校長非常駐や図書室なし…教職員ストで授業ストップの私立高校、県が9回指導しても改善せず

私立和歌山南陵高校(和歌山県日高川町)で教職員による授業のストライキが起きた問題で、高校を運営する学校法人南陵学園(静岡県菊川市)に対し、和歌山県が昨年11月からストまでの間に、図書室の未設置などで計9回の行政指導を繰り返していたことが県への取材でわかった。しかし、学校法人を所管するのは静岡県のため、和歌山県の指導に強制力はなく、学校運営の改善にはつながらなかった。

 和歌山県は昨年9月、補助金の支給団体を対象にした定期的な調査で、学校図書館法で設置が義務づけられた図書室が学校に設置されていないことを把握。校長は学校法人の小野和利理事長が兼務しているが、学校に常駐していないこともわかり、県は同11月、校長の常駐や図書室の設置を文書で指導した。しかし、いずれも今も改善されていないという。

 さらに同12月には、学校法人が、生徒の授業料を補助する国の「就学支援金」を受け取ったにもかかわらず、授業料数千万円を保護者に返還していないことが判明。県は早急に返還するよう複数回にわたって求めたが、対応が完了したのは今年4月末だった。

 授業のストが起きたのは5月11日。教職員23人が、未払いになっていた4月分給与の支給や授業料の返還遅れに関する説明会の開催を学校法人に求めた。高校に労働組合はないが、教職員が協議してストを決めたという。

 ある教職員は「ストは最後の手段だった。授業の機会を奪ってしまった生徒たちには、本当に申し訳なかった」と振り返る。

法人所在地は静岡県、和歌山県に権限なく

 私立学校法では、学校法人が法令違反や不適正な運営をしていた場合、必要な措置を取るよう命令できる。従わなければ役員の解任勧告や学校法人の解散命令も可能だが、これらの権限が与えられているのは学校法人の所在地の都道府県で、和歌山県には権限がない。

 一方、高校の所在地の都道府県は、学校教育法に基づいて学校の設置を認可し、私立学校には閉鎖命令を出す権限を持つ。ただ、6か月以上の授業未実施など適用条件は厳しい。

 和歌山県の文書による指導はストまでの間に計9回、ストの後にも1回あったが、いずれも強制力がない行政手続法に基づく指導だった。

 和歌山県は静岡県に対し、措置命令の依頼をすることもできるが、していなかった。担当者は「権限が限られる中で、措置命令が必要かどうかの判断はできなかった」と説明。指導内容は静岡県に伝えていたという。

 静岡県は、学校法人への指導はしていたとするが、内容や回数は明らかにしていない。担当者は「学校が離れているので情報が速やかに入らず、関わり方が難しかった」とする。

 ある保護者は「就学支援金の問題で和歌山県に何度も電話したが『指導しかできない』と言われた。もう少し厳しい対応が取れなかったのか」と不満を漏らす。

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 静岡県は24日、和歌山県と合同で学校法人の立ち入り調査を行った。学校法人の財務状況などを調べ、対応を検討するという。学校法人側は取材に対し「調査には 真摯 しんしに対応したい」としている。

私学法見直し議論を

小入羽 こにゅうば 秀敬・帝京大准教授(教育行政学)の話 「事態の深刻さに対する両県の認識に温度差があったのだろうが、連携して対処すればストに至る状況は防げた可能性がある。私学の運営に行政が過度に介入すべきではないが、『二重行政』のような状態で指導が遅れ、生徒や教職員が不利益を被る例は他の学校でも起こりうる。学校のある都道府県に効果的な指導ができる仕組みを導入するなど、私立学校法の見直しを議論すべきだ」

少子化で私立の7割定員割れ

 少子化の中、私立高校の経営は厳しい。

 2021年現在、全国4856校のうち私立は1320校あり、101万人が在籍する。高校に入学する15歳人口は、この20年間で138万人から107万人に減少。公立は統廃合が進み625校減った一方、学校法人が独立して運営する私立は横ばいだ。

 生徒の獲得競争は激しく、各校は共学化したり、カリキュラムを見直したりして魅力アップを図っている。しかし、日本私立学校振興・共済事業団によると、入学定員に足りていない高校は7割に上る。

 私立の運営費は授業料と、教育環境の向上を目的に国や各都道府県が生徒数に応じて出す私学助成金などで賄われ、教職員の人件費が多くを占める。財政状況のしわ寄せは、教職員の待遇悪化につながりかねない。

 ストライキなどを行う団体行動権は憲法で保障され、公務員ではない私学の教職員にも認められており、労働環境の改善を求めて職員会議を欠席した例がある。大阪教育合同労働組合の増田俊道執行委員長は「教職員も一人の労働者であり、生活を守るためにやむを得ずストライキをすることもある。安心して働ける環境が質の高い教育にもつながる」と指摘する。