震災語り部・伝承施設 世間の関心「低下感じる」7割

東日本大震災の経験や教訓を伝える語り部と伝承施設の運営者の7割が世間の関心の低下を感じていることが、河北新報社のアンケートで分かった。新型コロナウイルスの影響で、少なくとも6万人超のキャンセルが発生。記憶の風化とコロナ禍で命を守る教訓をどう継承するのか。震災10年目の被災地で伝承の重みが増している。(報道部・吉田尚史、鈴木拓也)

◎「報道減」危機感

 アンケートは語り部と遺構・施設が対象で、岩手、宮城、福島3県の語り部43団体、遺構・施設34カ所から回答を得た。「世間の関心の低下を感じるか」を尋ねた結果はグラフ上の通り。全体で70.2%が「とても当てはまる」「やや当てはまる」と答えた。
 特に語り部は79.1%が関心の低下を感じ、遺構・施設の58.8%を大きく上回った。語り部は2013年までに7割の団体が活動を始めており、開館時期が比較的遅い遺構・施設より危機感が強かった。
 関心の低下を感じる理由として回答が多かったのは「報道の減少」(62.3%)「全国で自然災害が発生し、相対的に忘れられている」(58.4%)など。自由記述には「『震災を知らない』と言う来館者に関心の低下を感じた」「(福島について)東京電力福島第1原発事故というイメージすらない人がいる」との意見があった。
 実際の来訪者の推移はグラフ下の通り。語り部が案内した人数は13年度の26万1233人をピークに16年度から16万~18万人でほぼ横ばい。遺構・施設は新施設の開館が相次ぎ、昨年度は初めて130万人を超えた。

◎「上書き」懸念も

 今年は新型コロナの影響で3月から来訪者が激減し、緊急事態宣言が発令された4、5月は7割超の団体や施設が一時休止した。この時期は大型連休を利用して被災地に足を運ぶ人が多いが、2カ月間の来訪者は語り部と遺構・施設を合わせて前年同期の6.8%にとどまった。
 宣言解除後は活動再開の動きがある一方、積極的に来訪を呼び掛けられないのが現状。各団体はインターネットを通じて語り部の活動をするなど試行錯誤を続けている。
 調査に協力した東北大災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授(災害伝承学)は「10年が経過していない段階で震災や原発事故を知らないで東北に来る人がいるなど、思った以上に関心が薄れていると感じた。新型コロナは震災を上書きしてしまうインパクトがある。遺構・施設が相次いで整備されており、来訪者をガイドや語り部につなげる仕組みが必要だ」と指摘する。

[調査の概要]東北大災害科学国際研究所の協力を得て5月下旬~6月中旬にアンケートを実施。岩手、宮城、福島3県で語り部や被災地ガイドの活動をする49団体と伝承館などの遺構・施設36カ所が対象。語り部43団体(回答率87.8%)、遺構・施設34カ所(94.4%)から回答を得た。県別は岩手14団体8カ所、宮城23団体16カ所、福島6団体10カ所。