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日本に許可取りするより、自作したほうが早い…中国やアメリカで「日本風アニメ」の制作が本格化した事情

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中国やアメリカで「日本風」のアニメやゲームの製作が本格化している。中国のコンテンツビジネスに詳しい峰岸宏行さんは「日本の人気作を輸入すると権利関係が複雑で面倒なため、自作する動きが広がっている。この状態を放置すると日本のサブカルチャー人気にも影響が出る」という――。 【写真】ビリビリ(bilibili)のウェブページ ■2023年から英語版コンテンツを無料配信する集英社  『ONE PIECE』『鬼滅の刃』などの人気作を展開する集英社が、同社の漫画アプリ「少年ジャンプ+(プラス)」で掲載されるオリジナル作品について、2023年連載分より、従来の日本語だけでなく、同時に全て英訳して全世界に無料配信すると発表した。  これまでは日本の漫画が海外言語に翻訳され、海外の消費者に届くまでにはタイムラグがあったが、それをなくし、世界中の漫画ファンにコンテンツを「よーいドン」の状態で楽しんでもらう素地を作るというわけだ。筆者は、日本が生んだコンテンツとはいえ、住む場所や使用する言語に隔たりなく、読者を世界中に求めていく同社の試みは、今後の日本の漫画やアニメコンテンツ人気を守っていく上で非常に重要な動きだと考えている。  ご存じの通り、日本のアニメや漫画は海外に多くのファンを抱え、海外でもキャラクターのコスプレイベントや漫画の見本市が開かれるなど、サブカルチャーとして確立されて久しい。まさに破竹の勢いで、新型コロナウイルス感染症の影響がある以前は特に若い観光客を日本に呼び込む呼び水としても機能していた。  だが、筆者は、近年の日本コンテンツの制作者がこうした日本のコンテンツ人気にあぐらをかくあまり、近い将来日本のコンテンツが海外ファンから見向きもされなくなる事態が到来するのではと非常に懸念している。その背景には、日本のコンテンツが世界から見て「ガラパゴス化」しているという現実がある。

■国内向けに特化するあまり競争力がない日本コンテンツ  日本コンテンツのガラパゴス化とは何か。  それは、コンテンツが日本向けに特化しすぎているあまり、海外ファンの消費行動を妨げ、競争に負けてしまうという意味だ。  日本に住むわれわれには当たり前すぎて意識することもないが、日本のコンテンツは日本的価値観、生活習慣、思想がふんだんに盛り込まれている。例えば、主人公が学生のアニメでよく登場する「部活」や「制服」といった要素がこれに当たる。  海外ではこうした要素は一部の私立学校でしかなかったり、存在そのものがないことが多く、一般的とは言えない。当然そういった要素に慣れ親しんでいない海外のファンがこうした要素を含む作品を楽しむには少なくとも抵抗があり、慣れや説明が必要となる。  日本の漫画やアニメは昔からそのままの状態で海外で享受されてきた。  1965年にはアメリカでアストロ・ボーイ(鉄腕アトム)が出版されているし、例えば『超時空要塞マクロス』、『超時空騎団サザンクロス』、『機甲創世記モスピーダ』などのロボットアニメを再編集した『ロボテック』という作品が1985年にアメリカで放映され、1991年には大幅な修正を行った中国版ロボテック『太空保塁』が中国本土でも放送された。  当時は「日本独特なコンテンツ」がもてはやされたというより、あくまでも「低価格でテレビでの放送に耐えうるコンテンツ」として、放送側が選択、放映したもので、今のように消費者が主体、あるいは現代のように放送する側が視聴者を調査して輸入されたものではない。まして全てが正規ルートで広がったわけではなかった。  しかし、こうした日本コンテンツの消費は結果的に日本コンテンツに対してリテラシーの高い人々を生むことになった。現在に至るまで日本のアニメ・漫画・ゲームを信奉する日本国外のファンを増やしたのは、日本のクリエイターにとってはうれしい誤算だったのではないだろうか。 ■海外コンテンツはもはや日本産と遜色ない  だが、日本の漫画・アニメファンがある程度確立した現在において、日本コンテンツをそのまま海外で垂れ流しているのは非常に危険である。日本のサブカルチャーファンを最も多く抱える国の一つである中国やアメリカでは、日本で人気になったコンテンツを自国に輸入する際の「デメリット」を負担に感じるあまり、「日本風」のコンテンツを自国で自作するという動きが出始めているのだ。  『ニンジャスレイヤー』(アメリカ・Bradley Bond&Philip NinJ@ Morzez)や『RWBY』(アメリカ・ルースター・ティース・プロダクション)、あるいは『原神』(中国・mihoYo)、『アズールレーン』(中国・上海蛮啾&厦門勇仕)などが海外産の「日本風コンテンツ」の代表例といえる。  これらの日本風コンテンツでは、日本アニメを意識したイラストが採用され、それに合った日本人声優が起用されるのが一般的で、より力を入れたものでは日本人作曲家などを招いたりしている。これらはもはや「純日本」コンテンツと遜色ないところまで来ていると言える。  また、原神やアズールレーン、ドールズフロントライン等のように、企画段階から日本風イラスト、日本風ファンタジー、戦艦や銃器の擬人化を意識、強調した作品もある。  世界のアプリゲームの市場調査を行うセンサータワーによると、日本における中国産ゲームの市場規模は、2018年第1四半期で1億7000万ドルだったのが、2021年には9億ドルにまで急成長している。日本の人気ゲームアプリトップ100のうち、中国企業が開発したものは29もランクインしており、市場全体の25%を占めるまでになっている。

■日本コンテンツの輸入に潜むリスク

 では、日本のコンテンツを輸入する際のデメリットとは何か。

 日本で作られた作品を翻訳だけして他国で配信する場合、他国の文化や政治に対する間違った認識から「炎上」を生むこともある。例えばアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』や『鬼滅の刃』が海外で配信された際、イスラム教の経典をBGMに使用していたことが判明し、「不適切な音声の使用だ」としてイスラム諸国の視聴者から大バッシングを食らったことは有名だ。このような失敗談は世界中で似たような話が存在する。

 また、日本語を現地の言葉に翻訳する作業も一筋縄ではいかない。現地に適した形への言語的翻訳や文化的翻訳、固有名詞を如何に現地に合わせるか、英語と日本語を残すべき部分などを考慮する必要がある。

 例えば、近年ではすっかり市民権を得た「ツンデレ」という言葉は、さまざまな媒体でさまざまな翻訳がみられた後に、最終的には「傲嬌」(傲慢ながら可愛らしい)に落ち着いた。それほどコンテンツの固有名詞や新語の翻訳は難しいといえる。

 さらにアニメのローカライズとなるとさらに複雑で、日本語は英語や中国語に比べ、同じ意味でも文章が長くなる傾向にある。日本語でアフレコされたアニメを英語や中国語に吹き替えした場合、口パクに合わせるとなると、必要のない単語や擬態語、擬音語を入れなければならないことがある。元々の日本人声優による声の雰囲気と異なってしまうことも見る側の違和感につながることがある。

■即断力を求める中国、いつまで経っても遅い日本

 コンテンツ産業の商習慣の複雑さも海外にとっては悩みの種だ。漫画が原作のアニメ一つ取っても、原作者から出版社、アニメ制作会社、配給会社までさまざまな権利者がおり、著作権も一般的な企業から見ると難解である。そんな中、スピード感、即断力を求める中国サイドに日本側が付いていけないのを今まで数多く見てきた。

 例えばアニメ・コミックのゲーム化の日本コンテンツホルダー(版元)による監修作業だ。たった一言のセリフやイラストの監修に1カ月と掛かることも多い。これは決して日本側のレスポンスが遅いわけではなく、2010年代は海外の使用を許諾された側(ライセンシー)が現地で売れることのみを考えた無茶なデザインやアイデアがあったためだ。

 だが、リテラシーが成熟した現在においては、ライセンシー側も今ではかなり日本原作に忠実なものを提示している。それでも、日本の対応の遅さは一向に改善されていない。日本の版元側の監修人員が足りてないという話も聞く。

 これらの問題は、クリエイターを守る、企業の利益を守るというよりも、自身の成熟しすぎたシステムに振り回されている可能性がある。このままの状態が続けば、日本の人気作品を手軽に海外に届けるのは難しく、海外の事業者も「自国で自作した方が早い」と思い始めるのも当然だろう。

■「ウケるコンテンツ」を盛り込んだ自国産が手っ取り早い

 海外での「日本風」コンテンツの自作は、こうしたデメリットを回避することができるのだ。海外においても「日本風コンテンツとは何か」が十分に広まった現在、日本人から人気を博した「純日本コンテンツ」を待って自国仕様に翻訳、改造する必要はもはやなく、ウケる要素を盛り込んだ「日本風」コンテンツを自作した方が、時間もかからず権利関係も一目瞭然だというわけだ。

 このままの状態が続けば、近い将来において純正の日本コンテンツが見向きもされなくなる可能性は十分にある。

 では、今後も日本のオリジナルコンテンツのプレゼンス(存在感)を維持していくにはどうしたらよいのだろうか。

 筆者は、冒頭で触れた集英社の「ジャンプ+」のように、海外ファンが日本のコンテンツを無料ないし同じタイミングでアクセスできるような新たな仕組みが必要だと考えている。

■「フリーアクセス」できる体制の構築が必要

 中国では「ビリビリ(bilibili)」などのオンラインビデオプラットフォームが日本からアニメを買い付け、視聴者が無料で視聴できる環境があるから、年々日本コンテンツオタクが生み出されている。しかしそういう環境やサービスがない国や地域では、今後「オタク」の高齢化が進むだろうし、プレゼンスが下がっていくだろう。

 今までは80年代から続く海賊版による日本コンテンツや日本文化への認知やリテラシーを向上させる環境があったが、現在は正規版でしっかりビジネスできる状況に変わってきた。正規版が普及するのは喜ばしいことだが、日本のテレビでのアニメ放送のように、視聴者側が無償で接する方法がなく、海外で日本のコンテンツにアクセスできる方法がかなり限定的になってしまっている。

 しかしいまさら海賊版を容認するわけにはいかないだろう。となれば、入口となる日本コンテンツに「フリーアクセス」できる体制とプラットフォームの構築が必要なのではないかと筆者は考える。

 誤解しないでほしいのは、フリーアクセスとはいえ、すべてを無料で配信しろというわけではない。例えば、中国ドラマはそのほとんどをアラビア語やスペイン語などの字幕を付けてYouTube上で配信している。逆に日本や韓国など配信権・放送権売却を期待できる国や地域の言語の字幕はない。こういう部分は日本も見習ってもよいのではないだろうか。

 もはや「コンテンツが良い」だけでは不十分だ。見たい人が見ればいいという時代は人口減少や日本コンテンツのプレゼンス低下によって終わりを迎えるだろう。海外では雑誌やBBS、フォーラムといったメディアで、熱心に分析、紹介してくれた現地の人たちがいたからこそ、今日があるといえる。グローバル市場に挑戦してきたゲームに比べ、コミックやアニメには人員教育・配置や考え方の転換といった「脱ガラパゴス化」が必要だ。


峰岸 宏行(みねぎし・ひろゆき)
株式会社MYC Japan代表取締役

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日本生まれ、台湾育ち。2008年に北京大学を出たあと、北京で初めてのメイドカフェ「屋根裏」「路地裏」を創立、2013年経営譲渡。大学とメイドカフェ時代の人脈や経験を生かし、北京動卡動優文化傳媒有限公司に参画。2016年に株式会社MYC Japanを設立。主に中国ゲームの日本語アフレコ、音楽、シナリオ、プロモーション制作を行う広告代理業務を行う。