離婚率90%の“ある表情”はこうして表れる…「夫婦間含め、あらゆるパートナー間」に怒りの感情が必須なワケ

 人間関係において、相手の表情を見ながら自分の話し方や態度を変えるのは1つのコミュニケーション手段だ。しかし相手の表情が、その人の“本心”を表しているとは限らない。もしかしたら、“ウソの表情”を浮かべながら会話をしている可能性がある。

【画像】軽蔑の表情 ©空気を読むを科学する研究所

 ここでは、「空気を読むを科学する研究所」の代表で、「表情分析」のテクニックを使って犯罪捜査にも協力してきた清水建二氏の著書『裏切り者は顔に出る 上司、顧客、家族のホンネは「表情」から読み解ける』(中央公論新社)から一部を抜粋。日常生活の中で“ホンネ”を見抜くための表情分析スキルを紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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離婚率90パーセントの表情

 夫婦ゲンカの際にある表情が観られると、離婚につながる可能性が高いことが知られています。それはどんな表情でしょうか。

 家族心理の研究で有名なジョン・ゴットマン博士の研究によれば、夫婦ゲンカの際に軽蔑と嫌悪表情が観察されると、その4年後には90パーセントの夫婦が離婚すると言われています。特に、男性には軽蔑の表情が多く、女性には嫌悪の表情が多く観察される傾向にあると言います。


嫌悪の表情 ©空気を読むを科学する研究所

 一方で博士は、夫婦ゲンカのときに怒りが表れる分には安全だと言います。怒りは激しい感情を表す1つの形に過ぎないため、ケンカという状況においてそれは普通のことだからです。しかし、相手を見下す感情である軽蔑や、相手を拒絶する感情である嫌悪は、愛情にとって必要不可欠なポジティブな感情や思いやりの感情を阻害してしまい、離婚を予測する指標になると説明しています。

 このことは、離婚に限らず、あらゆる人間関係にも当てはめることができると思います。怒りという感情は「障害の除去」という行動に向かいます。夫婦間含め、あらゆるパートナー間で起こる食い違いがこの障害にあたります。障害を除去しようとするからこそ、怒りという感情が起こり、そのパワーを用いて、コミュニケーションを続けようとするのです。

 しかし、軽蔑や嫌悪という感情を抱いてしまうと、コミュニケーションの断絶が起きてしまいます。軽蔑を抱いた方は、相手を対等な立場とはみなさなくなり、相手が下手(したて)に出ない限り、話を聞かなくなります。

 嫌悪は「不快なモノの除去」という行動に向かいます。パートナーとのコミュニケーション自体を不快と感じてしまうと、「口もききたくない」という状態になってしまいます。これではケンカや言い争いどころか、意見の調整というコミュニケーションすらまともにできなくなります。

 相手が発している軽蔑や嫌悪に気づくことが出来れば、自分のどんな言動に問題があったかを内省し、冷静に考えることが出来ます。しかし、相手の感情に気づけなければ対処のしようがありません。

「雨降って地固まる」というように、ケンカや意見の食い違いを経験したからこそ、仲がより深まるということもあります。ケンカや意見をぶつけ合うときこそ、自他の感情の流れをロジカルに捉え、冷静に自分を見つめることが大切だと思います。

子どものウソは泥棒の始まり?

 4~5歳のお子さんがいると、「あれ! この子、ウソついてる?」と感じる時期が訪れると思います。そして、年齢が上がるにつれ、子どものウソはどんどんと巧みになっていきます。ウソをつくには、他者の心の状態を想定するという高い認知力が必要です。また、ウソがばれないように自分の行動を意識し、抑制するスキルが必要です。巧みなウソをつけるということは、知能が発達してきている証拠だと捉えることが出来ます。しかし、「嘘つきは泥棒の始まり」という言葉があるように、子どもがウソをつくことを心配される方もいるでしょう。親は、子どものウソにどう接したらよいのでしょうか。

 こんな実験があります。6歳から11歳の子ども172人を対象に、1対1の対面式クイズをします。子どもの目の前には、クイズの問題が書かれたカードが置かれており、出題者はそのカードを見ながらクイズを出します。子どもがクイズに回答したら、カードを裏返し、そこに書いてある答えを発表します。しばらくしてから、出題者はクイズを中断し、席を外します。子どもに少し待っているようにお願いします。

 このとき、クイズの答えをのぞいてはいけないよ、と釘を刺しておきます。子どもは1人部屋に残されますが、子どもにはわからないように隠しカメラで録画しています。そしてしばらくすると、出題者が戻って来てクイズを再開するのです。出題者が不在の間、どのくらいの子どもがクイズの答えをのぞき見したでしょうか。

 実験の結果、答えをのぞき見した子どもと、のぞき見しなかった子どもの割合は、丁度半分だということがわかりました。答えをのぞき見しなかった子どもの割合は年齢が上がるほど多く、「いけない」と言われたことは守るという道徳心が、年齢とともに醸成された結果かも知れません。

 一方、答えをのぞき見した子どもは、そのほとんど(80人弱)がウソをつきました。さらに、年齢が上がるにつれ、巧みなウソをつく傾向にあることがわかりました。年齢の低い子どもは、なぜクイズの答えがわかったのかを尋ねると、黙ってしまったり、曖昧な理由付けをしますが、年齢の高い子どもは、「最近、学校で習ったばかりだから知っていた」というような巧みな理由付けをしたのです。日常のなかでこうしたウソをつかれたら、真偽を判断することは難しいかも知れません。

 では、そうした子どものウソにどう接したらよいのでしょうか。

子どもがウソをついた理由を観察

 まずは、子どもにウソをつかせない環境作りが大切なのだと思います。本実験で言えば、答えが書いてあるカードを子どもの手の届くところにおかないことでしょう。

 人は誘惑に弱いものです。テストで子どもがどんなときにカンニングするかを検証した実験では、不正が露呈する可能性が低ければ、その子の成績の良し悪しに関わらず、カンニングをする傾向にあることがわかっています。つまりは、ウソをつく機会を生み出さない環境作りが大切なのです。

 それでもなお、子どもがウソをついてしまうとき。そんな時は、そのウソの性質や、背景にある要因について考える必要があるでしょう。そのウソは、利己的でしょうか。利他的なウソでしょうか。なぜウソをつかなくてはならなかったのでしょうか。本当に相手を騙す意図を持ち、発せられた言動でしょうか。子どもの認識と事実が異なっているだけかも知れませんし、非道徳的なウソかも知れません。いじめを受けている子どもが、いじめられていることが恥ずかしくて、あるいは、親に心配かけまいとウソをつくこともあるでしょう。よくよく子どもを観察し、子どもの声に耳を傾けてあげて下さい。あなたの観察力と接し方が、子どもを救うことになるかも知れないのですから。

消費者の言うことと表情は4割が一致しない

 商品を購入したり、サービスを受けたりすると、商品の満足度や接客態度についてアンケートを求められることがあります。お客様がどれくらい商品やサービスに満足しているのか、マーケティングの観点から非常に気になるところです。プリントやwebのアンケートなどで満足度を測る形式が採られていますが、どのくらいお客様のホンネが反映されているのでしょうか。

「面倒だな」と思いつつも店員さんのお願いを断りにくく、アンケートに応じる。10項目程度から成るよくあるアンケート。評価は「大変不満」から「大変満足」まで7段階あります。余程訴えたいことがない限り、「大変満足」か「満足」にパパッとチェック。少しくらい不満があっても「満足」にチェックを入れたりします。不満の理由を答えるのが面倒だからという方が、ほとんどではないでしょうか。

 アンケートに適当に答えるのは、面倒という理由だけではありません。質問事項の意図がわからなかったり、購入時の記憶が曖昧だったり、商品の購入動機が店に入る前と入った後とで変わっていたり、自分の本当の動機に自分自身すら気づいていない、ということもあるでしょう。ハーバード大学経営大学院のジェラルド・ザルトマン教授の研究によると、自分自身の思考や感情のうち、本人が自覚しているものはたったの5パーセントで、無自覚のものが95パーセントなのだそうです。

 このような私たちの無自覚の声を捉える方法はないのでしょうか。この疑問にヒントを与えてくれるのが、サンフランシスコ州立大学ディビッド・マツモト教授らによる研究です。

 アメリカ中西部に住むアメリカ人女性119名を対象に、美容品・衛生用品・家事用品・健康用品について、それぞれの商品のコンセプト・使用法・テレビコマーシャルについてインタビューを行い、インタビュー応答時の表情を計測します。その結果、次のことがわかりました。

女性のインタビュー応答時の表情は?

 (1)計測されたほとんど全ての表情は、弱から中程度の強さであり、部分的な表情であった。

 (2)表情が生じた頻度は、嫌悪、愛想笑い、怒り、軽蔑の順で多く、真の幸福表情が最も少なかった。

 (3)計測された愛想笑いの5分の1では、悲しみ、怒り、恐怖が各々、同時に生じていた。

 (4)発言と表情が、4割ほど一致していなかった。

 (1)は、消費者が抱いている感情が強くないことを意味します。また、部分的な表情であったということは、抑制しきれない感情が顔に漏洩したということです。要するに、商品について大して興味はないものの、若干の感情=関心は抱いている、という程度なのです。

 (2)と(3)の愛想笑いは、ネガティブな表情を隠すためであることが推測できます。(4)の発言と表情が4割一致していないというのは、例えば、10回のポジティブな発言の中に、4回はネガティブな表情が表れた、ということです。

 このことから、商品に対する本音は、アンケートなどの言葉を使った手法で引き出すことはあまり効果的ではなく、むしろ表情を読み解くことの方が重要だということがわかります。

 企業・個々人問わず、日々、営業や接客を重ねる中で、消費者やお客様の感想をデータ化し、将来の営業・接客、商品開発、マーケティングに活かそうと試行錯誤されていることでしょう。しかし、肝心のそのデータの中に本音が反映されていなければ、意味がありません。むしろ表情などの非言語から得られる情報を収集する、新しい方法や視点が必要だと言えるでしょう。

【前編を読む】「指原さんの愛想笑いはファンへの礼儀であり、優しさ」アイドルの“本心”も見抜ける“表情分析テクニック”の秘密

(清水 建二)