「コンビニでは高すぎて買えない」という貧困層の出現…コンビニにオシャレ商品が増えた本当の理由

コンビニの店頭でアパレルやスイーツなど高感度の商品が増えている。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「コンビニの客数が伸び悩んでいるため、各社はプチ贅沢な商品を手厚く取り揃えて個性を出すようになった。これは『コンビニでは高すぎて買えない』という貧困層が増えていることの裏返しだろう」という――。

■700万足を突破したファミマの靴下は上質で丈夫

先日、ラジオ番組でファミリーマートのソックスの戦略について話をしてきました。番組のナビゲーターがファミマのソックスやTシャツのファンだということで、経済の側面からその話を深掘ってみようという話になったのです。

実際にファミマのソックスは700万足を超える大ヒット商品になっています。売れ筋商品のひとつがファミマカラーである白地に青とグリーンのラインが入ったスポーツソックスで、これを身に着けてちらっと足元が見えるようにした写真がインスタに上がると、

「ああ、この人もファミマのファンなんだな」

というようにたくさんの共感がもらえるところも人気の秘密だそうです。

コンビニで売っている靴下やTシャツはつい最近までは緊急時の代替品でした。出張に出かけて下着を持ち忘れてきたとか、友人の家に急にお泊まりすることになったとか、それで深夜にコンビニで靴下を購入して翌日に備えるような利用シーンが中心でした。

ファミマのソックスはそうではなく、普段使いで使う人が買っています。商品がとても上質で、長く使えるのです。

インスタグラムで知りましたが水泳選手の池江璃花子さんはファミマソックスを全色揃えているそうです。なんとなく共感できるのですが、その理由はこのソックス、全色揃えたくなるような色使いの商品なのです。

■新ジャンル「コンビニエンスウェア」を画策するファミマ

実はこのファミマソックスは、デザイナーとして世界的に有名な落合宏理さんを起用しています。落合さんと言えば独特な色使いに特徴のあるデザイナーさんです。

たとえば、ファミマソックスには赤い色のソックスがあるのですが、色名は赤ではなく「あかね」なんですね。他にも「ライムイエロー」や、ハロウィーンには「パンプキンブラック」など微妙に身に着けてみたくなる色を提案してくるのです。

ファミマは「コンビニエンスウェア」というブランドカテゴリーを新設しようとしています。Tシャツは「インナー用」と「アウター用」の2種類があり、インナー用は下着として薄くフィットする形、アウター用は少し厚手で夏はそれ1枚でもスポーティーで上質に見えるデザインです。今治タオルの色使いも独特で他では見かけない感じです。ファミマのコンビニエンスウェアはアパレルブランドとして際立っているのです。

■ファミマでアパレルを買う顧客層とは何者か

もちろんコンビニはコンパクトな店内に4000アイテムの商品しか置くことができない業態ですから、ここからさらにアパレル商品を増やすことはできませんし、しないでしょう。にもかかわらず靴下とタオルとTシャツに関してはわざわざファミマに買いに来る顧客層が生まれている。これはひとつのファミマの個性です。

さて、この個性化は2022年のコンビニのキーワードのようです。ちょっと気になる数字があるので紹介しましょう。

【図表1】コンビニ3社の2022年度上半期売上・コロナ禍前との比較

出所=各社の月次売り上げ情報を基に百年コンサルティング作成

図表1はコンビニ各社のコロナ禍前と2022年度上半期の売り上げがどう変化したかという数字です。コロナで落ち込んだコンビニ売り上げもようやく回復傾向を見せ、セブン‐イレブンは3年前との比較で売上高が101%とコロナ前を超えました。ファミマも98%とほぼほぼ回復した数字になっています。

しかし面白いことに各社とも客数は回復していません。セブンとファミマは89%、ローソンにいたっては84%に客数は減っていて、それを客単価の増加で補っていることがわかります。

■コンビニでカップ麺を買えない低所得者層の出現

この現象、簡単に言えばコロナ禍の不況と昨今の値上げラッシュで「もうコンビニでは買い物できない」という消費者が10~15%も出てきたという数字なのです。日本の低所得層の人数は拡大しています。

コンビニについては最近ツイッターで「節約しようと思ってカップヌードルを買ったら231円もした」と投稿した人が炎上した事件がありました。投稿者としては値上げラッシュの一事例として注意喚起をしたのだと思われるのですが、もはやコンビニでカップヌードルを買えなくなった層からの強い反発を受けたのです。

低所得層のコンビニ離れを受けて、コンビニ各社の店頭にはプチ贅沢(ぜいたく)な商品が増加しています。「セブンプレミアム」や「ファミマル」などコンビニ各社のプライベートブランド(PB)商品を見ると、100円前後で買える商品も品揃えしているのですが、どちらかと言うと中流層向けの手に届く贅沢商品の増加が目立ちます。

■「成城石井」化するローソン

実はこのあたりのマーチャンダイジング政策に一番個性が出ているのがローソンです。ローソンでは傘下にそれぞれ特徴的な店舗ブランドを有しています。中流の上の人たちに人気の成城石井、自然派・エコ派をターゲットにしたナチュラルローソン、低所得層の味方のローソンストア100といった具合にローソン含め4つの店舗フォーマットで広い客層をカバーしようというのが従来の戦略でした。

ナチュラルローソンの店舗外観

写真=iStock.com/winhorse

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/winhorse

これは私の経済評論家としての観察事実ですが、この1年で中核であるローソンの店舗の品揃えが成城石井と同じ「中流の上」狙いに変わってきているのです。店舗の中央に大きく無印良品の売り場ができていて、ファミマのコンビニエンスウェアとは違った高品質で落ち着いた色合いの靴下や下着が置かれ、同時に無印良品が誇るちょっと贅沢で個性のある食品がずらりと棚を占めています。

その無印良品コーナーを離れると、ローソンのPB商品がやはり大量に配置されているのですが、セブンプレミアムやファミマルと違い、PB商品の単価やクオリティーが少し高めになっています。全体的に言うとナチュラルローソンの開発商品が棚に占める比率が増えているようで、スナック、おつまみ、スイーツなど、どのカテゴリーでも個性のある商品が目立つ配置です。逆に言うとローソンの店舗では100円程度で買えるPB商品の比率がセブン、ファミマと比較して非常に少ないように感じます。

■ローソンはいち早く中流層に狙いを定めた

経営陣はそう口には出さないでしょうけれども、評論家の視点で店頭をチェックするとローソンはいち早く中流層だけをロックオンする商品政策に狙いを定めたのではないでしょうか。ローソンの場合、経済的弱者に対してはローソンストア100というソリューションが提供されているので、選択と集中は他のコンビニチェーンよりもやりやすかったのだと推測されます。

その結果、セブン、ファミマと比較してローソンは客数の減少が大きいのですが、それもおそらく想定の範囲内で、この先は無印良品とナチュラルローソンの商品力を武器にライバルのコンビニ2強とは違った個性を強めようとしているように思います。

■セブンは「生き残る商品が良い商品」

その逆の話をしますと、セブン‐イレブンの中興の祖である鈴木敏文さんがかつて「コンビニの商品は面白くなくてもいいんだ」という趣旨の発言をされていたことがありました。もちろん商品開発の重要性を踏まえたうえでの逆説的な発言なのですが、要するに「本部がいろいろと頭を絞って季節のフェアやプレミアムな商品を開発するが、最終的にはデータが生き残る商品を決めるのだ」という話でした。

データに基づいて死に筋商品が棚から消えていき、顧客が選んだ商品だけが残っていく。そうすると意外と面白くない商品だけが残ることがあるのだけれど、それがコンビニなんだ、というようなかなり深い話だったと記憶しています。

そう考えると、セブンの商品ラインアップはローソンとは対照的です。典型的なのは金色のパッケージでおなじみの「セブンプレミアムゴールド」シリーズです。セブンプレミアムゴールドには緑茶はあっても烏龍茶はありません。ボロネーゼはあってもカルボナーラはなく、ビーフカレーはあってもキーマカレーはありません。生き残ったプレミアム商品だけがゴールドを名乗るのです。

そして同じカレーのカテゴリーにはボンカレーよりも安いビーフカレーもありますし、カップ麺のコーナーにはカップヌードルよりも安いセブンプレミアムのカップ麺もあります。商品企画側がどの所得層の顧客をターゲットにしようかと商品ラインアップ戦略を考えるのではなく、データが生き残る商品を決めるので、セブンプレミアムのラインアップと価格帯は幅広くばらけてまだら模様になってしまうのです。それが良いと考えるのがセブンらしさということでしょう。

■「セブンのまね」からの脱却を図るファミマ

さてここでファミマの話です。ファミリーマートという会社は長らく業界リーダーのセブン‐イレブンに対するフォロワー戦略を意図的にとってきたように見えます。フォロワー戦略とは、個性を出すのではなく、リーダー企業と同じであることをアピールするやり方です。

たとえば、ファミマルの食品カテゴリーを眺めるとほぼセブンプレミアムと同じような商品が並び、上質なハンバーグやビーフカレーなどセブンと同じような商品が金色の「ファミマルKITCHEN PREMIUM」に認定されています。もちろんちょっとだけ差を出そうとセブンにはないグリーンカレーを金に認定したりしているのですが、基本的にはセブンと同じようになるように力を注ぐ――。それが20年前ぐらいから2年前ぐらいまでのファミマの特徴だったと私は見ています。

そこにコロナ禍が来て、コンビニには結果的に低所得層の離脱と中流層へのフォーカスが起きました。セブンの場合はデータに基づいて経営していたら低所得層が離脱したのかもしれませんし、ローソンの場合は意図的に中流層にフォーカスする品揃えをしたためそうなったのかもしれません。

いずれにしても、2022年に入りコンビニ各社のメインの顧客は生活に余裕がある中流の上の階層になってしまったわけです。そしてそうなるとチェーンには個性が必要になります。ファミマもフォロワー戦略ではだめで、ファミマらしさが求められる顧客構成に変わったということです。

■個性の必要な業界、そうでない業界

そもそも世の中の小売業チェーンには個性が要らない業態と、個性が必要な業態があります。もちろんそれぞれの会社は個性を争っているのですが、消費者の側から見るとそんなことは知ったことではないという場合があるという意味です。

たとえば大型スーパーでイオンがいいかイトーヨーカドーがいいかは個性ではなく近所にあるかどうかで選ばれます。スギ薬局とサンドラッグのどちらがいいかは立地だけの差になります。大衆をターゲットにしている小売業態では品揃えに個性はそれほど必要ではありません。

しかし中流の上をターゲットにすると小売店に個性が必要になります。なぜなら中流層は「高いものを選ぶ理由」を求めているからです。

■「中流の上」層に選ぶ理由を与えたい

料理店で言えば「スペシャリテに相当するものが必要だ」と言うとわかりやすいでしょうか。もちろん家に近い、職場に近いという理由でそれぞれのコンビニを利用する人が8割だとしても、それを固定するための個性があったほうがいいのです。

ファミマの場合、新社長に細見研介氏が就任して以来、スペシャリテの強化にかじ取りが動いたように見えます。それは冒頭で紹介したコンビニエンスウェアもひとつあるのですが、他にもファミマにはスペシャリテが存在します。

一番わかりやすい例は「ファミチキ」でしょう。伊藤忠の畜産部門からファミマの社長になった上田準二氏が手掛け2006年に販売開始されたファミチキは、日本ではケンタッキーフライドチキンに次ぐほどの人気商品に育ちました。これはファミマの最大の個性です。

■「推しのコンビニ」が生まれる未来も遠くない

食品全体で言えばセブンの開発力が群を抜いているように私は思っていますが、ファミマはスイーツに関してはセブンよりも力が上だと消費者に評価されてきたと思います。一房2000円を超えるシャインマスカットがブームになった際も、いち早く小分けして400円台で買えるシャインマスカットを店頭に置いたのはファミマでした。個人的な評価で言えば、コンビニのフィナンシェについてはファミマの発酵バター入りのフィナンシェが一番おいしいと思います。

コンビニの自動ドア

写真=iStock.com/TAGSTOCK1

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/TAGSTOCK1

考えてみると、コンビニエンスウェアも商品企画自体はユニクロから転職した澤田貴司社長時代に計画が始まっていたわけで、フォロワー戦略を取る中でも歴代経営者の個性が今のファミマのスペシャリテを生んだのかもしれません。そして近年のファミマはそれらのスペシャリテに消費者の目を向けさせるように少しずつ戦略の軌道修正をしているように見受けられます。

ファミマの靴下から始まったこの話ですが、そのことは数年後にはコンビニ3社それぞれが今よりもずっと個性差が広がるという未来の予兆だったことが判明するかもしれません。それぞれの消費者にとっての推しのコンビニが登場する未来も面白いかもしれませんね。

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鈴木 貴博(すずき・たかひろ)
経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。

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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)