広告が多いマンションほど購入は要注意、消費者調査の「衝撃結果」が裏付け

「新築マンション価格が高騰しているので、さぞかし売り主はもうかっているのだろう」と思うかもしれないが、事実は異なる。価格が高くなっているのは、用地価格と建築費の高騰のせいであり、価格が高い分、供給戸数は減少していて、売り主の販売額は横ばいでしかない。高くなると販売不振になるので、彼らも高くしたいのではない。そんな折に、コロナ特需で持ち家購入検討者が増えたので、売れているだけである。販売価格をなるべく抑えながらも利益を確保するために、売り主はコスト削減に余念がない。それが、複数物件で販売センターを共有したり、モデルルームをVR化したり、竣工した実物売りに変えたりという形で表れている。(スタイルアクト(株)代表取締役/不動産コンサルタント 沖 有人)

売れる物件は
広告をしない

 マンションは広告をしなくても売れる場合がある。例えば、表参道駅徒歩圏の南青山で販売実績がある売り主は、大規模物件の販売直後に広告なしで売り切っている。売れた理由の第一は好立地の希少性であるが、この物件の前に販売した別物件で集客した顧客への直接アプローチに加え、建築計画を周辺住民に告知する白看板(通称「お知らせ看板」)を見て問い合わせてきた顧客などにより、売り切ることができた。

 また、ホームページへの掲載により高倍率がつき、「瞬間蒸発」した物件もある。品川駅徒歩圏の定期借地権のタワーマンションで、敷地は東京都の所有だ。相場が上昇していた中、販売価格はそのはるか前に決められており、いかにも割安な物件となっていた。ホームページには写真1つなく、申し込み方法がテキストで淡々と書かれるだけだった。それでも安ければ飛ぶように売れるのである。

広告が多い物件ほど
売れていない

 一方、売れない物件は広告ばかりが目立つ。ネット広告、新聞の折り込みチラシ、電車や駅での交通広告、最後の手段はテレビCMになる。

 マンションの集客範囲は一般的に狭く、その場所に地理感のある地元住民が主な買い手になる。それを広域に集客するというのはどんな売り主でもかなり確率が低くなる。折り込みチラシにしても、1万枚まいて1人集客できればいいという「万に1つ」、つまり0.01%未満である。TVCMによる集客はそれよりさらに2~3桁悪い確率になるので、業界では「売れてない物件」として見られがちだ。

 そもそも、首都圏の新築マンションは年間3万戸強しか供給されていない。首都圏の総人口は、約3400万人なので、ターゲットは0.1%ほどにすぎない。

 そんなターゲットが狭い分譲マンションだが、最近ブランド戦略と思われるTVCMが多い。目的は主にブランド認知(「知っている・聞いたことがある」)を上げるところにあるが、それが購入にどれだけ寄与するかはかなり疑問である。なぜなら、先述の通り、物件探しは立地と価格が全てと言っても過言ではないからだ。

 スタイルアクトが運営するサイト「住まいサーフィン」会員の内、首都圏のマンション入居者を対象に「売り主・ブランドよりも重要性が高い項目は何ですか?」とアンケートで聞いたところ、その結果は衝撃的なものだった。複数回答で、多い順に以下のようになる。

1位 アドレス(立地) 78%
2位 駅徒歩 69%
3位 資産性(資産価値が落ちにくいこと) 58%
4位 生活利便性 53%
5位 周辺環境 48%
6位 通勤・通学のアクセスの良さ 41%
7位 規模(総戸数)があること 19%
8位 外観やランドマーク性 17%
9位 共用部の充実 11%
10位 タワーであること 6%

 3位の資産性に最も影響するのは立地なので、何と1~6位までの全てで立地に関する項目が並んでいる。物件探しはまずは立地から探す証拠でもある。

 購入前にブランドを認知していようがいまいが、自分が欲しいと思う立地に出てきた物件は見に行くのだ。そうなると、来場前にブランドを認知させる意味はない。なぜなら、集客は物件広告が行っているのであり、物件の最大の魅力は立地だからだ。こんな簡単なマーケティングの基本がまかり通らないのは、広告の誘惑に取りつかれているとしか考えられない。

高速道路の看板広告には
なぜ郊外の歯科医院が多いのか

 高速道路の看板広告には東京郊外の歯科医院が多い。しかし、歯科医院はコンビニ以上に数があり、狭い商圏でしか集客できない。それでも広告を打つのはどれほどの効果があるのか、理解に苦しむ。筆者の私見ではあるが、自己顕示欲や自己満足のために行っているようにもみえる。

 しかし、こうした歯科医院があるおかげで、看板広告を営業する側は、「歯科医院が多くの広告を出しています」という営業資料が作れる。こうして、横並びで他の歯科医院も看板広告を出すことになり、ますます歯科のシェアが伸びる。

 効果に疑問があるのにこうした事実を利用して広告営業する方法は、マンションのブランド広告でも幅を利かせている。「御社は女性への認知が低い」とか、「Z世代への訴求ができてない」とか、そんな数字は他社との比較などでいくらでも作ることができる。しかし、その数字の最も重要な広告効果はうやむやにされている。そもそも、Z世代は広告を信用していないし、マンション購入年齢には10年以上早い。

 こうして、売り主の自己満足により広告予算が計上されることになる。

 ブランド戦略で重要なことは、認知向上のためにイメージ広告をすることではなく、物件の魅力やこだわりをしっかりと伝えることである。逆にブランド広告ばかりが目立つ会社の物件を購入するのは、広告コストの分だけ割高になっていると考えておいた方がいいだろう。