東北電力が「硬翼帆」搭載の石炭船運航開始 世界初

風力活用し温室効果ガス削減

 東北電力の専用船で、伸縮可能な繊維強化プラスチック(FRP)製の「硬翼帆(こうよくほ)」を搭載した世界初の石炭輸送船「松風(しょうふう)丸」が、運航を始めた。航行時に風力の後押しを受けることでエンジン燃料の重油を節約し、輸送に伴う温室効果ガス排出量を削減する。

 松風丸は長さ約235メートル、幅約43メートル。貨物の最大重量は約10万トン。船首にある帆は幅約15メートル、高さは風の吹き方に応じて4段階に伸縮し、最大約53メートルになる。大島造船所(長崎県)が建造し、船主の商船三井(東京)が東北電との輸送契約に基づき石炭を輸送する。

 東北電はオーストラリアやインドネシア、北米から石炭を輸入し、能代(能代市)、酒田共同(酒田市)、原町(南相馬市)、相馬共同(福島県新地町)の4火力発電所で用いる。7日に就航した松風丸は同型船と比べ、日本-北米西岸航路で約8%の温室効果ガス削減を見込む。

 東北電によると、松風丸の名前は能代市の名勝の海岸砂防林「風の松原」から取り「厳しい環境下でも力強く運航してほしい」という願いを込めたという。

AI使い配船計画策定 年数億円の経費減見込む

 石炭輸送船の配船について、東北電力は9月以降、計画の策定に人工知能(AI)を活用している。石炭をどこの産地から、どの船で、どの発電所に運ぶか。コストとリスクを最小化した配船は従来、担当者の知識と経験が頼りだった。AIが条件を満たす計画をより短時間で導き出すことで、年間数億円のコスト削減を見込む。

 能代、酒田共同、原町、相馬共同の4火力発電所で使う石炭は、輸送船が各発電所に月1~7回、オーストラリア、インドネシア、北米から運んでくる。東北電は効率的な輸送のため向こう約1年のスケジュールをあらかじめ定めている。

 石炭は売買契約を結べばいつでも産地に取りに行けるわけではなく、売り主と約束した船積み期間内に船を向かわせる必要がある。船は船会社ごとに運賃などが異なるほか、それぞれの船の積載量や燃費の違いも輸送費用に関わってくる。

 発電所の石炭の在庫は2週間以上を確保するのが目安。各発電所は産地ごとに品質が異なる石炭を混ぜて燃やすが、最適な混合割合はボイラーごとに違うため、各発電所にどんな品質の石炭が在庫としてあるかを見極めなければならない。

 複雑に入り組んだ条件を満たす配船計画の策定は、熟練者の技能に依存する部分が大きい上、荒天や設備トラブルのたびに見直しが必要となるため業務負担も重かった。東北電は9月、計画の最適化と負担軽減のため、約1年にわたり試運用していたAIの本格導入を決めた。

 AIを開発した「ALGO ARTIS」(アルゴアーティス、東京)は「システムに組み込んださまざまな条件を満たした上で、特に優れた一手を約10分で抜き出すことができるよう、AIの評価基準を定めた」と説明する。