〝強制出社〟に踏み切る会社の事情

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が解除されて2カ月以上が経ちました。新たな変異株「オミクロン株」の出現もあり、警戒は依然として必要ながらも、少しずつ日常を取り戻しつつあります。そのなかで働き方も、テレワークによる新たなスタイルが浸透した一方、解除後はコロナ前を思わせる「強制出社」「満員電車」といった言葉がTwitterで話題になりました。「オフィスで働く」は今も必要か。オンラインアウトソーシングのベンチャー企業で働く小澤美佳さんが考えます。

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宣言解除後に復活した「強制出社」

コロナ禍で企業を取り巻く環境は激変し、最近ではテレワークも珍しいことではなくなってきました。しかし、オミクロン株への警戒は必要なものの、国内の感染拡大が落ち着きを見せている今、世の中は良くも悪くも元の生活を取り戻しつつあるようです。

緊急事態宣言が解除された10月には早速、「#強制出社」「#満員電車」といったハッシュタグがTwitterのトレンド入りをしました。テレワークの普及により働き方改革が進んでいるように思われた社会が、ここにきて逆行の兆しを見せています。

実際に、中小企業を対象としたデル・テクノロジーズの調査(8月実施)によると、「ワクチン接種が浸透し、コロナが収束に向かった場合、働き方はどうなると思いますか?」という質問に対して、8割超が「完全出社/オフィスワークに戻る」「併用で出社/オフィスワークが主流になる」と回答していました。(※出典:中小企業のテレワーク導入状況と ニューノーマル時代の働き方に関する意識調査結果(デル・テクノロジーズ))

こうした「出社回帰」の動きとは裏腹に、働く人の中にはテレワークを続けるべきだと考える人も多いようです。Twitterのトレンド入りを受け、「通勤時間がもったいない」「リモートでできる仕事を積極的に取り入れるべき」といった不満の声も多くあがりました。

コロナが完全に収束したわけではない状況でリスクを感じる人も多いようです。同時に、テレワークによって生産性の向上を感じている人は、理由のない強制出社に反発を覚えるのでしょう。首都圏では、満員電車によるストレスも不満の一因であるといえます。

テレワークの「落とし穴」

このような状況を踏まえて10月上旬、私のTwitterアカウントで「コロナが落ち着いて、オフィス出社に戻りましたか?」と質問を投げかけてみました。454の回答があり、46.5%が「オフィスとテレワークを適宜」。それに対して「完全にオフィス出社」と回答した割合が22.5%、「完全にテレワーク」が26.4%でした。

回答を寄せてくれた人たちの反応を見ると、「完全にテレワーク」と答えた人たちは自律的に仕事を進めやすい傾向がありました。テレワークに向いているとよく言われるのは、エンジニアやライターなど、ある程度1人で完結できる仕事です。

加えて、営業職もテレワークで活躍の幅を広げることができます。オンライン営業なら、これまでにアプローチできなかった遠方の企業も顧客ターゲットとして視野に入れられるからです。さらに、移動時間が減ったことにより余計に商談を入れられるので、効率よく営業活動を行うことができます。

一方、「完全に出社」を選んだ人から寄せられたコメントからは、コロナ禍でテレワークを導入したものの、リモートでの業務推進がうまくいかない、といった事情が浮かびました。新人教育やOJTなど、まだ自律的に業務を進めることができない従業員のサポートに苦戦するケースもあったと聞きます。

テレワークは良い側面ばかりが注目されがちですが、必ずしもテレワークを推進することが正しいわけではありません。もちろん、リモートで仕事が成立するのに「出社することが目的」となってはいけませんが、「とりあえずテレワーク!」という安易な導入もかえって生産性を下げる可能性があります。テレワークはまだまだ新しい働き方なだけに、解決すべき課題も多いからです。

【テレワークにより生じる課題】
・コミュニケーションの希薄化によるチーム間・チーム内連携の停滞
・仕事とプライベートの切り替えができず、結果として業務過多に
・業務上の相談ができないことや孤独感によるメンタル不調
・マネージャーが部下の不調に気付きにくくなった

アイデアは雑談から生まれる、とよく言います。実際に、オフィスのカフェスペースや自販機前での立ち話から新たな企画が生まれることもあるでしょう。

改まって会議を設定するほどではないものの、デスク越しに相談をしたい時も多々あります。

テレワークによりそれらの機会が失われることで、チーム間・チーム内連携に支障をきたすケースもあるようです。

また、テキストコミュニケーションが前提のテレワークでは、従業員が孤独を感じやすい傾向があります。業務上で困ったことがあっても気軽に相談できる相手が近くにいないため、次第にストレスがたまってメンタルを崩す人もいます。オフィス勤務なら、マネージャーが部下の様子を見て異変に気付くこともできるかもしれませんが、顔が見えない状況ではそれも難しいでしょう。

メリット・デメリットで判断も

テレワーク推進で成功するには、想定できる課題一つひとつに対してしっかりと向き合い、企業としての対策を打ち出す必要があります。また、職種や入社年次など、従業員の属性がそもそもテレワークに向いているかを考慮に入れることも重要です。

Twitterで最も多かった回答は「オフィスとテレワークを適宜」でした。コロナ禍をきっかけにテレワークを導入し、テレワークとオフィス勤務、双方のメリット・デメリットを把握したうえで、このような判断をした企業も多いのではないでしょうか。

「自由度高く働き方を選べる」というコメントもありました。同じ会社でも、テレワークに向いている人・向いていない人がいます。オフィス勤務に置き換えても同様です。

出勤をすることで「仕事スイッチ」が入って集中力が高まる人もいますし、自宅で仕事をする方が雑音が入らないため生産性が上がる、という人もいるでしょう。チームのかたちや職種によっても向いている働き方は異なります。

そのような個々の特性を考慮し、従業員に働き方の選択を委ねる企業もあるようです。

働き方は単なる手段

繰り返しになりますが「ただテレワークを導入する」だけでは企業成長や生産性の向上は見込めません。大事なのは、テレワークとオフィス勤務、それぞれのメリットとデメリットをきちんと理解したうえで、自社に最適な形で取り入れることです。企業によって、それがテレワークの場合もあれば、完全出社の場合もあるでしょう。企業やチーム、各メンバーの成熟度によっても判断は異なります。

テレワークも、コロナ禍をきっかけに普及した影響で、在宅勤務のみと思われがちですが、実際には旅行をしながら働いたり、帰省先で仕事をしたりすることも可能です。

感染症の拡大防止策というだけではなく、「時間と場所にとらわれず仕事ができる」ことが何よりのメリットであるといえます。だからこそ、その特性を生かせる形で導入を検討するのが重要です。

私が働くニットは2015年の創業以来、フルリモートでの経営を貫いてきました。でも、フルリモートという働き方はあくまでも手段の一つ。大事なのは、一人ひとりが望む生き方を実現できることです。

「働き方改革」「テレワーク」「副業」「デジタル化」などと盛んに言われますが、それらは全て単なる手段に過ぎません。会社として目指す組織のかたちや、従業員一人ひとりが望むあり方にしっかりと向き合うことで、おのずと必要な手段は見えてくるのではないでしょうか。

     ◇小澤美佳 株式会社knit(ニット)広報。2008年に株式会社リクルート入社。中途採用領域の営業、営業マネージャーを経て、リクナビ副編集長として数多くの大学で、キャリア・就職支援の講演を実施。採用、評価、育成、組織風土醸成など幅広くHR業務に従事。2018年 中米ベリーズへ移住し、現地で観光業の会社を起業。2019年にニットに入社し、カスタマーサクセス→人事→営業を経て、現在、広報に従事する傍ら、オンラインでのセミナー講師やイベントのファシリテーターを実施。副業で嘉悦大学の大学講師。キャリアや就職などに関する授業を担当。Twitterアカウントは2.8万のフォロワーがいる。