補助金だけ受け取りコロナ患者の入院拒否ってアリ? 厚労省がトンデモ病院の調査開始

新型コロナウイルスに感染しながら自宅療養を迫られている人が全国に10万人近くいるなか、補助金だけ受け取ってコロナ患者の入院を拒否する医療機関がかなりあるという。

ひっ迫しているコロナ患者の病床を確保するため、厚生労働省は2021年8月20日、そうした「トンデモ病院」の実態にメスを入れるべく、補助金の使われ方の調査に乗り出した。

新型コロナウイルスと戦う多くの医療従事者の陰で、そんな「悪徳医師」が本当にいるのだろうか――。

1床当たり2000万円近い補助金が病院に出る

堪忍袋の緒を切った厚生労働省の動きを、NHKニュース(8月20日付)「新型コロナ病床確保へ 田村厚生労働相、医療機関への補助金適切か調査へ」が、こう伝える。

「新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、自治体が公表している確保病床数よりも実際の入院者数が少ないとして、田村憲久厚生労働大臣は、病床を確保した医療機関に支払われる補助金が適切に使われているか、東京都などと実態調査を行う考えを示しました。新型コロナへの対応をめぐり、政府は、新たに病床を確保した医療機関を対象に1床当たり最大で1950万円を補助していますが、東京都ではおよそ6000床ある確保病床のうち、使用率は60%余りにとどまっています」

1床当たり2000万円近い補助金を病院に出しながら、使えない病床が4割近くも出ているという。東京都では8月22日現在、入院できずに自宅療養を余儀なくされている人が2万4704人もいるというのに……。

加藤勝信官房長官も同日の記者会見で、

「医療機関が、正当な理由なく都道府県の要請に応じず、適切に入院受け入れを行っていない場合、病床確保料の対象とならないこともあり得る」

と述べた。「補助金の返還を求める」と脅したのだった。当然のことだろう。

いったいなぜこんな事態になったのか――。日本経済新聞(8月20日付)「政府、コロナ病床実態調査へ 補助金受け消極的な病院も」が、こう解説する。

「日本は一般病床と感染病床が計88万9000床あり、世界的に多い。それでもコロナ禍では病床不足が常に問題になっていた。政府は今年3月、昨冬の感染者の2倍想定で病床の上積みを都道府県に求めた。確保病床は全国で年初の約2万8000床から約3万7000床に増えた。都では4000床から(6000床と)1.5倍になった。
足元では病状が悪化しても入院できない患者が相次ぐ。各地で病床使用率が6~7割の段階でひっ迫が始まる。自治体と病院が協議して確保病床数を決めたのに、受け入れられない病院がある。厚生労働省は2020年末以降、新規に病床を確保すると、1床につき最大1950万円を支給する制度を設けた。空けておく病床に1日最大約43万円を補償する事業などに1兆円を投じた」

日本経済新聞はこう続ける。

「入院要請を『原則速やかに受け入れ、正当な理由なく断らない』ことが支給要件だが、拒否する例がある。人員不足や別の病気で患者が埋まっている場合も正当な理由に当たるからだ。厚生労働省は再三、入院を断らないよう求める通知を出したが、協力しない病院の実態をつかめていない。補助金が患者受け入れにつながったのか、効果を検証してこなかった。
厚労省が8月6日付の文書で、患者を受け入れない場合は、補助金の返還請求する可能性も示唆した。その後、都が170の重点医療機関のうち、受け入れ実績が低い施設に聞き取りをしたところ、患者の受け入れが増えた」

これまで協力をしてこなかった病院の実態を調査してこなかった厚労省もうかつだが、補助金の返還請求をチラつかせた途端、入院の受け入れが増えたというのだから、病院側の態度豹変にも呆れるばかりだ。

日本経済新聞はこう結んでいる。

「政府には悪質な病院名を公表する案もあるが、病院との関係を悪化させるとの慎重論もある。公金を投じて病床を整備したのは、コロナ禍でも命を守り、社会経済活動を続けられるようにするためだ。その病床がフル稼働できず、自粛や営業活動が続くのでは、社会の理解を得られない」

患者のいない病床をコロナ病床にして儲ける

それにしてもなぜ、病床があるのにコロナ患者が入院できない事態が起こっているのか。今回の事態の背景には、日本には救急医療制度が遅れている問題点があると指摘するのは、PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)(8月19日付)「『病床があるはずなのにコロナ患者が入院できない』政府が見落としている医療体制の問題点 税金をばらまくだけでは解決は遠い」という記事だ。

筆者は、高久玲音(たかく・れお)一橋大学経済学研究科准教授。専門は医療経済学で、東京都地域医療構想アドバイザーも務めている。こう分析している。

「(現在)医療現場での混乱も続いているが、第1波の頃とは明らかに異なる点がある。多くの病院の経営は順調なのだ。突然の流行で混乱を極めた第1波では、病院は軒並みかつてない減収を記録した。その後、コロナ対応のための補助金が整備され、黒字の病院が増えている。筆者がとりまとめた東京都の病院を対象とした経営状況調査でも、コロナ患者の受け入れが期待されている都内の急性期病院は2020年度全体で億単位の黒字だ。多くの通常医療がキャンセルされた中での黒字は、病院に対する補助金がいかに潤沢だったかを示している。
黒字のカギは政府が設けた空床確保料にある。コロナ患者を診るためには、他の患者と隔離するために多くの空床を事前に準備する必要がある。空床を確保するには通常の患者の診療を停止する必要があり、そうした機会損失を補填する補助金が設けられた」

この空床確保料の問題点を、高久氏はこう指摘する。

「空床確保料には問題も多く、たとえば、もともと稼働率の低い病院が、患者のいない病床をコロナ患者のための『空床』として申請して儲けているケースもある。多額の補助金は配られたが、残念ながら医療提供体制は改善されていない。典型的な例は、搬送困難事例の増加だ。まず『コロナ疑い』の患者の搬送が困難になっている。『もしもコロナだったら…』と考える病院は受け入れを断ることになる。
陽性が確定している患者の受け入れはいわゆる『重点医療機関』を中心に担われている。コロナ患者用の病床確保を行っている病院のことで、空床確保料をもらっていることもあり、基本的にコロナ患者の受け入れを断らないことが想定されているが、実際には『直前まで診ていた一般診療の患者のベッドをすぐに開けられない』等の理由で断るケースもある」

24時間365日受け入れる「ER」病院がほしい

そして高久氏は、日本は米国のように24時間365日受け入れ可能な「ER型」(救急医療)病院が発達していないとして、問題点をこう指摘する。

「中小規模の民間病院が乱立しており、救急医療に携わる急性期病院であっても救急専門医が1人しか常駐しない病院もある。また、看護配置の高い病院に手厚い診療報酬を設定していたこともあり、実際には急性期患者の診療実績が乏しい病院まで急性期医療に参画してしまっている。言葉は悪いが、(救急患者に治療を行わないと罰則がある米国と違って日本は)困難な患者の受け入れは断ってしまえるので、多くの病院が診療報酬上のメリットを目当てに急性期医療に手を上げている。
たとえば、重症化した患者を診る大規模病院であっても、コロナ対応の集中治療室が10床程度であれば感染拡大に伴い、あっという間に満床になってしまう。そうなると近隣の中等症を受け入れる病院も、重症化リスクの高い患者を受け入れることに躊躇してしまう。結果として医療システム全体が逼迫し、患者が必要な医療を受けられないケースも出てしまった。こうした事態を避けたいのであれば、平時から医療者の過度な負担なしに『24時間365日断らない医療』が実現できるような仕組みが指向される必要がある」

高久氏はこう結んでいる。

「政府は病院にコロナ患者を受け入れてもらうために、空床確保料という潤沢な金銭的インセンティブを与えることで対処してきた。膨大な公金が投じられた一方で、国際的には少ない感染者数にもかかわらず医療システムはすぐに逼迫してしまっている。この事実は個々の医療従事者の献身的な取り組みとはまったく別に、全体的なシステムとしてわれわれの医療提供体制が大きな問題を抱えていることを示唆している。
飲食店における営業の自由をはじめ、多くの人の基本的権利が感染抑制のため長期間制限されるなか、医療従事者には強制力を伴う診療協力や米国で行われているような病床拡大の義務化ではなく、病院によっては大幅黒字になるほどの強力な金銭的誘導が行われている。これはバランスを欠いている。さまざまな面で、コロナ禍で浮かび上がった課題をポストコロナの医療に生かしていく必要があるだろう」

高久氏は、病院を「補助金漬け」で「コロナ太り」にするより、全体のシステムを変えていくべきだと主張するのだった。