「音のバリアー」でイノシシ撃退 新発想の対策装置を商品化

畑を荒らすイノシシを音で遠ざける装置を、宮城県蔵王町宮の整体師武田順一さん(59)が商品化した。作物に近づいたイノシシを追い払うのではなく、ブザーを断続的に鳴らす「音のバリアー」で近寄らせない発想がポイント。自身の畑では4年間被害ゼロという。

10秒おきに人工音

 装置は「音で守る」から「音守(おともる)」と名付けた。設置すると、約10秒おきに「ピー」と人工音が鳴り続ける。約100メートル先まで聞こえる音量で、耳の良い野生動物であれば警戒してより離れた場所で引き返す仕組み。家庭菜園など小規模の畑での利用に向いている。

 音を鳴らし続ける発想はあるようでなかった。武田さんは「電気柵を設置しても好物が目の前にあればイノシシは危険を冒して入ってしまう。作物が見えてから追い払うのでなく、見えないよう近づけさせないことが大事」と話す。

 自宅周辺でも深刻化するイノシシ被害を何とかしようと、5年前に趣味の電気工作技術を生かして試作を始めた。ブザーなどの人工音で効果が得られると分かり、宮城県産業技術総合センターの支援を受けながら開発を進めた。知人ら5人の畑で実験して効果を確認。昨年11月に蔵王エクシードテクノロジー合同会社を設立し、販売に乗り出した。

武田さんが開発した「音守」。小型で耐久性にも優れているという

のり容器使い安価に

 武田さんは整体の仕事の傍ら農業もしている。会社を興した背景には「収穫前にイノシシに畑を荒らされ、高齢の農家の人がジャガイモなどの栽培をやめるのを見て残念でならなかった」との思いがある。「農家視点」に立ち、安く使いやすく壊れにくい製品作りを心がけた。

 音守は支柱付きで1本4000円。ケースは大きさや耐久性がイメージ通りだった「娘が好きな味付けのり容器」を採用し、南三陸町の渡辺海苔(のり)店の協力を得た。ブザーだけの機能にとどめ、単1電池2個で2カ月間以上作動するよう消費電力を抑えた。

 100坪(330平方メートル)当たり2本の設置を推奨する。ハクビシンなどイノシシ以外の動物への効果は未知数といい、まずは多くの人に利用してもらって情報を集める。

 県内を中心に口コミが広がり、これまで約50個を販売した。芝を守る目的で県産業技術総合センターなど公的機関からの注文も舞い込んでいる。「いつかはイノシシが音に慣れることも想定している。実用性重視で改良を重ねていく」。武田さんの挑戦は始まったばかりだ。連絡先は080(5561)0300。