アジア& アメリカで大人気…!売れてる「日本のクルマ」を実名公開する 各国ユーザーの本音とは

日本のクルマが世界で愛されて久しいが、本当のところはどう受け止められているのだろうか。10日発売『ベストカー』(10月10日号)では、「日本のクルマ 海外での評判」と題し、各国での日本車事情を詳報している。現地から聞こえてきたナマの声とは!?

アジア&アメリカの日本車事情

世界は広い。お国変われば生活様式や思考も変わる。気になるのが「日本車は各国でどう思われているのか」ということ。地球温暖化やコロナ禍により日本車への印象、以前と変化があるのか!? モータージャーナリスト・小林敦志氏の見識が広い、アジア&アメリカの日本車事情をご案内。

バンコク市内のタクシーは、カローラがほとんど。タクシー専用ともいえるグレードあり

ASEAN諸国:日本車は好まれるが、忍び寄る影が

世界的に見ると、プレゼンスの低下傾向が強い日本車。そのなかでASEAN市場は“最後の楽園”と表現してもいいほど日本車の強い市場だ。例えばインドネシア。

GAIKINDO(インドネシア自動車工業会)統計によると、’20年1~7月のインドネシア国内での新車販売台数における日本車のシェアは95%を超え、限りなく100%に近いものとなっている。

一方のタイ。トヨタモータータイランドの統計によると、’20年7月単月の販売台数ではトヨタをトップに以下いすゞ、ホンダと日本勢がトップ3を占め、この3ブランドの販売シェアだけでも約65%となっている。

このようななかで気になるのが日産の動き。今年3月にインドネシアにおける車両生産から撤退するとの報道が相次いだ。新興国向けブランドとして“ダットサン”を展開したのだが、例えばインドネシア国内でも消費者からの評価が低く、販売低迷状況となっていた。

ASEAN地域では日増しに、日産の存在感が薄くなっていっている。日系ブランドのなかではトヨタの強さが目立ち、インドネシアでは小型MPVの“アヴァンザ”が国民車と呼ばれるほどよく売れているし、タイの首都バンコクでは街中を走るタクシーのほとんどがカローラといった具合だ。

イラスト/小倉隆典

タイで例えれば、日本は憧れの国であり、日本国内のトレンドを敏感にキャッチしており、そのような傾向もあるのかバンコク市内では富裕層を中心にハイブリッド車を好んで乗っていたりする。欧州勢も富裕層向けにPHEVのラインナップを強化している。

ただここのところ、この地域の国民所得がめざましく向上し、水面下では“ドイツ車に憧れている”といった声もよく耳にする。現時点では圧倒的な販売シェアを誇る日本車であるが、韓国系ブランドの追い上げも目立っており、けっして安穏としていられない。

インド:富裕層もスズキのコンパクトカーが好き!

インドの新車販売ではスズキがよく売れているのは有名な話。首都デリー市内を見渡せば、日本でのトヨタ車並みにスズキ車を見かける。

乗用車の販売台数で見れば’20年7月単月でも、スズキ(マルチスズキ)の販売シェアは約50%でトップとなるだけでなく、2位のヒュンダイに3倍以上の大差をつけている。スズキはインドで売れ筋の4mセダン(全長が4m以内に収まるコンパクトセダン)をスイフトで初めて世に送り出しており、このスイフトをはじめワゴンR(日本仕様とは異なる)もよく売れている。

スズキの存在感は日本でのトヨタ並み

またインド国内では“NEXA”という、レクサス店のような上級店を展開しており、ここではバレーノ、イグニス、Sクロスなどを専売。

インドでは道路環境の理由もあり、ちょっとした富裕層でもコンパクトカーに乗っているので、バレーノやイグニスは“プレミアムコンパクトモデル”という位置づけ。それに続けと韓国のヒュンダイや起亜自動車も、このようなモデルをラインナップしている。

興味深いのはトヨタの動き。’20年7月はブランド全体ではトップのスズキと大差がついているのだが、富裕層や法人向けに大型MPVのイノーバクリスタや、大型SUVのフォーチュナーが販売のメインとなっており、台当たり利益の高いモデルがよく売れている。

コンパクトモデルでも4mセダンはラインナップせずに、“少し裕福な層”へ向けたラインナップを進めている。最近発表となったアーバンクルーザーもその1台といっていいだろう。また、’18年のデリーオートエキスポの会場にトヨタがアルファードを参考展示すると、終日たくさんの人が集まった。ほかのアジア諸国と同じく、押し出しの強いクルマは大好きなようだ。

イラスト/小倉隆典

総じて、日本メーカーではスズキ、トヨタ、ホンダ以外はインドの街中でまず見かけない。例えば日産。GT─Rとキックスしか販売していない、という現状があるから……。

中国:トヨタは「中堅メーカー」の印象

中国における乗用車販売トップはVW(中国語では“大衆”)となり、合弁2社(一汽大衆と上海大衆)を合わせた’20年7月単月の販売台数は30万台オーバーとなっている。

このように合弁会社の販売台数を合算すると、トヨタ(一汽豊田と広汽豊田)は約14万台で2位となるのだが、ランキングはあくまで合弁会社別となるので、東風日産が5位で日系ブランドトップとなっている。トヨタでは一汽豊田が7位に入っている状況だ。

以前は韓国ヒュンダイが日本車より販売台数で上回っていたのだが、数年前の政治問題を引きずっているのか、現状は苦戦している。日本では圧倒的な販売シェアを持つトヨタだが、単独会社でのランキングではトップ争いをしているわけではないので、消費者の間では“中堅メーカー”という印象も強い。

また、日産はもともと中国市場では人気が高い。中国国内のモーターショーでは、改良がなくてもGT─Rを展示するなどして、ブランドステイタスの向上を行っているほど。

日本メーカーの個別車種ではカローラ、RAV4、CR─Vあたりが特に人気が高い。日本車は少し前までラインナップ数が少なく、技術的トレンドも古く、消費者目線でのイメージダウンが顕著となっていた。今ではSUVを中心にラインナップの拡充が急速に進んでいる。

しかし、欧米や中国メーカーとの技術トレンドの差はなかなか埋め切れておらず、見た目だけでは中国車のほうが間違いなく先進的に見え、質感も同等もしくはそれ以上となっている。

富裕層は日本車よりドイツ系中心の欧州車、庶民層は格安だけど、日本車と比べても遜色の少ない中国車を選ぶ傾向もあり、日本車は全般的にやや中途半端な位置づけ、印象となっている。

アメリカ:「壊れにくい」「リセールバリューがいい」

売台数は1705万3566台。同時期のトヨタ(レクサス含む)は238万3349台、日産(インフィニティ含む)134万5681台、ホンダ(アキュラ含む)160万8170台となっている。GMが約240万台、フォードが約231万台なので、トヨタはアメリカでの販売台数は第2位という状況だ。

鳴り物入りで登場したスープラ。豊田章男社長が笑顔でアピール

’19年のその結果のように、アメリカでは日本車はよく売れているが、アメリカンブランド車に比べれば価格は高めとなっている。それでもよく売れるのは、リセールバリューがいいことが理由。

同じ年数乗ったとしても、アメリカ車よりは確実に値落ちが少ないので、月々のリース料金ベースで見ると俄然割安感が出てくるのだ(個人でリースを使うことが多い)。

また、ローンで購入したケースでも(現金ではほとんど買わない)、返済途中で新車へ乗り換え、新車のローン元金に残債を加えて“借り換え”して新車へ乗り継ぐケースも多く、その時でもリセールバリューが高ければ、残債が少なくなるので日本車の人気が高いのである。

残念なことだが、“格好いい”といったものは少なく、“壊れにくい”や、“燃費がいい”そして“資産価値(リセールバリュー)”が高いなど実用面が重視された結果、日本車は好まれて乗られているケースが多い。

性能や品質では日本車に肉薄している韓国車だが、リセールバリューが悪く、メリットが少ないため最近まで広告でリース料金プランを示すことができなかった。韓国車が日本車を超えられない唯一の壁といってもいいだろう。

トランプ政権ではほぼ無視されていたエコカーだが、対抗馬のバイデン氏はすでにEV普及策を政策に盛り込んでおり、EVでは分が悪い日本車の今後が少々気になる。

欧州:苦手な市場だが、マツダが高い評価

欧州は日本車が苦手な市場となっている。そんななかマツダはユーザーから昔から高い評価を受け、さらにVWなどのディーゼルスキャンダル以降は、HEV(ハイブリッド)が注目され、トヨタ車の売れゆきがいい傾向だ。

VWの新世代EV、ID.3

欧州ブランドはBEV(ピュアEV)を積極的にデビューさせているが、肝心の欧州でどこまで本気なのかは疑問が残るところ。新型コロナウイルスの世界的蔓延により、BEVの開発が滞るかと思われたが、かえって加速しているようにも見える。

リーマンショック後と同様に、日本メーカーが開発費を抑えるなどの守りに入れば再びトレンドに乗り遅れ、ユーザーにソッポを向かれるなど、取り返しのつかない事態にもなりかねない状況となっている。

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小林 敦志(こばやし・あつし)
モータージャーナリスト。ディーラーのセールスマンを経て、自動車情報誌へ。その後フリーに。乗り継いだ愛車はすべてカローラセダンという”カローラ先生”。