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バルミューダの家電はなぜ独り勝ちするのか? “市場調査”に頼った商品開発が失敗するワケ

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無印良品は“非常識”…商品・顧客を絞らないのになぜ強い? 人気ブランドが必ず押さえている“3つの鉄則” から続く 【図表】バルミューダが独り勝ちできた“方程式”とは  バルミューダが出し続けている尖った高級家電の一つが、BALMUDA The Light。価格数千円のデスクライトが多い中で、The Lightはなんと税込40,700円。高価だが市場では高く評価されている。なぜか? マーケティング戦略コンサルタントの永井孝尚氏の著書『 世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた 』から、バルミューダの取り組みを中心に、マーケティングのコツを解説します。 ◆ ◆ ◆

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マーケティングの基本に忠実なバルミューダ

 家電市場は典型的な成熟市場だ。そんな中でバルミューダは、自然界の風を再現した扇風機「The GreenFan」、水を使って焼くトースター「BALMUDA The Toaster」など、これまでになかった機能を持つ新しい高級家電を世に出し続けて成長している。BALMUDA The Lightもそんな商品の一つ。価格は税込40,700円だ。  実は私もBALMUDA The Lightを愛用している。目の疲労が激減して執筆作業が捗るのだ。執筆パフォーマンスが向上して、たとえば6ヶ月間かかる執筆期間が1週間だけでも早くなれば、4万円の投資はあっという間に回収できる。  このBALMUDA The Lightの開発ストーリーは、いわれてみれば当たり前なのに多くの人がなかなかできないマーケティング戦略の基本に忠実だ。このことを教えてくれるのが、マーケティングの大家セオドア・レビットの著書『 T・レビット マーケティング論 』の冒頭にある論文「マーケティング近視眼」だ。60年前の短い論文だが、この論文は読みやすい上に、マーケティング界に実に大きな影響を与え、いまも通用する深い洞察に満ちている。私自身、折に触れて読み返して自分を戒めている。そこでこの論文に沿って、バルミューダの取り組みを見ていこう。

問題は市場飽和ではなく、努力不足

写真はイメージ ©️iStock.com

 私はあらゆる業界の数多くのビジネスパーソンから、何度もこんな話を聞いてきた。 「ウチの業界は市場が衰退しているので、厳しいです」  レビットは、「これは単なるマーケティング努力の不足であり、要は市場への責任転嫁だ」と実に手厳しい。  考えてみれば、あらゆる産業は例外なく成長産業だった。たとえばドライクリーニングもかつて超成長産業だった。19世紀のウール衣料全盛期、ドライクリーニングは衣料を傷めず簡単に洗う唯一の方法だった。しかし今は成熟市場だ。同様に現在低迷しているあらゆる業界も例外なく、かつては成長産業だった。しかし商品を放置したままだと必ず陳腐化する。原因は市場の衰退ではない。マーケティング努力の失敗なのだ。  私たちの身近なコンビニも30年前から「コンビニ市場は飽和した」と言われ続けてきた。しかしコンビニ業界は「コンビニ飽和論」をはね除け、1990~2019年の29年間で国内売上と店舗数は実に4倍も成長した。コンビニが「単なる小売業」に甘んじなかったからだ。公共料金支払い、宅配便取次、銀行ATM設置、冬のおでん販売、高品質なPB商品開発、セブンカフェのようなレギュラーコーヒー提供など、コンビニは「顧客に便利な存在になる」ために常に変わり続けてきた。  このコンビニの進化こそ、あるべき姿のお手本だ。消費者の不満を見つけ、その不満を解決する努力を続ければ、成長し続ける。その努力をやめた時に、市場は飽和する。要はそれだけのことなのだ。そして消費者の不満は、必ずどこかにある。消費者の不満を見つけ、自分の手で成功の要因を創り出すしかない。ではどうすればいいのか?  ここで多くの企業は「市場調査しよう」と考える。これはうまくいかない。

飽和する照明市場で、バルミューダが高級家電を投入できた理由

 照明器具メーカーのホシさんは市場調査の資料を見て、新商品企画で悩んでいた。 「うーん。照明市場はマイナス成長か。白熱灯からLEDにシフトが進んだから、今後はLEDに完全集中するしかないなぁ。でも価格競争は避けられないな。厳しい……」  これぞ、まさに「ウチの業界は市場が衰退しているので、厳しいです」状態である。  BALMUDA The Lightはこの飽和した照明市場に投入され、定価40,700円と超高価であるにも関わらず市場で高く評価されている。  The Light開発のきっかけは、子どもたちが絵や文字を書き始めると机に顔を近づける姿を見たバルミューダの寺尾玄社長が「目が悪くならないか?」と心配したことだった。  寺尾社長は「世界で一番、物がよく見えなければならない現場はどこか」と考えた末、手術灯と巡り会った。通常の照明は手元に影が落ちるが、この照明は手術灯の技術を使っており、影が出ない。さらに通常のLED照明はブルーライトで目への刺激が強いが、この照明は太陽光で目が疲れない。  こんな製品は、市場調査レポートを熟読しても生まれない。市場調査は過去のデータだ。既存商品に対する顧客の好みは把握できるが、この世にまだ存在しない製品のウォンツ(潜在的なニーズ)は把握できない。売れる製品は、顧客の「これが欲しい」というウォンツを具体化することで生まれる。このウォンツは、過去のデータの集計値である市場調査ではなく、マーケターの洞察でつかむものなのである。

マーケティングとセールスは、正反対

 このように企業に必要なのは、「マーケティング」だ。似た言葉に「セールス」がある。しかしセールスとマーケティングは、正反対の概念だ。セールスとは煎じ詰めれば「製品を現金に換えたい」という売り手のニーズが出発点だ。たとえばセールス重視の会社は、よく「売って売って、売りまくれ」といったり、「お客様にYesと言わせるテクニック」を身につけようとする。この考え方は、「顧客を大切にしよう」という考え方とは真逆である。  一方でマーケティングは、買い手のニーズが出発点だ。マーケティングでは「お客様のために全力を尽くせ!」と考える。  しかし「そんなことはない。われわれセールスも、お客様のことを一生懸命に考えて、全力を尽くしている」と言う人もいるかもしれない。本当にそうだろうか?  米国ウォルマートは世界最大の小売だ。売上57兆円。なんと日本のGDPの1割だ。このウォルマートの創業者サム・ウォルトンが、創業した頃のこと。部下が定価1ドル98セント、仕入れ値50セントの商品を「1ドル25セントで売りましょう」と言ったときに、サムはこう言ったという。 「ダメだ。仕入れ値に3割上乗せして、65セントで売る。儲けは、お客に還元するんだ」  ウォルマートはお客様に「最安値」という価値を提供することを真剣に考え、短期的な利益を削ってでも徹底的に買い手に尽くした。この結果、成長した。バルミューダも「子供たちの目を守るにはどうすればいいか」を考え続け、4年間の試行錯誤の末、The Lightを生み出した。バルミューダもウォルマートも、常にマーケティング発想で考えている。  もし「セールスもお客様のことを一生懸命に考えて、全力を尽くしている」という人がここまで考えていたとしたら、それこそがまさに「マーケティング発想」なのだ。  企業の使命は、顧客創造と顧客満足だ。製品はあくまでも手段に過ぎない。しかし残念ながら、あまりにも多くの企業が手段に過ぎない製品を中心に考えてしまっている。本論文から60年経った今でも、この状況はあまり変わっていない。  尖った商品を世に出し続けているバルミューダは、一見すると徹底的に製品を中心に考えている会社に思える。しかしその実態は、消費者のことを徹底的に考え抜く「マーケティング・カンパニー」なのだ。バルミューダがこのマーケティング中心の姿勢を堅持し続け、いつか日本から世界市場に羽ばたいていくことを願ってやまない。