コロナで進んだ「テレビの衰退」と「芸能人たちの生き残り競争」、芸能界はどう変わったか

2019年に発生し、世界規模で感染拡大を起こした新型コロナウイルス。日本でも多くの尊い命が奪われる中、志村けんさんや岡江久美子さんが亡くなるなど、芸能界にも大きな衝撃が走った。新型コロナで日本のエンタメ界はどのように変わったのかーー。

コロナが奪った芸能人とテレビの衰退

 新型コロナはエンタメ業界にも大きな影響を及ぼした。著名人のコロナ感染は日々ニュースで取り上げられ、突然の訃報も……。阪南大学教授の大野茂さんはこう振り返る。

「コロナ禍が始まってすぐのころ、志村けんさんの訃報が飛び込んできたときには大変驚きました。2年後の今でも命日前後に追悼番組が編成されるなど、昭和・平成を代表する偉大なコメディアンの死がテレビ業界に与えた影響は計り知れないですね」

 その後も、岡江久美子さんや千葉真一さんなど、コロナによる著名人の訃報は社会に動揺と悲しみを与えた。

「こういった訃報はとても残念ですが、連日報道されていたコロナによる死亡者数がただの数字ではなく、誰もが知っているような人も感染して亡くなってしまうんだという危機感、恐怖感を社会に植えつけたという側面もあります。結果、テレビ制作の現場でも社会においても、感染対策への意識が高まるきっかけになったともいえるのではないでしょうか」(大野さん)

 テレビ番組でもコロナ禍を通じてさまざまな変化が起こった。出演者の間に設置されるようになったアクリル板はその象徴のようなものだろう。

「出演者さん同士の間隔をとるためにスタジオの使い方も変わってきて、音声スタッフも撮影スタッフも大変だったようですね。分厚いアクリル板に光が反射してしまうため、当初は照明スタッフが頭を抱えていたという話も聞きます。ロケの現場でも、マスクやフェイスガードの着け外しによってヘアメイクの直しが何度も必要になり、ロケ時間が大幅に延びてしまうといった、さまざまな苦労があったようですよ」(大野さん)

 このような試行錯誤を経て定着したアクリル板やフェイスガードは、感染予防効果が疑問視されることも……。

「テレビ業界のなかでも、もうアクリル板はいらないんじゃないかという声は大きいようです。ただ、設置していないと視聴者からクレームがくることもあるため、きちんと対策をしていますという対外的なポーズとしても、番組制作の場ではこの先もなかなかアクリル板を外すことはできないでしょうね」(大野さん)

 テレビの制作現場にさまざまな制約が増えた一方で、コロナ禍に芸能人のYouTubeへの進出も加速。かつてはネットへの露出がまったくなかったジャニーズタレントでさえもYouTubeチャンネルを持つ時代が到来した。

「コロナ禍で人々がネットメディアにアクセスする時間が急増したことも背景にあるようです。芸能界というのは人気稼業ですし、いつまで自分が食べていけるのかという恐怖と戦わざるをえない商売でもあります。そういう意味では、テレビなどを通さずとも自分の収入源にも直結するファンコミュニティーを直接持っておきたいというのは、芸能人であれば誰でも考えることだと思います」(大野さん)

 テレビ業界の変化やネット進出を迫られる芸能人たちの生き残り競争も、コロナ禍による変化といえそうだ。

お話を聞いたのは……

阪南大学教授 大野茂さん

 専門はメディア・広告・キャラクター。慶応義塾大学を卒業後、電通のラジオ・テレビ部門やNHKのディレクター業を経て、現職。

取材・文/吉信 武