日本に「残念すぎる観光地」量産される悲しい事情

オープン4年で、さまざまな「モノマネ施設」ができた「白馬マウンテンハーバー」。写真中央、白馬の絶景に向けて飛び出したテラスが通称「タイタニック」(写真提供:白馬岩岳マウンテンハーバー)

日本のスキー人口が激減、インバウンドも途絶え、多くのスキー場が青息吐息となっている。そんな中、来場者数が過去最多を更新し続けている話題のスキー場をご存じだろうか? 長野県白馬にある「白馬岩岳マウンテンリゾート」だ。

「土地が本来持っている『隠れた資産』を発見し、磨き上げる。ただそれだけを考え、さまざまなアイデアを実現してきました。その結果、わずか4年で100のテレビ番組で紹介していただき、スキー場なのに夏の来場者数が8倍になって、冬の来場者数を超えるという結果につながったのです」

そう語るのが、白馬岩岳マウンテンリゾート代表の和田寛氏だ。ずば抜けたアイデアを次々と導入し、「夏に稼ぐスキー場」を生み出した和田氏。その初の著書『スキー場は夏に儲けろ!――誰も気づいていない「逆転ヒット」の法則』が刊行された。ここでは、「成功事例が次々と『モノマネ』されていく実態」と、「モノマネカルチャーを脱し、価値のあるアイデアを出すための心構え」を解説してもらう。

次々と模倣される目玉商品たち

前回の記事(1回500円「ブランコ」が瀕死の観光地を救った奇跡)でご説明した「ヤッホー!スウィング」は、圧倒的なロケーションと「ハイジのブランコ」を彷彿させるシンプルな仕掛けが評判を呼び、全国メディアに何度も取り上げていただきました。どこにもないような取り組みが評価され、PR面でのフックが強くなったのです。

しかしその後、大変びっくりすることに、全国各地で「似たようなブランコ」がつくられていきました。

近隣県の大手観光施設さんも、2021年になって類似のブランコを始められました。ホームページで拝見すると、ブランコ上部のデザインや値段、時間の設定や体重制限など、「ヤッホー!スウィング」とほぼ同一でした。

もっとひどいと感じたお問い合わせもありました。

外線でかかってきた電話を取ったところ、「お宅でつくったブランコが人気と聞いた。うちでも同じものをつくりたいので、どのくらい金額がかかったか、どこに頼めばつくってくれるのか教えてくれ」とのこと(とある地方自治体の方からでした)。

もう少し知恵を絞ったほうがいいのではないですか、と業者さん以外の情報はやんわりとお断りさせていただきました。

第1回の記事(元官僚46歳「夏に稼ぐスキー場」を生んだ逆転人生)で説明した「白馬マウンテンハーバー」についても、テラスの形状、なかでも私たちが「タイタニック」と呼ぶ、白馬岳を目指して飛び出した突端部分は、私たちが設計事務所の遠藤建築アトリエさんと一緒にこだわってひねり出したアイデアでした。しかし開業後4年で、よく似たデザインのテラスが3~4カ所ほど見られるようになってきました。 

残念ながら、日本の観光地や田舎は、「隣でうまくやったことを、そのままコピーすれば大丈夫」という風潮が強いように思います。特にお役所が絡む観光施設では、担当者がリスクを背負いたくないせいもあってか、この傾向が強い印象です。

「この施設、隣町にもありますよね」「この施設、べつにこの町でやらなくてもいいんじゃないですか?」と思うような施設が多く、自分が観光客として回っていてもワクワクしないことが多いというのが実感です。

そんな金太郎飴みたいなコンテンツづくりばかりが先行してしまった結果、「わざわざそこに行かなくても一緒」な残念な観光地が量産され、国内全体の観光の魅力が落ちてしまったのではと感じられてなりません。

「隠れた資産の活用」で守るべき基本スタンス

私たち白馬岩岳マウンテンリゾートでは、磨けばその会社や地域にとって宝物になるのに、何らかの理由で埋もれたままになっている「隠れた資産」を見つけ出し、磨き上げることで新たな顧客を呼び続けています。

その「隠れた資産の活用」にあたっての基本スタンスは以下のようなものだと明示的にスタッフに伝え、新しいアイデアを考えてもらうようにしています。

(1)うまくいっている事例を単にモノマネするのではなく、「白馬ならでは」「国内唯一、国内初、国内でいちばん」にこだわること。

(2)他事例については、「なぜうまくいっているのか」を自分たちなりに分析し、そのいい要素が何なのかを把握すること。

(3)自分たちが隠れた資産の活用を考える際には、他事例のいい要素を構成しなおし、新たな価値を付加すること。目指すのは「第三者の目から見て明確に独自のモノと認定してもらえる」こと。

こうすることで、新たなコンテンツをつくったときにもすぐに埋没することを避けられるようになり、お客さんやメディアなども認知しやすく、発信してくれやすくなるのです。

白馬マウンテンハーバーは、突き詰めれば「リフトやゴンドラで山の上まで上がって、展望を楽しむ場所」です。この構想自体は、決して珍しいものではありません

北海道にある雲海テラス、滋賀県の琵琶湖テラスもあります。近いところでは、山梨県の清里テラスや当社のグループ会社が展開している北志賀竜王のソラテラスもそうです。

岩岳山頂からの白馬三山の絶景が圧倒的な魅力を持つ「隠れた資産」だという点については強い確信がありましたが、こうした先行事例があるからこそ、しっかりとユニークさを押し出せないと、埋没してしまう危険性は否めません。

白馬マウンテンハーバーのユニークさは何か

社内での侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を経て出てきた最初の「ユニークさ」は、白馬三山に正対する眺めをストレートに表現することのできる、山を見せることに徹底的にこだわったデザインでした。

中でもいちばんのこだわりは、お客さんが、ある場所で「うわっ」と驚くような仕掛けです。

白馬マウンテンハーバーは、白馬岩岳のゴンドラ山頂駅から森の中を抜けて200メートルほど歩いたところにあります。そこに開けた白馬三山に正対する崖状の土地に、テラスとカフェ棟をつくりました。

このテラスに到着するまでは、森や建物がお客さんの視界を微妙に遮るように設計されています。テラスに入る際には橋を渡るのですが、これを渡っている間も両側に並ぶ建物が「額縁」のように視界を遮り、周辺の雰囲気がわからないようになっています。

そして、その「額縁」を抜けた瞬間、急に視野が開けます。白馬三山のみならず、鹿島槍ヶ岳や五竜岳、唐松岳、小蓮華山などの後立山連峰の眺めが、いっきに広がるようになっているのです。

@shiho_zekkei ここがカフェって信じられる?Can you believe this is a cafe? #Nagano #Japan #Hakuba #長野#白馬マウンテンハーバー #長野旅行 ♬ STAY – The Kid LAROI & Justin Bieber

実際、晴れた日には、そのポイントで必ずと言っていいほどお客さんは立ち止まり、「うわ~」という声を上げてくれます。私たちの独自性へのこだわり、眺望を生かすためのデザイン上のこだわりがうまくハマった瞬間です。

もう1つのデザイン上のこだわりは、座った視点から目の前にいる人が邪魔にならないようなテラスの設計です。スタジアムのような段を設け、前に座った人が後ろにいる人の目線を遮らないようにすることで、どこに座っても白馬三山に正対している感覚が楽しめます。

デザイン面での最後のこだわりが、モノマネ事例が散見されると先述した通称「タイタニック」です。タイタニックに立つと、360度大自然に包まれたような感覚が味わえます。もちろん写真スポットとしても最高に「映え」ます。

美味しい食事と絶景のダブル主演

もう1つの白馬マウンテンハーバーの「ユニークさ」は、「美味しい食事・コーヒー、オシャレな空間と絶景を組み合わせる」ことでした。

確かに絶景を売りにするテラスはいくつか先行事例がありましたが、絶景を見ながら本格的な食事やコーヒーを楽しむ、という売り出し方をしているところはどこにもないように感じました。

この点については、THE CITY BAKERYを運営するFONZさんと出会い、出店をしていただけたことが、劇的な差別化要素になりました。

THE CITY BAKERYは広尾や赤坂、銀座などの都心ハイブランドエリアに数多くの人気店を出店しているベーカリー・カフェです。そんなTHE CITY BAKERYさんに出店いただいたことが、施設開業直後からトップスピードでお客さんの集客が進んだいちばんの背景だったことは間違いありません。

「あのTHE CITY BAKERYの美味しいパンとコーヒーを、THE CITY BAKERYのいつものオシャレな店舗の中で、絶景とともに楽しめるらしい」

そんな口コミが広がっていきました。

これは結果論ですが、THE CITY BAKERYさんに出店していただいたおかげで、訴求ポイントがとてもわかりやすくなりました。「都会でも大人気のパンとコーヒー」×「オシャレな空間」×「絶景」と言われれば、白馬に来たこともないお客さんにも、その楽しさはなんとなく伝わります。

このわかりやすさのおかげで、実際に訪れてくれたお客さんの多くがSNS発信をしてくれるようになりました。私たちの知名度を大きく高めてくれたのです。

実際、開業後「#白馬マウンテンハーバー」「#hakubamountainharbor」をつけて投稿いただいたインスタグラムの投稿数は、すでに1万5000件を超えています。投稿された写真やコメントを見ても、食事や飲み物に言及してもらうケースがほとんどです。

単にモノマネをした展望施設をつくるのではなく、独自性にこだわったことが、このような成果につながっているのです。

脱「モノマネ」が日本には必要だ

今後、日本が本当の意味で「観光立国」を目指すのであれば、日本が抱える根深い「モノマネ」カルチャーから脱却することは不可欠だと思っています。

「モノマネ」カルチャーから脱却し、そこにある、そこにしかない、本当にポテンシャルのある「隠れた資産」を見つめ、それをどう活用するか。心の底から悩み、チーム一丸となって知恵を絞ることがないかぎり、本当に魅力的な観光施設、地方をつくることはできません。

読者の皆さんとこうしたプロセスを楽しみながら味わい、素敵な日本の観光地をつくっていける日が来ることを願ってやみません。

(和田 寛 : 白馬岩岳マウンテンリゾート代表)