違法DL罰則化 回復しない音楽売り上げが示すもの

音楽の違法ダウンロード(DL)に罰則を設けたのに、1年たっても売り上げが回復しない-。音楽業界からの強い要望を受けて昨年10月から改正著作権法が施行されたが、期待された音楽CDや配信の売り上げ増効果が出ていないことがネットで話題となっている。“見込み違い”はなぜ起きたのか。議論はメディアの激変期のあり方にも及んでいる。
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 ネットで反響を呼んだのは、9月29日にNHKが報じた「違法ダウンロード刑事罰適用1年 売り上げ回復せず」というニュース。だが、受け手の反応に「驚き」はほとんどなかった。
 「知ってた。みんな1年前から知ってた」(ツイッター)
 そもそもネットでは、売り上げ減の原因を違法ダウンロードに求める音楽業界の主張に懐疑的な意見が多かった。昨年の著作権法改正をめぐる議論では、日本レコード協会が「違法ファイルなどの推定ダウンロード数は43.6億ファイルであり、これを正規音楽配信の販売価格に換算すると6683億円、正規音楽配信の2010年間売り上げ860億円のおよそ8倍に相当」という推計を示し、法改正を後押しした。しかし、「期待できる市場規模とはかけ離れている」「釣り逃した魚を計算する漁協」(はてなブックマーク)と、逸失利益の計算としてあまりに過大だと揶揄(やゆ)する声もみられたほどだ。
 ◆業界努力足りない?
 音楽産業は売り上げ減の原因を違法ダウンロードのような外的要素に転嫁するばかりで、良いコンテンツを生み出す業界内の努力が足りないのではないか-。そうした厳しい意見も、珍しくなくなりつつある。
「結局、みんな金出してまで聴きたい音楽CDがないということが判明したな」(掲示板)
 売り上げが漸減傾向にあるとはいえ、比較的高額な音楽CDが今でもよく売れ続けている日本の音楽市場は、世界的にも特異だという。日本レコード協会の統計によれば、昨年の音楽CDやDVDなど音盤の売上額は、音楽市場の売り上げ全体の約85%を占める。音楽ビジネスの主流が音盤販売から有料配信に移りつつある米国など諸外国とはかなり異なり、ある意味では世界の潮流から取り残されているとも言える。
 ◆他山の石
 昨年の違法ダウンロード罰則化に際し、反対の論陣を張ったMIAU(インターネットユーザー協会)の小寺信良代表理事(49)は「罰則化の目的は、音楽をCDなどの記録媒体に入れて売る『行き詰まったビジネスモデル』の破綻を、法改正で食い止めようとすることだった。しかし、それは結局達成できなかった」と厳しく指摘する。
 「音楽ビジネスは転換期にあり、他国では同じネット配信でも、1曲いくらの販売から定額聴き放題のサービスへと移行している。音楽への支出は固定費ではないし、ヒットチャート入りの曲は必ず聴かないと、という時代でもない。利便性を高めないと、ユーザーは離れていく」
 小寺さんはさらに、「音楽業界には『まさか人々が音楽を聴かなくなるはずがない』という大メディア特有の認識のずれがあるのでは」とも話す。それは、テレビや新聞など「○○離れ」と表現される事態が起きている他のメディアにも通じる指摘だろう。音楽業界をめぐる現状は、他のコンテンツ産業にも貴重な他山の石となりそうだ。(磨)                   ◇
【用語解説】違法ダウンロード罰則化
 著作権者に無断で音楽や映像をネットに投稿(アップロード)することは以前より違法だったが、平成22年1月に施行された改正著作権法で、違法と知りながらダウンロードすることも違法化。さらに24年の改正で、違法ダウンロード行為に「2年以下の懲役または200万円以下の罰金(またはその両方)」の刑罰が適用されるようになった。

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Posted by takahashi