「マスクの着用」が確かにCOVID-19の感染者数を減少させることが600もの村を対象にした実験で判明

「マスクの着用」は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック初期から、感染拡大を防止する方法として世界的に推奨されてきました。「マスクを着用したくらいで本当に感染が抑制できるのか?」と疑問に思っている人々もいるかもしれませんが、バングラデシュの村に住む合計30万人を超える人々を対象にした大規模な実験により、サージカルマスクの着用がCOVID-19の拡大を抑制することが示されたとの査読前論文が、非営利団体であるInnovations for Poverty Actionのウェブサイトで公開されました。

The Impact of Community Masking on COVID-19: A Cluster-Randomized Trial in Bangladesh | Innovations for Poverty Action
https://www.poverty-action.org/publication/impact-community-masking-covid-19-cluster-randomized-trial-bangladesh

The Impact of Mask Distribution and Promotion on Mask Uptake and COVID-19 in Bangladesh | Innovations for Poverty Action
https://www.poverty-action.org/study/impact-mask-distribution-and-promotion-mask-uptake-and-covid-19-bangladesh

Surgical masks limit covid-19 spread, say authors of Bangladesh study – The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/world/2021/09/01/masks-study-covid-bangladesh/

Huge, gold-standard study shows unequivocally that surgical masks work to reduce coronavirus spread | Live Science
https://www.livescience.com/randomized-trial-shows-surgical-masks-work-curbing-covid.html

多くの科学者は、パンデミックの当初から「マスクの着用がCOVID-19の感染を抑制する」と主張してきました。しかし、理論やシミュレーションを基にしてマスク着用のメリットを研究することはできても、現実世界においてマスクの着用が感染防止にどれほど役立つのかを研究することは困難です。そこでイェール大学やスタンフォード大学、バングラデシュの非営利団体・GreenVoiceなどの国際的な研究チームは、バングラデシュにある600の村を対象にして、現実世界でランダム化比較試験を実施することにしました。


バングラデシュでは2020年5月下旬からマスクの着用が義務づけられ、違反者には罰金が科されることになっていたものの、実際に着用している住民の割合は2020年6月時点で約26%に過ぎなかったとのこと。また、マスクでしっかりと鼻と口を覆っている人に限定すると、割合は約20%まで減少したそうです。

2020年11月から2021年4月にかけて行われた実験では、ランダムに選んだ300の村を「実験群」としてマスクの着用を奨励するプログラムを実施し、残り300の村は「対照群」として介入を行いませんでした。調査対象となった600の村には合計で約34万2000人を超える成人が住んでおり、実験群に割り当てられたのは約17万8000人、対照群に割り当てられたのは約16万4000人だったそうです。実験群と対照群の村はテスト開始時点におけるCOVID-19の症例数、人口、人口密度などが類似しており、全ての村は少なくともお互いに2km以上離れていたとのこと。

研究チームは約8週間にわたる介入の中で、毎週または2週間に1回の割合で各家庭や公共の場所でマスクの無料配布を実施し、介入群の村のうち3分の2にサージカルマスクを、残る3分の1に布製マスクを配布しました。また、配付時にバングラデシュのシェイク・ハシナ元首相やクリケットのスター選手であるシャキブ・アル・ハサン氏を起用したマスク着用のプロモーションビデオを見せたり、イスラム教の宗教指導者であるイマームが金曜日の礼拝でマスクの着用を推奨したり、「マスクプロモーター」を通じてマスクを着けていない人に着用を促したりする介入が行われました。


実験の結果、介入が行われなかった対照群ではマスクの着用率が13.3%にとどまっていたのに対し、介入群では着用率が42.3%と約3倍に達したことがわかりました。この結果は、実験期間中ずっと確認されていただけでなく、実験が終わった5カ月後の時点でも、実験群の村におけるマスク着用率は10%高かったそうです。さらに、「マスクの着用で安心した人々が逆に社会的距離を縮めてしまうのではないか?」という懸念とは裏腹に、社会的距離を守る住人の割合は対照群の24.1%に対し、介入群では29.2%でした。

また、住民がCOVID-19のような症状を経験したかどうかを調査したところ、介入群は対照群と比較して症状を示す割合が10%近く低いという結果になりました。さらに、症状を示した人の3分の1を対象にした血液検査では、介入群におけるCOVID-19陽性率は対照群より9.3%低いことも判明したそうです。なお、サージカルマスクが無料配布された村ではCOVID-19の症状を報告する割合が12%減少した一方、布製マスクが配布された村は減少率が5%にとどまったとのこと。


研究チームは、「私たちの研究結果は、『マスクの着用はCOVID-19症例の10%しか予防できない』と解釈されるべきではありません」と指摘。これは、介入によってマスクを着用するようになったのが「100人中29人」に過ぎず、マスクを着用する人の割合も介入群でさえ42.3%にとどまっていることが理由です。もし、コミュニティのマスク着用率が100%に近くなれば、さらに介入群と対照群の差は大きくなるだろうと研究チームは主張しています。

イェール大学の経済学者で論文の筆頭著者であるJason Abaluck氏は、「今回の研究で、『マスクが集団レベルでのCOVID-19対策の有効なのかどうか』に関する科学的議論は、基本的に終わりになると思います」と述べました。