価値わからない・なぜ5点も・本物に感動…県が3億円で購入、ウォーホル作品に波紋

鳥取県がポップアートの巨匠アンディ・ウォーホルの木製の立体作品「ブリロの箱」5点を計約3億円で購入したことが波紋を広げている。2025年にオープンする県立美術館の集客の目玉として期待を寄せる一方、疑問の声も相次ぎ、県は急きょ住民説明会を開催する事態となった。(藤本幸大、林美佑) 【写真】カメラを構え笑うアンディ・ウォーホル

 「ブリロの箱」は、米国のたわしの包装箱を模倣した1964年の作品。経済成長を遂げる米国の大衆文化をアートとして表現し、世界の芸術の価値観に変換をもたらしたとされる。作品は複数制作されている。

 県は「都市部の美術館にないポップアートの名品を展示できれば、鳥取の存在感をアピールできる」として、2025年春に倉吉市に新設する県立美術館向けに、5点を計2億9145万円で購入。このうち1点(6831万円)は1968年に制作された希少なもので、残る4点(各5578万円)はウォーホル死後の90年、生前の企画展に関わっていた美術関係者がウォーホル了解のもとで作った。

 新美術館を所管する県教委によると、国内ではブリロの箱は収蔵されておらず、「集客効果に加え、新たな視点で物事を柔軟にとらえ、想像力を豊かにする教育効果もある」と期待する。

 ウォーホルの人気は日本でも高く、2014年に東京・森美術館で開催された「アンディ・ウォーホル展 永遠の15分」は3か月あまりの期間中、約28万人が訪れた。

 しかし、県では購入に疑問の声が出ている。

 7000万円以上の動産を購入する場合、条例で県議会の議決を必要とするが、作品は1点ずつ取得したことで対象外となった。

 県は7月にも別のウォーホルの代表作「キャンベル・スープ缶」を元にした立体作品を4554万円で購入済み。いずれの作品も有識者で構成する外部委員会に取得の了承を得ており、手続き的には問題ない。

 それでも、7月にブリロの箱の購入予定が報告されると、批判的な意見が寄せられた。

 9月議会では「日本人には全くなじみがない。米国にあってこそ意味がある」と批判があったほか、県教育委員からも「3億円を高いと感じる人がいる」「なぜ1点ではなく、5点必要なのか」といった不満が示された。

 こうした指摘に、県教委の尾崎信一郎・美術振興監は「大量生産、大量消費が可能となった米国の60年代を象徴する作品。1点では意味がない」と説明する。

 その一方、足羽英樹教育長は「収集方針の説明が十分に浸透していなかった」と釈明し、11月までに県内各地で住民説明会を開くことになった。

 倉吉、鳥取両市の会場には計約100人が参加。「見ても価値がわからない」「生前に作られた作品以外はレプリカでよかった」と厳しい反応や、「鳥取で本物を見られることに感動を覚える」「活用によっては宝の箱になる」と前向きな意見もあった。

 県教委の担当者は「購入した個々の作品がなぜ必要なのかという説明をより丁寧にしていく」としている。

 ◆アンディ・ウォーホル=1928~87年。大衆文化を題材とした「ポップアート」を代表する芸術家で、マリリン・モンローやエルビス・プレスリーの肖像写真を版画にした作品などで知られる。モンローの肖像画は今年5月、米ニューヨークのオークションで約254億円で落札された。

高価な作品が集客の柱にも

 公立美術館の開館時、高価な作品が目玉となるケースは少なくない。

 青森県は1994年、マルク・シャガールの舞台背景画「アレコ」全4点のうち、3点を約15億円で購入。議会からは「高すぎる」と批判があった。

 2006年の県立美術館(青森市)のオープンにあわせ、米・フィラデルフィア美術館が所蔵する残り1点を借り、世界の美術館で初めて4点を同時公開した。17年からは無償貸与を受け、集客の柱となっている。

 今年2月に開館した大阪中之島美術館(大阪市北区)は、1989年に大阪市が約19億円で購入したアメデオ・モディリアーニの「髪をほどいた横たわる裸婦」を展示。モディリアーニの別の裸婦像は2018年、オークションで約170億円(当時)で落札された。市幹部は「美術品の価値は移り変わる。中長期視点で評価すべきだ」と話す。

県内各地で住民説明会

 県立美術館のコレクションに関する住民説明会(県教委主催)は今後、3か所で開かれる。

 〈1〉岩美町中央公民館(岩美町浦富)で29日午後1時から〈2〉米子市立図書館(米子市中町)で11月3日午後2時半から〈3〉南部町総合福祉センターいこい荘(南部町浅井)で11月23日午後1時から。

 定員は岩美、米子会場が60人、南部会場が40人。いずれも当日先着順。問い合わせは県教委美術館整備局美術館整備課(0858・47・3011)へ。