外務省、“ほぼ”FAX廃止→原則メールに 企業では意外と現役?

 外務省が、一部を除き、FAXの利用を原則廃止していたことが6月23日までに分かった。前行政・規制改革担当相で、自由民主党(自民党)の広報本部長を務める河野太郎衆議院議員のツイートで外務省のFAX廃止が話題となっており、外務省に確認したところ、事実関係を認めた。業務効率化や紙の使用量削減などが主な狙いだという。外務省が廃止できた理由を取材するとともに、民間調査などを活用し、企業のFAX利用率などを調べた。 【画像】FAXの世帯普及率と、企業での使用率調査の詳細(全9枚)  河野議員は6月13日、自身の公式Twitterアカウントで「日本の外務省がFAXを使わなくなったお祝いに在京の大使が夕食会を開いてくれた」と投稿。記事執筆時点(6月22日午後6時時点)で、約3400リツイート、約2万2000いいねを記録している。  外務省は取材に対し「2021年6月に原則FAXの利用を廃止している」と回答。裁判資料の送付などに一部使用するケースがあるため、全廃やFAX本体の撤去までには至っていないものの「ほぼ100%メールなどに切り替えている」(大臣官房総務課)としている。

「テレワークの阻害要因」 大臣時代にFAX全廃を目指した河野氏

 河野議員がFAXに言及するのには、理由がある。21年9月の総裁選出馬前の行政・規制改革担当相時代の会見(21年4月13日)で「テレワークの阻害要因の一つ」として将来的に霞が関でFAXを廃止し、電子メールに切り替える方針を示していたためだ。  当時は東京都内に新型コロナのまん延防止等重点措置(まん防)が発出されていたこともあり、河野氏は会見で「FAXがあると、物理的に担当者が来なければならない。テレワークの阻害要因の一つ」と指摘。「今はメールでやりとりできる時代なので、あえてFAXを続ける意味はない」とし「メールに切り替えることで、少なくともFAXが原因でテレワークできないこということはなくなる」と必要性を主張していた。

FAXが博物館にある国も?

 FAX廃止を主張する背景には他国との温度差もあった。外務大臣経験もある河野議員は当時の会見で「各国からの大使に『我が国では博物館にあるファクシミリというものが日本では現役で毎日使われている』とやゆされたことがある」というエピソードを紹介。「FAXがなく電子メールで行うことが不可能とは思わない。具体的なスケジュール感は何もないが、FAXというものについては霞が関もそろそろ真剣に考えないといけない」と話していた。  2カ月後の6月15日の会見でも、FAX廃止に言及。同月末で霞が関でFAXを廃止し、翌7月以降は電子メールに切り替える方針を明らかにした。  一方で、情報漏えいや通信に不安があるなどとして霞が関の官僚たちから猛反発を受け、全廃を断念したとの報道(北海道新聞21年7月7日付け)も出ており、その後の続報もなかったことから、霞が関でのFAX全廃は河野氏の総裁選出馬とともに立ち消えになったとの見方もあったが、外務省は実行していた形だ。

外務省が“ほぼ”FAX廃止できたワケ

 過去には北朝鮮が日本に向けて弾道ミサイルを発射した際、北朝鮮大使館への抗議文をFAXで送付していたとして、Twitterで話題となっていた外務省。なぜ、外務省はFAXの原則廃止に踏み切ることができたのだろうか。同省大臣官房総務課の担当者は「外務省は他の省庁と比較して、外部の事業者とのやり取りが少ないためではないか」と指摘する。  確かに、総務省や経済産業省などが外部事業者からの申請を受け付けているのに対し、国民や事業者が直接外務省に何かを申請する機会は少ないように思える。担当者は「各国の在日大使館関係者との連絡はメールに切り替えているし、国会議員の先生とのやり取りも、事情を説明して、順次FAXからメールに切り替えた」としている。  「外務省がFAXを廃止できたからと言って、他の役所にも同様にできるとは思わない。メールへの切り替えを強制しないよう、事情を聞きつつ、全廃に向けて取り組んでいきたい」(大臣官房総務課)  官公庁でのFAX廃止を巡っては東京都も推進しており、5月末時点のFAX件数は、19年同月比で99.1%の削減に成功している。

FAXの普及率3割、家庭用ゲーム機並み 総務省調査

 ITツールの比較サイトを運営するSheepDog(東京都品川区)が15~29歳の男女300人に行った調査では、10代の4人に1人が「FAXを知らない」と回答。全体の65%が「FAXを使ったことがない」と回答するなど、若年層での認知度が低いことが分かった。  若年層では“過去の産物”のようなFAXだが、世帯普及率は意外と高い。総務省が5月に発表した「通信利用動向調査」によると、FAXの普及率は31.3%。「Nintendo Switch」(任天堂)や「Playstation 5」(SIE)などの「家庭用テレビゲーム機」(31.7%)とほぼ同じ普及率を誇るという。

勤務先でのFAX使用率49.7% 民間調査

 企業でも未だに現役で利用されているケースが多い。情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)が21年7月に、47都道府県の会社員約4000人(20~69歳)にFAXの利用状況を調査したところ、約半数に当たる49.7%が「勤務先でFAXを使用している」と回答した。  FAX使用者(1000人)を対象にさらに調査すると、送受信頻度では送信が「1日2回以上」(35.6%)、受信が「1日2回以上」(41.8%)でそれぞれ最多だった。送受信する原稿では「報告・連絡書」(62.4%)、「受発注書」(50.3%)の順に比率が高かった。  業種別でみても報告書、連絡書、受発注書が約50~70%を占めており、CIAJは「これらの送受信データは、FAXが日常の業務やワークフローとして深く浸透していると考える。産業機械や不動産業では、図面データにも広く活用されている」としている。  企業の環境対策が叫ばれる中、FAXの廃止は、業務効率を上げるだけでなく、紙の使用量削減にもつながる。官公庁だけでなく、各社の今後の取り組みにも注目が集まりそうだ。