震災対応の教訓、後輩職員へ 仙台市が伝承プログラムを作成へ

仙台市は本年度、東日本大震災の対応に当たった職員の経験や教訓を後世に引き継ぐため、宮城教育大と連携し、職員間伝承プログラムの構築に乗り出す。阪神・淡路大震災を経験した神戸市などの事例を調査。市職員有志が始めた災害エスノグラフィー調査の活用法も検討し、職員研修用の教材開発を進める。

 震災発生から丸9年が経過し、当時を知らない震災後入庁の職員は全体の約3割を占める。市は新規採用職員の研修に震災遺構荒浜小(若林区)の見学を組み入れるなど経験伝承に取り組むが、系統的なプログラムは確立されていない。

 発生1年と5年の節目に記録誌を発行して行政対応は形に残したものの、職員研修で活用することは少ない。データブックの記録誌に載っていない「生きた教訓」の伝承は、職場に任されている。

 本年度は神戸市のほか、新潟県中越地震を経験した新潟市も調査し、職員間で経験をどう引き継いでいるのか把握する。宮教大との教材開発は年度内に終え、災害対応の教訓を学ぶプログラムを作り、2021年度からの研修に生かす。

 災害エスノグラフィー調査は、市職員の自主勉強会「Team Sendai(チーム仙台)」が11年12月に取り組み始めた。17年度に東北大、常葉大(静岡市)との共同研究に発展し、18年度に市が加わった。

 避難所の運営やがれき処理など当時の災害対応に関し、係長以上の職員65人から自身の経験や失敗、教訓を聞き取った。記録は冊子にまとめて永久保存するほか、チーム仙台は若手職員に朗読させて当時の疑似体験に役立てている。

 市は、聞き取りの様子をまとめた15分程度の動画も作成している。本年度は災害エスノグラフィー調査の成果、動画などの効果的な活用方法を検討し、伝承プログラムに取り入れる。

 市防災環境都市・震災復興室の担当者は「震災後に入庁した職員は今後、さらに多くなる。来年3月に震災10年の節目を迎えるのを前に、当時を知る職員の経験、教訓を受け継ぐ仕組みを確立し、次の災害に備えることが重要だ」と話す。

[災害エスノグラフィー調査]災害現場に居合わせた人、災害に関わった人への体験の聞き取りを通じ、その目に映った災害像を明らかにして記録する手法。質問項目は設けず、時系列に沿って何を体験し、どう感じたかなどを一方的に語ってもらう。災害時には何が起きるのかを居合わせなかった人が追体験し、教訓を共有することが目的。1995年の阪神・淡路大震災以降、一部の研究者が実践してきた。