較的娯楽に近い文脈で整理されるということもあって、特に大きな打撃を被っている可能性があると考えられます。

その一方で、実店舗を有する小売店の中でも「酒屋」が+14%と、ディスカウントストア(20年1月比▲3%)やコンビニエンスストア(20年1月比▲28%)と比べて好調となっています。

ここから、居酒屋で飲酒を楽しむことができなくなった消費者が、ZOOMなどのビジネスチャットツールを活用した「オンライン飲み会」など自宅用に近所の酒屋で酒類を調達しているという動きが推定できます。街の酒屋であれば、オンライン飲み会が突発的に開催されても即座に酒類を調達できる点でECよりも便利であるといえるでしょう。

酒屋が好調な理由は「突発的な飲酒需要に対応できる」という実店舗特有の強みが色濃く出たものであると考えられます。

貴金属の購入もわずかに増加

今回、最後に注目しておきたいのは「貴金属」です。貴金属は新型コロナ流行前から3%上昇しています。

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図表は純金のドル建て価格推移です。先月には、2011年の最高値1896.50ドルに迫る1741.90ドルをつけ、年初の最安値から14%程度も価格が上昇しました。日本市場では、2013年から続いた円安基調の後押しもあって、18日には1982年以来初めて1グラム6000円を超えました。

一般的に、金をはじめとした貴金属は、景気後退などにより、国が発行している現金の信用が低下することによって相対的に価値が上昇する傾向があります。貴金属の購入額の伸びからは、投資家心理だけでなく、消費者心理としても現金よりも安全な資産へ資金を分配し、リスクを回避しようとする動きが観測できます。

アフターコロナで“元どおり”になるのか

ここまで新型コロナ前後で消費動向の変化を確認しました。筆者としては、ここから新型コロナが収束すると同時に打撃を受けた業種が2020年1月の数値に戻るのかを注視したいと考えています。

当初こそ、動画配信サービスの利用度上昇やオンライン飲み会という新しい試みは「映画館や居酒屋に行けない」という事情から仕方なく選ばれていた節もあるでしょう。

しかし、皮肉なことであるかもしれませんが、コロナ禍によって、このようなサービスの利便性に初めて気がついた方々も少なくないのかもしれません。そうすると、コロナ禍をきっかけに今回スポットライトを浴びた業種が引き続き消費者の支持を集め、利用頻度が減少した業種に消費者が完全に戻ってこないというリスクに注意が必要であると考えます。

(スマートプラス 執筆班)