フェンスと発光装置が効果発揮<東北・拡大する野生動物被害>(4)

コース荒らされると数百万円の被害

 敷地の外周約5・5キロを囲むフェンス外側の山林に無数の穴がある。イノシシが体表の寄生虫を落とすため、横たわって泥浴びする「ぬた場」だ。

 宮城県名取市の仙台カントリークラブで6月下旬、支配人の武田敏夫さん(67)がフェンスを見回っていた。「そろそろ、こっちに持ってこないと」。別の場所に移動し、フェンス沿いに設置された機器を手にした。

 機器の名称は「逃げまるくん」。精密部品加工の小野精工(宮城県岩沼市)が開発し、獣が嫌うレーザー光を昼は緑、夜は赤に切り替えて照射し、追い払う。太陽光パネルと蓄電池で動くタイプもあり、電源がなくても利用できる。

 武田さんは獣に有効とされるオオカミの尿や電気柵も試したが、慣れてしまったり漏電してしまったりして不発だった。「逃げまるくんとフェンスの二段構えが最も効果的」。5年にわたり使い続けた結論だ。

 イノシシが最初に出没したのは2015年。数日前からミミズを狙って土を掘った跡があり、気になっていた。客の帰宅後に見回ると、「ブーッ」という鳴き声がした。すぐに従業員総出でフェンスを設置し、侵入対策を施した。

 ただ、昼間は営業のため入り口を開け放っている。イノシシは周辺道路を歩いていることもあり、そこから入るかもしれない。「コースを荒らされたら整備に数百万円。客にけがでもさせたら大変だ」。小野精工に発注し、16~18年にかけて逃げまるくん3台を設置した。

脅かされる人間の生活圏

 現在、国内50カ所に出荷され、全国で利用が広まりつつある逃げまるくん。仙台市太白区秋保町にある天守閣自然公園もその一つで、3台が稼働中だ。

 同園会長の早坂隆朝(たかとも)さん(73)はイノシシ被害を防ごうと、20年ほど前からさまざまな方法を試してきた。電気柵にフェンス、ピューマの尿…。いずれもマイナス面があり侵入を許してきたが、16年から使った逃げまるくんは違った。設置場所にイノシシが全く来なくなった。それでも別の地点から入り込もうとするので、定期的に場所を変えるなどして対応している。

 フェンスと逃げまるくんで公園の景観は守れているが、早坂さんには別の懸念がある。山あいにある秋保町全体の問題だ。

 「市街地にいては気付かないかもしれないが、今やイノシシやクマ、サルも相当いる。人間の生活圏が脅かされており、今のうちに抜本的な対策をしなければ」と強調する。

 国の試算によると、2110年に国内人口は4000万台まで減少する。住民の自助努力には限界があり、獣害対策を社会全体で考える時期に来ている。